第93話 突撃教授にインタビュー
「教授と祖父は、そもそもどういう関係だったんですか?」
教授が「なんでも聞いてくれ」と言ったのだ。
なら、遠慮する必要はない。
まずは、一番根本的なところから聞いてみることにした。
「始まりは、私のフィールドワークの護衛依頼からだね」
「護衛?」
「そう。私の初期の論文は読んだかな? 書籍にまとめられているものだよ。あれらの調査をしていたころ、重蔵さんに護衛をお願いしたんだ。三十年ほど前になるかな」
三十年。
俺が生まれるより、ずっと前の話だ。
「そのうち、フィールドワークにかかる護衛費について相談したことがあってね。そこで彼から、探索者としての立ち回りや、効率的な魔法の使い方、戦い方まで教わるようになった」
「護衛の人が、依頼人に戦い方を?」
「『君自身が戦えるなら護衛の人数を減らせる。その分、同じ予算でも調査回数を増やせるだろう』と言ってね」
「…………」
ああ——親父が言っていた『正義の味方』が、少し分かった気がする。
自分の仕事が減るかもしれないのに、それより教授の研究が進むことを優先したわけだ。
そして、それが教授が祖父を『先生』と呼ぶ理由でもあるのだろう。
「最後に祖父と会ったのは、いつですか?」
「三年前だね」
教授は少し考える。
「私自身も探索者として動くようになって、凪原君や写見君との共同研究が本格化してからは、なかなか時間が合わなくなっていてね。準備期間まで含めれば、そのあたりだったはずだよ。ねえ、凪原君?」
「あ、はい。私の記憶でも、そのくらいです」
三年前。
思ったより最近だ。
「祖父が二重人格みたいだったって、具体的にはどう違ったんですか?」
「一番分かりやすかったのは、ダンジョンでの立ち回りだね」
「立ち回り?」
「探索者の戦い方というのは、癖みたいなものなんだ。長年積み重ねた経験が形になっている。そう簡単に変わるものじゃない」
教授が、自分の手を眺める。
「それが、別人のように変わることがあった」
「どんなふうに?」
「重蔵さんは元々、身体強化を主体に戦う探索者だった。ところが時折、炎や氷を直接ぶつけるような魔法を主体にすることがあってね」
「戦い方そのものが変わった?」
「そう。そして次に会ったときには、また元へ戻っている」
「…………」
「もちろん、それだけで人格が変わったなどとは言えない。ただ、長く彼を見ていた私には、どうにも違和感があった」
話し方だけではない。
戦い方まで変わっていた。
探索者である教授だからこそ、気づいた違和感なのかもしれない。
「祖父が異形になった経緯を知っていますか?」
「残念ながら、それは分からない」
「教授も?」
「ああ。ある日会ったら、もうエルフになっていた。それだけだよ」
「祖父が『全員を異形にする』なんて考え始めたのは、いつからですか?」
「エルフになってから、しばらく経ったころだったかな」
「最初からじゃないんですね」
「少なくとも、私の前ではね。最初は冗談めいた雑談の中で出てきた話だったから、私も記録に残していないんだ」
最初は冗談。
それが、いつの間にか本気になった。
異形になったことと無関係とは、やはり思えない。
「祖父とダンジョン教は、具体的にどういう関係だったんですか?」
「それは、私にも詳しくは分からない」
「分からない?」
「前にも話したと思うが、探索者がダンジョン教から接触を受けること自体は、それほど珍しくない。装備や遠征費、研究費、治療費。彼らはいろいろな形で探索者を支援しているからね」
「祖父も、その支援を?」
「そこから先は分からない。探索者は基本的に自営業だ。誰から仕事を受けているか、誰から資金提供を受けているか。そういう個人的な契約関係を、同業者が必要以上に詮索しないという慣習がある」
「つまり……」
「重蔵さんがダンジョン教と接触していたことは知っている。しかし、どこまで深い関係だったのかは知らない。私から言えるのは、そこまでだね」
「じゃあ、教授自身はダンジョン教とどこまで関わってるの?」
鐘々が切り込んだ。
「自営業だから、本来なら業務上の話になるんだが……まあ、いいだろう」
教授は、あっさりと答えた。
「基本的には、ダンジョン教から調査業務を委託されて、それを請けている」
「……仕事を受けてるの?」
「そうだよ。主な内容は、ダンジョンの調査だね」
教授が指を折る。
「どのダンジョンで、何が採れるのか。どのような地形なのか。どんな魔物が生息しているのか。探索に際して、どの程度の危険が想定されるのか。そういった調査をして、報告書を納品する」
「それで、お金も?」
「もちろん。調査費用や研究費という形で、資金提供も受けている」
「…………」
おい、おいおい、思っていたより、だいぶズブズブじゃないか?
「ただし、教団の内部活動に参加しているわけではないよ。信者でもない。あくまで、仕事を発注する側と、それを請ける側だ」
「つまり?」
「雇用関係ですらないね。業務委託――もっと簡単に言えば、取引先だよ」
「それ、今まで黙ってたの?」
「聞かれなかったからね」
「そういうところなのよ!」
「このくらいなら、探索者でやっている者は多いよ。少し実務経験があれば、そこまで珍しい話ではないと思うのだけど……」
「…………」
すみません、俺たち……ペーパーなんで……。
探索者免許は持っている——が、持っているだけである。
「じゃあ、その関係で例の施設に入れません?」
「おそらく、入れるよ」
「……!」
「近況報告で近場のダンジョン教施設へ顔を出したり、探索者の側から営業をかけたりすることもあるからね。特に珍しいことではない」
教授が続ける。
「まして私たちのように、継続的に業務を委託されている立場なら、周辺にどんな関連施設があるのかくらいは、問い合わせれば教えてもらえる」
「…………」
「最初から教授に聞けばよかったんじゃ……」
思わず口から漏れた。
「いや、胡散臭いのが悪いのよ」
鐘々が即答する。
「それはフォローできないところだね」
凪原さんまで頷いた。
「凪原君?」
教授が、さすがに突っ込みを入れる。
「ただし」
「ただし?」
「私が入れるのは、あくまで表の範囲だと思っておいたほうがいい」
「いや、それでも助かります」
正面から施設へ入れる。
それだけでも、俺が一人で忍び込むなんて案より、よほど現実的だ。
「あ、そうだ」
「ん?」
教授が、こちらを見る。
「駆くん。君も一緒に来るかい?」




