第62話 オレ、ゲンダイジン
「UMAって、どういうことだ?」
俺は、興奮する鐘々へ問い返した。
「というか、金の亡者であるお前が、どうしてUMAを追うことになったんだよ」
UMA。
未確認生物。
代表的なものとしては、ツチノコやネッシー、ビッグフットなどが挙げられるだろう。
まあ、要するに与太話というやつだ。
「いやさ、なんか賞金が懸かってるんだよね」
「なるほど。でも、絶対に見つからないやつだろ?」
「ふふん。甘い、甘いよ、お兄さん」
鐘々は、得意げに人差し指を振った。
「見つからないのは百も承知。見つからないなら、作ればよろし!」
あ。
分かった。
「鐘々。つまりお前は、あれか?」
「なにかな?」
「UMAの死体か何かを、コアちゃんに作らせようと……?」
「よく分かったね……」
「うん。どこぞの葛飾区のお巡りさんみたいなことを言い出して、どうしようかと驚いているところだ」
俺が最後に、『鐘々はどこへ行った!?』と叫ぶようなオチは嫌だぞ。
「まー、そこは冗談だけど」
本当に冗談だろうか?
こいつは、やると言ったら本当にやるからな……。
「それで、実際にはどうしたんだ? UMAなんて」
「ああ、うん。実はね、鱗ヶ池で人が泳いでいたって話があるんだよ」
「人?」
鱗ヶ池。
昔は農業用の水源として使われていた関係で、かなり深い池だったはずだ。
そのうえ、いろいろな人間が勝手に魚を放流してきた結果、今では多国籍魚類のサラダボウルとまで呼ばれる、混沌とした池である。
そんな場所で泳いでいる人間?
いるわけがない。
「見間違いじゃないのか?」
「だから、UMAじゃないかって話になってるんだって」
「だとすると……異形か?」
いや。
まさか、そんな。
異形化したからといって、池で暮らすようになる人間がいるだろうか?
正直、想像もできない。
だが、最近の俺は、嫌な噂や社会の裏側をいろいろと知ってしまっている。
そんな人間はいない。
そう断言することも、もうできなかった。
「分かった。見に行こう」
「お兄さんなら、そう言うと思ったよ」
猫たちの受け入れを暦に任せ、俺はコアちゃんを連れて、鐘々とともに鱗ヶ池へやってきた。
だが――。
「人、いないな」
「あれ? もっと騒ぎになってると思ったのに……」
池の周囲を見回してみても、釣り人が数人いる程度だった。
UMAを一目見ようと、大勢が集まっている様子はない。
「そもそも、賞金ってどこから出た話なんだ?」
「ここの町内会のおじさんたちだね。村おこしに使えるかもしれない、とか言ってたし」
「つまり、まだ正式に決まったわけじゃないと」
「だから、本気じゃないって言ったじゃん」
言っていただろうか?
少なくとも、UMAの偽物を作ろうとしていたことは覚えている。
「それで、UMAはどこにいるのじゃ?」
コアちゃんが、池を見渡しながら尋ねる。
「さあ……?」
鐘々は、首を傾げた。
ちなみに、コアちゃんの手には、魚を捕まえるためのたも網が握られている。
UMAが見つからなくても、魚さえ持ち帰ることができれば、俺たちとしては万々歳だ。
鐘々が、池の水面を眺める。
「それで、そもそもどうやって探すんだ?」
「んー……電気漁でも試そうかなって」
今、なんと言った?
「待て待て待て待て。電気?」
「バチッとやれば、魚が浮いてくるじゃない? 外来魚の駆除や魚類調査で使われる程度の出力に抑えるから、大丈夫だよ」
「いやいやいや。その電気は、どこから出てくるんだよ」
発電機でも持ってきたのかと思ったが、自転車の荷台には何も積まれていない。
鐘々は、呆れたような顔で俺を見る。
「お兄さん。本当に現代人?」
「原始人に見えるか?」
「現代には、魔法という便利なものがあるのよ? お分かり? それとも、学校の成績が悪かったほう?」
「魔法なら使えるが……」
いや、待て。
「電気を、魔法で?」
「そう。いわゆる電撃魔法ってやつね」
「腕が焼けるぞ。やめておけ」
「いや、なんで腕が焼けるのよ……」
鐘々が、本気で引いた顔をした。
「知らないのか? 電気魔法というのは、体内のイオンを高速で移動させ、電荷を一か所へ集中させることで――」
「怖っ! 何言ってるの!?」
「え?」
「なんで自分の身体を発電機にしてるのよ!」
「違うのか?」
「そんなことしなくても、電気なんてその辺にあるでしょ」
鐘々は人差し指を立てると、教師のような口調で説明を始めた。
「空気を局所的に電離させて、対象までの導電路を作る。そこへ周囲の電荷を集めて、電位差を生み出せばいいの」
「どういうことだ?」
「体内で電気を作るんじゃなくて、外にある電気を操作するの。お分かり?」
「……同じじゃないのか?」
「全然違うよ」
鐘々は、憐れむような目で俺を見た。
「うん。お兄さんは魔法を学び直す前に、化学と物理を学び直したほうがいいと思う」
どうやら俺は、これまで電撃魔法だと思っていた何かで、自分の腕を焼いていたらしい。




