第87話 これなら怒られないな。よし!
コアちゃんの話をしたあと、せっかくなので、互いに打ち解けるためにもいろいろと話をすることにした。
食べ物や飲み物は、暦の家から持ってきてもらった。
ついでに、今のところ無駄に建っている新築の一軒は、正式に話がまとまれば写見さんが使う、ということで話が進んだ。
あの、どこぞのファーストフード店みたいな建物を使ってもらってもよかったのだが……。
まあ、機材が増えてきたら、研究施設として使うこともあるかもしれない。
そんな感じである。
最初は他愛のない話だった。
互いの近況。
これまでやってきたこと。
仕事の話。
教授への愚痴。
まあ、普通の日常会話だ。
教授への愚痴が日常会話に含まれていいのかは知らない。
ただ、ものすごく盛り上がったことだけは伝えておこう。
やはり、服は着ていただきたい。
そして——七築の話になったところで、全員の顔が曇った。
「…………」
「…………」
「…………」
いや、明るく話すような内容ではないのだが……。
うん。
見事な曇りっぷりであった。
そこからはまあ、それぞれの「異形になって大変だった話」にでもなるかと思ったのだが――。
意外にも、そこは大丈夫だった。
出てきたのは、異形であることへのちょっとした愚痴くらい。
玄関が狭いとか。
服が合わないとか。
普通の生活用品が使いにくいとか。
その程度で済んだ。
みんな、大人だな。
「…………」
いや。
違うな。
トラウマが深すぎて、今の関係性では話せないだけだな。
「そういえば、その翼……だいぶ面倒あるんやないか?」
七築が、凪原さんの背中へ目を向けた。
「ああ。あるよ。めちゃくちゃある」
待ってましたとばかりに、凪原さんが答える。
「まず、背もたれのある椅子には座れないだろ。狭いところには入りにくいし、服も専用品じゃないと無理。風呂に入れば羽が水を吸って重くなるし、そのあと乾かすのにも時間がかかる」
「なるほどなぁ……」
「あと寝るときも面倒だし、気に入った服も着れないし、車も選ぶし、電車も混んでる時間は最悪だし――」
そこから……凪原さんの愚痴は、止まらなかった。
そして、その話を七築は興味深そうに聞いている。
「なるほどな。参考にさせてもらうわ……コアちゃーん」
「待て! ストップ! コアちゃんも行くな!」
「いや、まだ何も言うてへんやん!」
「今、建物を増やしたら白根にマジで怒られるから!」
「くっ、勘がいいやつやな」
「いや、誰でも分かるやつだからね? 今の振りは」
「なんというか、コントみたいになってますね」
写見さんが冷静に呟く。
「しゃあないなぁ……また今度な」
「…………」
うん。
これ、絶対にやるわ。
間違いなく、やる。
なら、いっそ——やらかすなら、管理下でやらせたほうがいいのではないだろうか?
いや、白根に相談してからだな。
うん、そうしよう。
そこで、ふとスマホを取り出す。
当然、画面には圏外の表示。
そして——写見さんを見る。
「あの、住む前に通信インフラを整えることって、できません?」
「通信インフラですか?」
「はい」
俺は窓の向こうへ視線を向ける。
そして、草原にぽつんと建っている、例のファーストフード店みたいな建物を指さした。
「あれとか使って」
「なるほど」
写見さんが、建物へ目を向ける。
タブレットを取り出し、なにかアプリを起動させて——なにやら考え込んでしまった。
そうだよ。
住むかどうかは、まだ置いておくとして——通信環境を整えるのは、また別の話だ。
それなら、新しく建物を増やす必要もない。
通信機器を設置するのも、すでにある建物を使えばいい。
これなら白根にも——。
「…………」
いや。
怒られない、とまでは言い切れないな。
でも……新しい建物を勝手に増やすよりは、怒られない。
……………………たぶん。
よし!




