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第80話 ダンジョンを散歩しよう!

 教授に連れてこられた場所。

 そこは、完全に山の中だった。


「あの、通信に関する専門家が、こんなところにいるんですか?」


「ああ。ここから、まだ少し歩くことになる」


 そう言いながら、教授は車のトランクを開け、荷物を取り出していく。


 最初に出てきたのは、細長いバッグだった。


 ゴルフバッグか?

 いや。あれは……。


「剣……?」


「トゥーハンドソード。私の相棒だよ」


「え。教授、どこに行くつもりなんですか?」


 さらに教授はバックパックを背負い、ベルトには鞭のようなものまで取り付けていく。

 おいおい。まさか……。


「ダンジョンだよ」


「ダンジョン!?」


 教授は何でもないことのように答えると、バッグの中からもう一本、長剣を取り出した。


「君はこれを」


「え、俺も?」


 渡された長剣を受け取る。

 ずしり、と手に重みがかかった。


 初めて持つ本物の長剣に、心の中の中学生がちょっと騒ぎ始める。


 剣だ。

 本物の剣だ。

 ちょっと振ってみたい。


 ――いや、それどころじゃない。


「いやいやいや! ダンジョンって!? こんなところにあるんですか!? 誰にも管理されずに!?」


「ここは管理地だよ。管理者もいるし、立ち入りの許可もきちんと取ってある」


 教授はバックパックの位置を直す。


「さあ、来たまえ」


 そう言うと、ずんずんと森の中へ入っていった。


「…………」


 通信の専門家に会いに来たんじゃなかったのか?


 なんでダンジョンへ向かってるんだよ。


 ◇


 そして、問題のダンジョンは――。


「これ、入口なのか?」


「そうだよ」


 地面に開いていた。

 

 文字通り、地面に穴が開いている。

 下を覗き込んでも、途中から暗くて何も見えない。

 

 落ちれば、そのままダンジョン内部。

 しかも、自力で這い上がるのは難しい。


 なんとも悪質な入口である。


 近くには太い杭が打ち込まれ、そこから一本の鎖が穴の中へ向かって垂らされていた。

 ロープ代わり、ということだろうか。

 一応、周囲はトラロープで厳重に囲われている。


『進入禁止』

『危険』

『ダンジョン入口あり』


 そんな看板が、これでもかというほど立てられていた。


「身体強化に自信がないなら、その鎖を伝って降りなさい」


「あ、はい」


「では、先に行っているよ」


「え?」


 教授はそう言うと――。


 ぽん、と。


 何の躊躇もなく、穴の中へ飛び降りた。


「…………」


 いやいやいや。


 待て待て待て。


 急いで鎖を伝い、ダンジョンの中へ降りていく。


 内部は、ごつごつとした岩肌の壁が目立っていた。

 表面は濡れているのか、光をてらてらと反射している。

 入口付近の壁はネズミ返しのような形になっており、岩肌を伝ってダンジョンの外へ出るのは不可能なように見えた。


 入口から地面までは、およそ建物三階分くらいだろうか。


 結構な高さだった。


 そして、その地面では――。


 教授が、服をバックパックへ仕舞っている最中だった。


「…………」


 下半身はズボンのままなので、よしとする。

 いや、よくはないかもしれないが、いまはいい。


「さて、行こうか」


「はい……」


 とりあえず、教授についていく。


 ここで先に断っておくが、ダンジョン内での戦闘について、俺は完全に置物だった。


 というか――教授が、くそ強い。


 サーチ&デストロイ。


 その言葉が、これ以上ないくらいよく似合う。


 狼のような魔物がいる。

 そう思った次の瞬間には、もう教授がそいつの目の前にいる。

 そして、一撃で首を刎ねる。


 だいたい、そんな感じだった。


 とにかく、身体強化の魔法のレベルが違いすぎる。


 速い。

 強い。

 そして、迷いがない。


 あ、探索者ってちゃんと戦えるんだぁ――とか、そんな感想を抱くようなレベルではない。


 そもそも考えてみれば当然なのかもしれない。

 

 ダンジョンなんて、毎回都合よく大当たりが出るわけでもない。

 そんな場所へ何十年も潜り続け、今なお生き残っている変態どもである。


 格が違う。

 そんな感じだった。


 そんな感じでダンジョンの中を歩き続けて、一時間ほど経ったころだろうか。

 前方に、テントが見えてきた。


「……テント?」


 いや。


 キャンプで使うような個人用のものではない。


 ひとつ、ふたつどころでもなかった。

 かなり大掛かりなテントがいくつも並び、その周囲には資材らしきものまで積まれている。


 テント村。


 そう呼んだほうがしっくりくる規模だった。


「な、なんですか、これ」


「すぐに分かるさ」


 教授は慣れた様子で、そのままテントのほうへ近づいていく。


「おーい、凪原君、写見君。私だよー」


 ずいぶん気軽に声をかけた、その次の瞬間だった。


 ギィンッ!


「うおっ!?」


 金属同士が激しくぶつかる音がダンジョン内に響き渡る。


 巨大な鳥――いや、違う。

 羽根の生えた、異形の女性?

 その女性が教授の眼前まで一気に飛び込み、巨大な鉈を振り下ろしていた。


 そして教授は、それをトゥーハンドソードで軽々と受け止めている。


「服は着てこないと斬るって言っただろうが!」


「斬られてないから問題ないねぇ」


「そういう問題じゃねえ!」


「…………」


 この変態――やはり他所でも迷惑をかけているようだった。

 

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