第38話 規則や法律にも穴はあるんだよなぁ
さて。
ジタバタ、もとい悪あがきをさせてもらうため、俺たちは図書館へとやってきた。
なんだかんだで、ここも結構因縁めいた場所になってきたな。
相変わらず役目を放棄したままの噴水を横目に、図書館へ入る。
今回の目的は、白根の言っていた終息迷宮に関する制度の確認。
そして、その制度に穴があるのかを確かめること。
これが最優先事項となる。
俺にとって、あのとき聞いた終息迷宮に関する制度は初耳だった。
そのため、なんの反論もできず、正論パンチに沈むことになったわけだが……そう、ここに大きなヒントが隠されている。
俺は、迷宮と不動産の管理やらトラブル対応を、それなりの数こなしてきた。
その過程で、終息迷宮に関する規則を聞いたことがない。
昨日の旧先輩――いや、現地確認担当の職員もそうだ。
まるで「そんなの初耳ですよ」というリアクションだった。
加えて、宅建資格を持っていたと豪語していた鐘々。
少なくとも不動産絡みの制度に敏感な彼女でさえ、この制度に関しては無知であった。
これが示す答え。
それはつまり、この制度は、少なくとも一般の不動産実務で扱うような法令には、まだ明確に定められていないのではないか、ということだ。
もしかすると、法的な強制力を持たないかもしれない。
それを確かめる必要がある。
まず探すべきは、法律そのものではない。
告示。
通達。
自治体の運用要領。
協会のガイドライン。
そういう、法令と現場の間に挟まっている、責任の所在がやたらとぼやける書類たちだ。
「浅葱さん、さすがに今回の内容に関する本は……」
「すみません。法律とかは、さすがにチェックしていなくて……」
それはそう。
彼女は暗記はできるが、法の解釈はできない。
というか、法を調べて漫画にするとか、さすがに特殊技能な気がする。
そもそも法は、作画の資料にはなりにくいだろう。
「仕方がない。司書に聞くか」
仕事をするかどうか怪しい司書に聞いてみることにする。
というか、鐘々がすでに受付で何やら話をしている。
フットワーク軽いなぁ……。
あ、なんかこっちに戻ってきた。
「場所、聞いてきたよ。こっちだってさ」
「仕事が早すぎる」
どうやら、ちゃんと仕事ができる司書だったようだ。
仕事しなさそうとか、偏見で決めつけてしまって申し訳ない。
いや、鐘々だからうまくいったという可能性も否定はできないな。
こいつ、人の間に入り込むのがうまいからな……。
油断していると、こちらも懐から金を抜き取られるかもしれない。
詐欺とかに手を染めないように、目を光らせておかないとな……。
「なんか失礼なこと考えてない?」
「そんなことはない」
「ウソだ」
「ソンナコトナイヨ」
「棒読みだ!」
「仲いいですね」
「「ソンナコトナイヨ」」
「仲いいですね……」
「のう、妾は何をすればよい?」
コアちゃんが、不思議そうにこちらを見上げてくる。
「コアちゃんは、お勉強だ。浅葱さん、頼めるかな?」
「今回は手伝えそうにないですもんね、わたし。分かりました」
「いや、コアちゃんの面倒を見てくれるだけで、だいぶ助かる。というか、コアちゃんにまともな教育を受けてもらうために、ちゃんとした本を選んでほしい。浅葱さんにしかできないから頼むよ」
放っておくと、本当に変な本しか読まないし、コアちゃん。
「分かりました。お任せください」
「お任せしました」
これで、コアちゃんの教育は大丈夫だろう。
少なくとも、鐘々に任せるよりずっと信頼できる。
「また失礼なこと考えてない?」
「ソンナコトナイヨ」
そんなことはないぞ。
失礼なやつだな。
◇
こうして見ると、ダンジョン関連の本は、色々と怪しいものが多すぎる。
『迷宮管理制度白書』
『迷宮運営基準総覧』
『ダンジョン教について』
『危険区画等級判定ガイドライン』
もはや、どれがどれだよ。
とりあえず、奥付や裏表紙を確認して、異形居住安全審査協会の文字を探していく。
他のところが出した制度の可能性もあるが、まずはここだろう。
自分の組織が出した制度だとして考えるほうがしっくりくる。
裏表紙で出版元を確認したら、中身をぱらぱらと斜め読みしていく。
図書館技能でぱーっと成功、情報獲得!
とかなら楽なのにな。
鐘々も真剣に本の中身を確かめている。
こうしてみると美人なんだがな……中身が残念すぎる。
っと、集中しないと……。
うん?
「鐘々、こっち来い。これ」
「お? 見つけた? ……なるほど」
「これ、そういうことだよな?」
鐘々に資料を見せる。
「ふむ……あー、うん。そういうことですねぇ、旦那」
「悪代官と商人じゃないんだぞ」
「似たようなもんでしょ、これからやろうとしてるのは」
「だいぶ違うと思いたい」
「で、これ確認なんだけど……っていうことだよね?」
「あぁ、それで間違いない。少なくとも、これを読む限りはな」
「でも、これだけじゃ足りないよね?」
「それなんだが、こっちの資料が使えると思う」
「……なるほど。あとは裏付けだね」
「裏付けのほうは、俺でやっておく。鐘々には別の仕事を頼みたい」
「うん、言わなくても分かるよ。いまから行ってくるから、今夜までには用意できると思う」
「話が早くて助かる」
「もっと褒めてもいいんだよ?」
「……いくら払えばいい?」
「そこで金銭要求するほど腐ってないよ!?」
「えっ!?」
「えっ!?」
「あ、あの、もう少し静かにしたほうが……声、響いてますよ」
「「すみませんでした」」
「……仲いいですね」
いかんいかん。
思いがけずテンションが上がってしまった。
とりあえず、鐘々も俺と同じ結論に至ったようだ。
この終息迷宮に関する規則の穴は見つけた。
さぁて、どうしてくれようか?




