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第109話 もうひとつの問題

 とりあえず現状は把握できた。


 七築の家族——母親は、おそらくダンジョン教の施設の中にいる。

 父親についても、あの事故のあとどうなったのかを確認する必要がある。


 まさか警察まで掌握されている、なんてことは考えたくないが……。


 そこについては、ひとまず鐘々に任せることにした。


「いいよ。もう一回、調べてもらう」


 鐘々は快く引き受けてくれた。

 調査費用については、とりあえず立て替えてくれるらしい。


 ……あとで、なんとかしよう。

 

 さて、問題は七築だ。


「…………」


 どう見ても、メンタルがよろしくない。

 できることなら、しばらく好きなことでもさせて気晴らしさせてやりたい。


 七築の好きなことといえば——建物の建築。


 いや、好きに建てさせるのはまずい。

 また白根に怒られて——そこでもう一つ、放置したままになっている問題を思い出した。


「そういえば——白根が、実質行方不明のままだ」


「え、なにそれ。どういうこと?」


「白根に連絡を取ろうとしたら、役場から仕事を辞めたって言われた」


「あの人が?」


 鐘々が眉をひそめる。


「私たちの案件、ほっぽり出して?」


「それはおかしいね」


 教授も、すぐに口を挟んだ。


「だろ?」


 そうなのだ。

 白根は、少なくとも何も言わずに仕事を投げ出すような人間ではない。


「あの……」


 暦が、不安そうに口を開いた。


「さっきの話をしたあとだと……なんか、怖いですね」


「…………」


 うん。

 まあ、その通りだ。

 話が、出来すぎている。


「その白根って人の、連絡先は知らないの?」


 凪原さんが尋ねる。


「仕事用の携帯番号だけだ」


「個人の番号とかは?」


「知らない」


 もっと仲良くなっておけばよかったか。

 いや、そもそも、仕事で付き合っている相手に、プライベート用の番号なんてそうそう教えないだろう。

 ましてやあの白根だ。絶対にない。


 なら、鐘々に探偵を——いや。

 鐘々には、七築の家族の調査に集中してもらいたい。

 資金も有限だ。


 ならば——。


「教授。白根とは、以前から知り合いなんですよね?」


「そうだね」


「家とか知りません?」


「さすがに私も、そこまでは知らないよ」


「ですよね……」


 そりゃそうだ。


「ただ」


「はい?」


「探索者ギルド経由なら、連絡を取れるかもしれないね」


「ギルド経由?」


「探索者登録名簿というものがあるんだよ」


「……そんなのあるんですか?」


「探索者は仕事柄、長期間連絡が取れなくなったり、そのまま行方不明になったりすることも珍しくないからね」


 教授が説明する。


「そのためギルドでは、探索者本人の連絡先や緊急連絡先なんかを登録している」


「じゃあ、そこから白根の住所を?」


「いやいや、さすがに第三者へ個人情報をそのまま教えたりはしないよ」


 教授が手を振った。


「ですよね」


「ただ、正当な理由があれば、ギルドから本人へ連絡を取り次いでもらうことはできる。必要があれば、安否確認を依頼することもね」


「なるほど」


 それなら、行方不明になりやすい探索者向けの制度としては納得できる。


「ただし、照会には探索者番号が必要になる」


「探索者番号?」


「探索者証に書いてあるだろう?」


 言われて財布から探索者証を取り出して確認する。

 

 ——あった。

 八桁の番号が印字されている。

 運転免許みたいだな。


「これか」


「それだね」


「でも」


 そこで気づいた。


「白根の番号を知らないと駄目ですよね?」


「知ってるよ」


「そうですか……」


「…………」


「知ってる?」


「白根君と私が初めて会ったのは、彼女がまだ研修生だったころでね」


「はい」


「行政の研修でダンジョンへ入る機会があって、そのとき私が護衛を担当したんだよ」


「それで番号を?」


「護衛契約を結ぶ際、探索者番号も契約書へ記載するからね」


「でも、そんな昔の番号を覚えてるんですか?」


「いや」


 教授は平然と答えた。


「契約書の控えが、まだ研究室に残っている」


「なるほど」


「ちょうどよい機会だ」


 教授が、こちらを見る。


「来るかね? 私の研究室へ」


 そう言って教授は、ものすごく悪そうで、それでいてダンディな笑みを浮かべた。


「…………」


 全裸でなければ、決まっていただろうな……。

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