第76話 あれれ~おかしいぞぉ?
「あのね。私は未来の猫型ロボットじゃないんだけど?」
「助けてくれよ、カネえもん」
「カネえもん言うな。なんかパチもんみたいに聞こえるでしょ」
「でも、友情テレカでやってきそうじゃないか?」
「友情テレカって何よ……?」
「やっぱり厳しいかなあ」
「あー、いや。そういうわけじゃなくてね……もう、やるわよ。やる」
「さすがだぜ、カネえもん!」
「やめなさいっての!」
なんだかんだ言いながら、引き受けてくれるあたりは本当に頼りになる。
「まあ、冗談はここまでにして……やっぱりあるのか? そういうルートが」
「うん。お兄さんが私をどう見てるのかは、よーく分かったよ……」
鐘々が、じとっとした目を向けてくる。
「要は、秘密裏に家族と七築を会わせたいってことでしょ?」
「そうなる」
「んー。まず、いくつか段階があるんだけど……家族の安否確認。これは簡単にできるわ」
「そ、それなら頼むわ!」
「頼まれなくても、これはやるわよ」
よかった。
少なくとも、七築の家族が無事なのかどうかは確認できそうだ。
「で、次に、声だけでも聞かせるってことに関してだけど……これも、たぶんいける」
「足はつかないのか?」
「やり方次第だけど、大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、難しいのは――」
「家族をここへ連れてくることね。さすがに、監視はついてると思う」
「監視、か……」
逃げた七築が、家族と接触を図る。
そんなことは、誰にでも容易に想像がつく。
むしろ、監視がついていないほうが不自然だろう。
電話だけではない。
郵便物や、家族の外出先まで確認されている可能性もある。
下手なことはできないか。
「一応、監視を振り切って、ここへ来てもらう方法もあるよ?」
「そんな便利な方法があるなら――って、なんだその指は」
鐘々の人差し指が、俺へ向けられている。
いや。
正確には、俺の右腕へ。
あー。 それね?
「いや、分かってるでしょ?」
「ああ。分かってる。そのうえで、ものすごく痛いので最終手段にしたいと考えている」
「まず間違いなく、追手は振り切れるんだけどね。それ」
「瞬間移動みたいなもんだもんな……」
俺が家族のすぐ近くまで行き、あの入口を開く。
そこへ入ってもらえば、一瞬でコアちゃんダンジョンまで移動できる。
追跡する側からすれば、人間が突然消えたようにしか見えないだろう。
「ただ、お兄さんの顔が割れると厄介だから、あんまり使いたくはないよね」
「確かにな」
あの能力を見られる。
それだけなら、まだいい。
問題は、その先だ。
俺自身がダンジョンとつながっている。
いや、俺の身体そのものが、ダンジョン由来の物質でできている。
そんなことまで知られれば、間違いなく七築以上に厄介なことになる。
それくらいは、容易に想像がついた。
「とりあえず、まずは安否確認ね。あとのことは、それ次第で考えるってことでいい?」
「それは構わへんけど……どうやるん?」
「難しいことじゃないわよ。探偵を使う」
「探偵……」
なるほどな。
「でも、探偵を使ったってことで、こっちまで辿られたりしないのか?」
「甘いわね。世の中には、匿名で調査を仲介してくれるプラットフォームってのもあるのよ」
「匿名で探偵を雇えるのか?」
「正確には違うわ」
鐘々が、人差し指を立てる。
「運営会社は依頼人の身元を把握してる。でも、実際に調査する探偵には、その情報を渡さないの」
「どういう仕組みなん?」
七築が興味深そうに尋ねる。
「まず、依頼人がプラットフォームに登録して本人確認をする。そこから調査内容を送ると、運営側が審査して、登録されている探偵や調査会社へ仕事を割り振るの」
「その探偵には、誰が依頼したか分からんの?」
「基本的にはね。探偵側に見えるのは、依頼人の名前じゃなくて、プラットフォームが発行した依頼者IDと、調査に必要な情報だけ。メールアドレスや電話番号、住所なんかも直接は渡らない」
「へえ……」
「連絡も全部、プラットフォーム経由。だから探偵と依頼人が、直接やり取りする必要もないわ」
「なるほどな……」
鐘々から直接、探偵へ依頼するわけではない。
間にひとつ、運営会社を挟む。
そうすることで、実際に調査する人間から鐘々へ、直接線が伸びるのを防ぐわけか。
「でも、それだと金のやり取りはどうするんだ?」
「そこも仲介するのよ。エスクローって仕組みを使う」
「エスクロー?」
「依頼料を、いったんプラットフォーム側に預けるの。調査が終わって、ちゃんと報告書が納品されたことを確認したら、そこから探偵側へ支払われる」
「ほう」
「依頼人が調査だけさせて金を踏み倒すのも防げるし、探偵が金だけ受け取って消えるのも防げる。何か揉めたら、運営側にやり取りの記録も残ってるから、返金やペナルティの判断もできるわ」
「そこまでやるんか……」
「そういうところに需要があるってことよ」
「でも、それなら絶対に足がつかないのか?」
「絶対なんて言う業者は、逆に信用しちゃ駄目」
鐘々が即答した。
「運営会社まで辿られれば、当然、依頼人の情報はある。法的に必要なら開示されることだってあるでしょうね」
「じゃあ、今回使う意味は?」
「探偵から直接、私たちまで辿れない。それで十分よ」
なるほど。
もし、七築の実家を調べている探偵が研究所側に見つかったとしても、そこからすぐに俺たちへつながるわけではない。
まず探偵。
その向こうに匿名仲介のプラットフォーム。
さらに、その先に鐘々。
最低でも、それだけの壁を挟める。
「今回は家族が無事かどうか確認するだけでしょ? 簡単な調査なら、わざわざ私が普段使ってる人間へ頼むより、こういうところを使ったほうがいいのよ」
「す、すごいなあ……どうして、そんなもん知っとるんや?」
「こういう仕事って、普通に需要があるのよ」
鐘々は平然と答える。
「浮気調査なんかでも、自分が疑ってること自体を相手に知られたくない人はいるでしょ? ほかにも、調査の内容によっては相手から恨みを買うこともある。依頼人と調査員を直接つなげないこと自体に、価値があるのよ」
「……なるほど」
「普通に探偵へ直接頼むより、仲介手数料が乗るぶん割高になるけどね。でも、今回みたいな案件なら十分使えるわ」
マジで、金を稼ぐということについては嗅覚がえぐい。需要を考えるな。
「使ったことあるのか?」
「ないよ」
「じゃあ、なんでそんな詳しいんだよ」
「一時期、仲介手数料で儲からないかなって調べたんだけどねー……」
鐘々が、遠い目をする。
「もうすでにやってるやつがいて、『糞がよぉ……』って思いながら撤退した、若き中学生の頃の思い出がね……」
「お前は本当にブレないな。つか、中学生が考えることじゃねーだろ」
「国民向けの探偵アニメのおかげね」
「国民向けの探偵アニメも、まさかそんな発想を中学生にさせる目的で放送してねーんだわ」
まあ、なんにしろ。
七築の家族の安否確認については、なんとかなりそうだ。




