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第116話 柔軟性を維持しつつ臨機応変に

 白根を座敷牢の外へ出す。


 白根は外に出ると、その場で腕を動かしたり足を踏み出したりと、軽く身体を動かしていた。

 何かを確かめているようだったが、やがて眉をひそめる。


「どうかしたのか?」


「変な感覚です……」


「変?」


「自分の身体なのに、今までどおり動かせないような……」


「ああ……異形化の影響か」


 異形化は、身体そのものを大きく変える。

 そのため、異形になった直後に感じる違和感も人それぞれだ。


 身体の大きさが変われば、今までと同じ感覚では動けない。

 翼や尾が生えれば、それまで存在しなかった感覚が増える。

 目や耳などの器官が変質すれば、見えるものや聞こえるものまで変わることがある。


 その影響は、計り知れない。


 白根の場合、大きく変わっているのは肌、角。

 それから……胸か。


「どこ見てるんですか」


「いや、ごめん」


 バレた。


「それより、歩くのは問題ないか?」


「歩くくらいなら大丈夫かと。ただ、走るのは……わからないですね」


「そんなに違う?」


「足も、その……伸びている気がするので」


「なるほど」


 プロポーションそのものが変化した影響か。

 走れば、今までの歩幅や重心とは全然違うのかもしれない。


「じゃあ、すぐ移動するか。牢を壊したときに結構な音が出たし、早めにここから離れたほうがいい」


「それなら、大丈夫ですよ」


「大丈夫?」


「ここ、普段は食事のときくらいしか人が来ないので……」


「そうなのか?」


「はい。あの座敷牢から出るのはかなり難しいですし、わざわざ常に見張る必要がないんじゃないかと」


「カメラくらいありそうなもんだけど……」


 部屋の中を見回す。

 天井や壁、部屋の隅を見るが、それらしいものは見当たらない。


「……まあ、いいか」


「随分あっさりしてますね……」


「そうか?」


「というか、網代さん。余裕がありすぎじゃないですか?」


「…………」


 そう言われると……そうかもしれない。


「いや。いつでも逃げられるからかな……」


 俺には、コアちゃんのところへ戻る手段がある。

 最悪の場合——白根を連れて、ここからファストトラベルすればいい。


 だから、落ち着いていられる。


「…………」


 本当に?

 暦たちも捕まっているかもしれない。

 教授も、凪原さんも——。

 そもそも俺は、ついさっきまで自分がどこにいるのかすらわからなかった。

 目を覚ました直後は、もっと焦っていた気がする。


 右手を見る。

 ……まさかな?


 だが、こいつで牢を壊すたびに危機感が薄れている気はする。


 いや——ようやく、リスキーなダメージとかなしに使えるチートを手に入れて、気分が高揚しているだけだろう。


 たぶん……そうだ。

 そういうことにしておこう。

 今は、こいつだけが頼りなのだ。


「しかし、ここはいったいどんな施設なんだ? 何か知らないか?」


「いえ……私も連れてこられたばかりなので」


「そっか」


 まあ、それもそうか。


「とりあえず、脱出については当てがあるんだ」


「本当ですか?」


「ああ。ただ、問題があって……」


「問題ですか?」


「仲間と、私物を取り戻さないといけない」


「仲間……」


 白根が少し考える。


「浅葱さんたちも、捕まっていると?」


「たぶん」


 そこで、一度言葉を切る。


「いや。確証はない」


「…………」


「ただ、スマホさえ戻ってくれば確認は取れる。連絡が来てるかもしれないし、こっちからも連絡できる」


「なるほど……」


 白根が頷く。


「でしたら、どこかに保管場所がないか探しましょう」


「保管場所?」


「没収した私物を、そのまま各部屋に置いておくとは思えません。どこかでまとめて管理している可能性があります」


「ああ」


「浅葱さんのときみたいに、横流しされていなければですけど」


「…………」


 あー。

 それがあったな。

 なんだか懐かしい。


「施設内の地図とかは……さすがにわからないよな?」


「……わかりません」


「ですよね」


「とにかく、動きましょう」


 白根が廊下のほうを見る。


「見回りに関しては、時間が来たら空き部屋に隠れれば、ある程度はやり過ごせるかと」


「俺たちが脱走してるのバレたら、そうもいかなくないか?」


「…………」


「…………」


「そのときは……そのときということで」


「うーん……」


 行き当たりばったりになりそうだ。柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応していこう。

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― 新着の感想 ―
??「要するに、行き当たりばったりですね」
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