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第43話 類は友を呼ぶ(不本意)

 数日後、再審査の日がやってきた。


 倉庫の前。

 庭では鐘々がすでに待機しており、なにやら物々しい機械を操作している。


 鐘々が調達した、簡易魔力測定器……簡易……?


 これ、簡易か?


 どう見ても一般人が使うものではない。

 なんというか、業者が使うやつに見える。


 ていうか、これどこから買った?

 どんな入手経路を使った?

 白根、あとで調べるって言ってたぞ?

 本当に大丈夫なやつか、それ?


 ――不安だ。


 鐘々は問題ないと言っていたが、不安だ。

 いや、こいつはその辺のリスクマネジメントはしっかりしている。

 損になるようなことはしないはずだ。


 そうなると、余計に怪しいんだが……。

 どんな繋がりを持ってるんだ、おまえは。


 機械をいじる様子を、興味深く眺めるコアちゃん。


 暦は、来客のための準備をしている。


 みんな、頼りになるなぁ。


 ……俺?


 俺はほら、俺の仕事はこれからだから……。


 怠けてるわけじゃないから……。


 そうこうしていると、白根が到着した。


 白根と一緒に、イケオジが家の敷地に入ってくる。


 そう、イケオジだ。

 ダンジョンの専門家とやらだろうか?


「はじめまして。私は、こういうものです」


 差し出された名刺を見る。


 永廊大学 迷宮生態学研究室 教授

 迷宮研究家みやま 深山蔵人くろうど


 深山蔵人。


 みやまくろうど、と読むらしい。


 見た目は、四十代半ばから後半だろうか。

 背は百八十くらいある。

 俺よりも高い。

 加えて、精悍な顔つきに、ダンディに生やした髭。

 髪の毛には白いものが混じっているが、それがまた大人の色気を醸し出している。

 サングラスが似合いすぎている。


 本当に研究家なのか?


 クトゥルフ神話を研究しているディレッタントだと言ってくれたほうが説得力がある。


「安心してください。大学で教鞭を執り、論文もいくつも提出している、界隈では有名な方です」


「インディ・ジョーンズに憧れていましてね。私自身も、フィールドワークのためにダンジョンへ潜ることがありまして。探索者としても活動しているんです」


 なるほど、探索者ね。


 それでこの見た目なのか。


 想像していたよりも本格的な人が来たな。


「それでは、早速ダンジョンを見せていただきたいのですが」


「分かりました。こちらです」


 早速か。


 適当に話をしてからだと考えていたが、展開が早い。


「ほう。そちら、魔力測定器ですね。私が持参したものよりもよいものですね。こちらは使わせていただいても?」


 鐘々の持ってきた魔力測定器に対するリアクション。


 これだけで、俺たちよりもダンジョンに関する知識が多いことがうかがい知れた。


 調査も慣れているのだろう。


 鐘々が返事をすると、深山教授は手慣れた手つきで操作を始める。


「問題はなさそうですね。では、中に持っていきましょう。ああ、私が運ぶので、あなたは手伝わなくて結構ですよ」


 結構な重量があるはずの魔力測定器。


 少なくとも俺は、鐘々に運ばされたとき、魔法で筋力強化をしてもプルプル震えていたものだが……。


 この人、すっと持ち上げたぞ。


 おそらく、強化魔法を使っている。


 だが、その動きに淀みがない。そのうえ、魔法の行使もノータイムだ。


 探索者としてダンジョンに潜っているというのは、本当なのだろう。もしかすると、結構名の知れた探索者なのかもしれない。


 俺はコアちゃんダンジョンのドアを開け、中へと案内した。


 深山教授は、しばらくの間、草原と青空、吹いてくる爽やかな風を味わうように立っていた。


 探索者とのことだが、こういったダンジョンは珍しいのだろうか?


 ん?


 なんか今、震えてなかったか?


 変な表情を浮かべたような……。


 気のせいか?


