【8】担任、縦長動画に全力です。〜ガチ過ぎて、中学二年生の監督がぶち切れました〜
紬はホームルームが終わると、すぐさま速水先生に駆け寄った。
速水先生が驚いた顔をして、紬を見る。
紬は小さい声で言った。
「莉緒とメッセージのやり取りしたら……莉緒、先生の棒高跳びの画像が欲しいって……!
先生、今日も棒高跳びしますか!?」
その瞬間――
速水先生は目を見開いた。
「……あやっ……綾小路さんは……元気なのかな!?」
上ずった先生の声にも、一切動じない紬。
紬が重々しく頷く。
まるでSNS動画配信者の『皆さまへお知らせ』のサムネイルのように。
「元気らしいけど……。
私が聞いたら一言だけ、返事があったんです……。
『先生が空を飛んだら、写真を送って』って!!
莉緒、先生の棒高跳びを、本当に見たがってるんですよ!!
きっと、先生の棒高跳びの画像を見たら、完全に元気になります!!」
(そして、足の怪我も確認出来るし!)という言葉を飲み込む紬。
すると――
速水先生が俯き、ぎゅっと教卓を掴んで言った。
「……あああ綾小路さんを完全に元気にするのには……!
画像じゃなくて動画が良いんじゃないかな!?」
俯いているので、紬から速水先生の表情は見えないが、『動画』というワードに食いついた紬が、またも中学二年生とは思えないほど、重々しく告げる。
「確かに……!
我々中学生は縦長動画世代!
そこに、棒高跳びをする先生……!
音楽は必須!
私が莉緒の好きな曲を選んで、心を掴みます!
編集込みで15分あれば出来るし!
まず、最初の10秒で、莉緒を離脱されないように!」
速水先生が顔を上げる。
その顔は決意に満ちていた。
「藤宮さん……!
では僕は、教頭先生に撮影許可を貰って、スマホの三脚自撮り棒を用意します!」
そう宣告する速水先生に、紬がペコリと頭を下げる。
「ありがとうございます!
もし、あれば……あればで良いんですけど……LED丸型ライトはありますか!?」
速水先生が紬を見て、にっこり笑った。
「ありますよ……!
先生方の撮影用に!
それも用意します!
では、30分後に、昨日のグラウンドで……!!」
そうして、紬の返事も待たず、速水先生は教室から足早に出て行った。
――ピョンピョンせずに。
そうして、30分後。
陸上部のグラウンドは、物々しい雰囲気に包まれていた。
速水先生と紬の二人だけの空間で。
速水先生は陸上部員とコーチに、今日の練習メニューを説明すると、最後に「先生は、今日は棒高跳びの撮影があります! 別メニューになるけれど、みんな、頑張ろう!」と締めくくった。
ポカンとする部員達を、コーチが練習へと促す。
そうして始まった、速水先生の棒高跳び撮影会。
まず、一度、速水先生が棒高跳びをし、紬が自分のスマホをチェックして、ベストな撮影ポジションを決める。
それからは、速水先生と紬の"本気"のぶつかり合いだ。
紬の容赦ない声が飛ぶ。
「先生!
高さが足りません!
それじゃあ夕陽と重なりません!
日没まで時間無いですよ!?」
速水先生は真剣に答える。
「了解です! 任せて下さい!」
そして、またも棒高跳びをする速水先生。
そして、紬が「先生! 成功です!」と言っても――
自分で自分にダメ出しする速水先生。
「いや……この僕の、この腰の角度……。
あああ綾小路さんに見せるには、完璧じゃないな……!
もう一度チャンスを下さい!」
紬が親指を立てて答える。
「了解です!
でも、ラスト3回が限度です!
太陽は沈みます!」
その刹那――
空を見上げ、小さく頷くと走り出す速水先生。
陸上部員もコーチも、撮影を見守る教頭先生も、思いは一つ。
(俺は、私は、何を見せられてるの???)
だった。
そうして、夜の7時。
莉緒は自室で軽い食事を済ませ、主治医から処方された栄養剤を飲み、ベッドで横になっていた。
すると、紬からスマホにメッセージが届いた。
見てみると、動画が貼り付けられているだけ。
素早くイヤホンをし、それをタップする。
現れたのは――
グラウンドを走る速水先生。
そして、速水先生が棒を持って走り出し、高く飛ぶ。
それは、昨日見た、速水先生と同じ。
夕陽に向かって飛んでいる速水先生だ。
そして、速水先生はラストの場面で、棒を持ってすっくと立ち、それを脇に置くと、くるりとバク転し、再び棒を持つと言った。
「あやあやあや……綾小路さーん!!
無理はしないで下さーい!!
先生は学校で、ずーっとお待ちしていまーす!!」
1分足らずの動画には、アニメのキャラソンが流れている。
そのタイトルは『カッコよくてスマン☆』だ。
莉緒は紬に勧められてアニメも観ていたし、ダンスも踊ろうと言われて、紬の部屋で二人で踊ってスマホで撮ったりしていたので、当然知っている。
この選曲も――
動画も、紬が編集したんだと分かる。
紬らしさ満載の加工が散りばめられていたから。
(きっと……最後のバク転も、紬に頼まれて速水先生はやってくれたんだろうなあ……)
けれど、先生が飛ぶところだけは、何の加工もされていない。
先生は春の風の様に走って来て、まるで重力を感じて無いように、棒高跳びのバーの上を飛んで着地する。
莉緒は何度もリピートし、その動画を観続けた。
無意識に『カッコよくてスマン☆』を口ずさむ。
「カッコよくてスマン☆
魅せちゃってる俺、スマン☆
君の瞳一人占め、スマン☆……」
そして、思った。
(明日は元気に学校に行こう!
先生にありがとうございますって言おう!
先生は怪我なんてしてない!
こんなに美しく空を飛べる人なんだから!
ピョンピョン飛ぶのは、先生の癖なんだよ……!
人の癖をあれこれ言うのは間違ってる!)と。
だが、莉緒は知らない。
紬は"頼んで"いないことを。
それは、指示であり、一流映画監督のような厳しいダメ出しの結果だった。
そして、速水先生は――
紬がOKを出しても、繰り返し繰り返し飛び続け、最終的には紬は内心、(何度飛べば気が済むのよ……!? 莉緒!! やっぱり……はやみんは、お猿さんだよ……!!)とぶち切れていたことを。
最後のバク転も、「あああ綾小路さんに見せるには完璧じゃない!」と16回も飛んでいたのだ。
そうして、その様子をずっと見ていた、陸上部員とコーチと教頭先生も――
(速水先生……どうして体育の先生じゃなくて、国語の先生の道を選んだんだろう???)
と思っていたことを。
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