第104話 魔力の真実
爆発に呑まれた。
だが、俺自身にダメージはない。
「…………」
人間をやめた頑丈さに助けられたな。
外では絶対に使わないようにしよう。
……おそらく、俺自身も死んでしまう。
さて。
いろいろコアちゃんを問い詰めたいところだが、その前に——。
紅いコアちゃんを見る。
「…………うわ」
無残な姿になっていた。
手足は焼け焦げ、髪の毛は炭化している。
顔も半分ほど、陶器のようにひび割れていた。
完全に機能を停止している。
そう思ったのだが。
「……ん?」
違う。
少しずつ。
本当に少しずつだが……。
時間が巻き戻っているかのように、身体が修復されている。
『主よ』
「ん?」
『それに、右手で触れるのじゃ』
「これに?」
『うむ』
コアちゃんに促され、紅いコアちゃんの姿をした因子へ、右手を伸ばす。
触れた。
その瞬間。
——メキ。
「え?」
——メキメキメキ。
「ちょ、なんだこれ!?」
紅いコアちゃんの身体が崩れる。
いや。
違う。
吸い込まれている……俺の右腕へ。
『ダンジョンの融合じゃよ』
「融合……」
そういえば、前に言っていたな。
ダンジョン同士は、融合することがある。
『まあ、この場合は——』
一拍。
『捕食、と言ったほうが近いのう』
「捕食」
その言葉の通り。
あっという間だった。
紅いコアちゃんの身体は、髪の毛一本残さず、すべて俺の右腕の中へ納まってしまった。
「…………」
怖っ。
「これ、大丈夫なのか?」
『意志も持たぬ、命令だけの因子なぞに負けるようなダンジョンはおらん』
「それはよかった」
少なくとも、右腕を乗っ取られるようなことはないらしい。
「でも、尋問とかしなくてよかったのか?」
『必要ない』
「なんで?」
『食えばわかる』
「えっ」
さらっと、とんでもないことを言ったぞ。
『ふむ……なるほどのう』
「何がわかった?」
『この因子に刻まれておった命令。それから、どういう仕組みで七築へ作用しておったのかも、おおよそわかった』
「七築に何があったのかも?」
『過去を見たわけではないぞ』
「あ、そうなの?」
『当然じゃ。これは七築の記憶ではない。ただの因子じゃからな』
なるほど。
『じゃが、これがどう働いておったのかがわかれば、七築に起きていたこともある程度は推測できる』
「じゃあ、それを七築に——」
『うむ。帰ってから話せばよい』
「そうだな」
『では、帰るぞ』
「待て待て待て」
『なんじゃ?』
「その前に聞きたいことがある」
『なんじゃ』
「コアちゃん」
一度。
自分の右手を見る。
「俺に何をした?」
『何をした?』
「さっきのだよ!」
爆発が起きた場所を指差す。
「明らかにおかしいだろ、あれ! 俺の使える魔力の範疇を完全に超えてる!」
『いや、主よ』
「なんだよ」
『妾は何もしておらぬぞ』
「…………は?」
『というか、お主の魔力量は、人間の許容量などとうに超えておる』
「は?」
なんだって?
『ダンジョンなのじゃから、当然じゃろう』
「いやいやいや、待て」
また知らない設定が増えたぞ。
『それに主は、自分の欲を常に食っておるからのう。魔力の貯蔵量だけで言えば、今の妾より上かもしれん』
「待て待て待て」
『なんじゃ?』
「なんでそうなる?」
情報が多い。
「欲を食べると魔力が溜まるのか? っていうか、そもそもダンジョンと魔力って関係あるのか?」
『いや、関係があるも何も……』
「何?」
『…………』
「コアちゃん?」
妙な間があった。
『あの、これを言うのは、ちと恥ずかしいんじゃが』
「恥ずかしい?」
どういうことだ?
「いや、恥ずかしいって……」
『あー、そのじゃな』
「うん」
『人間も、食べ物を食べると……その、出すじゃろ?』
「出す?」
『排泄物を』
「あ、ああ……」
「…………」
ん?
排泄物?
そういえば……ダンジョンは欲望を食べる。
つまり——ダンジョンにも、それを食べたあとに出るものがある?
いや待て。
この会話の流れからして。
「もしかして」
『…………』
「もしかしてだけど……」
『言うでないぞ』
「魔力って、ダンジョンのウン——」
『排泄物!』
「あ、うん。ごめん」
『そうじゃよ! 欲望を食べたときに出る排泄物じゃよ!』
「…………」
『レディになんてこと言わせるんじゃ!』
「いや、コアちゃんはレディってほどの歳じゃ——」
『それは見た目の話じゃろうが! 妾は立派なレディじゃ!』
「…………」
うーん。
人間っぽく情緒が育っているのは、よくわかった。
だが。
うん。
「えっと……」
話を戻そう。
「つまり俺は、自分の中で地産地消ダンジョンとして欲望を食い続けてるから——」
『うむ』
「そのたび魔力が生まれて」
『うむ』
「ほとんど使ってないから」
『うむ』
「めちゃくちゃ溜まってた……と?」
『そういうことじゃな』
「…………」
なんというか。
とんでもなく嫌な貯金だな。
「でも、それじゃあ」
『なんじゃ?』
「普通の人間にも魔力があるのは、なんでなんだ?」
『空気中に漂っておる魔力を、呼吸と一緒に体内へ取り込んでおるからじゃろ』
「…………」
『どうした?』
「いや」
すげぇや。
長年、研究者たちが頭を悩ませてきた。
魔力は、どこから来るのか。
その謎……解けちゃった。
「…………」
魔力は、ダンジョンの排泄物だった。
嫌な真実だなぁ……。