 なにか薄ら寒いものを感じたが、その後の調査は実に淡々としたものだった。


 機械を使い、数値を記録していく。


 非常に手慣れている。この前来た元先輩なんかより遥かに手際がいい。


 結局、誰の手も借りず、半刻もかからずに調査を終えてしまった。


 本当にこれで大丈夫なのか?


「ふむ。とりあえず暫定的ですが……終息迷宮と決定づけるのは、まだ早いかもしれませんね」


 おお!


「ただ、きちんと結果を出すには、まだ調べることがあります。正式な記録は白根さんのほうで保管していただくとして、私は解析用の写しを預かります。所見をまとめたうえで、協会ではなく、まず白根さんにお渡しします」


 とりあえず、首の皮一枚繋がったか。


「では、再調査はここまでですね。結果が分かり次第、網代さんには私のほうから連絡を差し上げます」


「分かりました」


 白根が先に扉をくぐる。


 深山教授も――通り過ぎる際、一言。


「個人的にお話ししたいことがあります」


「えっ」


 不穏な言葉を残して、深山教授は外へ出ていった。




 解散してから一時間後。


 我が家の居間には――深山教授の姿があった。


「迎え入れていただき、ありがとうございます。ご安心ください。白根さんには別件があると伝えてあります」


「あの、いったいなんでここに……?」


 暦がお茶を出しながら、疑問を口にする。


「いえね。こちらのダンジョンで気になる点がございまして……。ですが、おそらく白根さん、正確には協会に知られると厄介になると思いましてね」


 その言葉に、警戒レベルを上げる。


 いったい何を言うつもりなのだろうか?


「まず、お願いがあります」


「なんでしょうか?」


 その直後。


「私をもう一度! ダンジョンに入れてください!」


 ダンディな紳士の綺麗な土下座が決まった瞬間であった。


「は?」


「え?」


「どゆこと?」


 俺たちも急な出来事に困惑している。


「あのような美しいダンジョン、初めてなのです……。できれば仕事ではなく、プライベートな場で、この目に焼き付けておきたい……」


 美しいと言われて、土下座する紳士の後ろでコアちゃんが嬉しそうにしている。


 そのとき、深山教授の視線が、ほんの一瞬だけそちらへ向いた気がした。


「ぷ、プライベート、ですか?」


「ええ、プライベートです。仕事ではありません。そんなこと抜きに、先ほどのダンジョンをもっと楽しみたいのです」


 まさか、あんな草と空しかないダンジョンに価値を見出す人がいるとは思わなかった。


 というか、さっきから口調のテンションがこう、遠足の前の日の小学生のような、そんな雰囲気をビシビシ感じる。


 あ、コアちゃんが早く入れてやれというサインを送っている。


 口に出さないのは偉いぞ。


「分かりました。早く顔を上げてください。というか、なんで土下座なんですか」


「無理なお願いなのは承知しています。私にできる最大の礼儀を尽くしたまでのこと」


 こう、第一印象とは全然違う。


 面白い人だな。


 そう感じた。


 このときは。


 コアちゃんダンジョンに再度入る。


 コアちゃんダンジョンに足を踏み入れた深山教授は、急に駆け出した。


 ジャケットを脱ぎ去り、ネクタイを捨て、シャツのボタンを外しながら、両手を広げる。


 え、何してんだこの人?


 おいおい待て待て!?


「さぁ! 本当のきみを見せてくれ!!!」


 ジャケットとシャツを脱ぎ捨て、鍛えられた上半身を晒しながら、深山教授(変態)は叫んだ。


 それはそれは、大きい声だった。


 俺は思った。


 また変なのがやってきた。


「類は友を呼ぶ……?」


 暦が後ろで俺のほうを見て何か呟いた。


 やめろ。


 俺を(メイン)にするな。


 俺が呼んでるみたいになるだろ。


 友にしろ、せめて友のほうにしてくれ。


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