第91話 正義の味方
「爺ちゃんって、どんな人?」
「……うーん、そうだなぁ。一言で言えば、正義の味方……かな」
「アンパンマン!?」
「アンパンマンではないけどね?」
親父は笑った。
「でも、そうだね。お腹を空かせている人がいれば、躊躇なく自分の身体を差し出せる。そういうところは同じだったかな」
「アンパンマンじゃん! すげぇ! 頭取れたりするのかな?」
「頭は取れないよ? ゲッターロボとかじゃないんだからね?」
「でも、それならなんでうちにいないの?」
「…………」
親父は、ほんの少しだけ黙った。
「正義の味方は忙しいからね」
そして、困ったような顔をして、こう言った。
「駆、お前はああはなるんじゃないぞ」
今なら。
親父が何を言いたかったのか、少しくらい分かる気がした。
◇
「……そう考えると、意味が違ってくるのか」
「何が?」
「『深山を巻き込むな』だよ」
二人がこちらを見る。
「俺たちは今まで、教授を警戒しろって意味で受け取ってた。でも、爺さんが本当に親父の言うような人だったなら……」
困っている人がいれば助ける。
そのためなら、自分を平気で差し出せる。
そして、そのせいで家族のところにすら帰ってこない。
「自分のやってることに、深山を巻き込むなって意味だった可能性もあるのか」
「ああ……」
凪原さんが、ゆっくりと頷いた。
「そのほうが、私の知ってる重蔵さんには近い気がする」
「それに、今思えば……その書き置きが祖父のものとは限らない」
あの家、警備は結構ザルだしな。
昔ながらの家なせいで、玄関の鍵はもちろん、侵入しようと思えばいくらでも方法はありそうだ。
魔法を使える現代なら、なおさらである。
そのうえで、ダンジョン教とかいう怪しい組織と絡んでいたとなれば、家に残されていたものすべてを祖父のものとして受け入れるのも間違いなのかもしれない。
いや。
そう思わせるために、凪原さんがこんな話をしている可能性だって——。
「…………」
凪原さんを見る。
いや、鐘々があれだけ信頼している相手を、いきなりそういう目で見るのもどうなんだ。
ただ……だからといって、俺まで無条件で信用する必要もない。
可能性として頭の隅には置いておこう。
「とりあえず、教授に話を聞いてみましょう」
「決まり?」
「はい。もしかしたら、ダンジョン教とのパイプもあるかもしれませんし。強行手段に出なくても、中を見ることができるかもしれません」
「あー。名刺交換とかはしてるみたいだしね」
凪原さんが言う。
「元からの関係者なら、というルートでの調査ね」
鐘々も頷いた。
「それじゃあ、外に出て教授と連絡を取るか」
「早く通信設備ができると楽なんだけどね」
「昨日の今日でそれは無理だろ。コアちゃんシステムも使ってないんだし」
「そういえば、コアちゃんは?」
「なんか、猫の大群を引き連れて草原を走ってたわよ」
「何してるんだ、いったい……」
なんか微笑ましい光景だ。
「話は終わりましたかな?」
「ああ、とりあえずは——」
そこで振り向き。
固まった。
「…………」
凪原さんも。
鐘々も。
全員、まったく同じ反応をしていた。
いつの間にか。
気配もなく。
全裸の教授が、そこに立っていた。




