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担任の愛が重い。〜過保護な担任と最強お祖母ちゃんに、今日も溺愛されています〜  作者: 久茉莉himari


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6/16

【6】授業中に少女漫画が始まっています。〜担任、空を飛ぶ〜

翌朝。


ホームルームで出欠を取る速水先生は――

安定の動揺ぶりだった。


「あやっあやっあやっ綾小路ーィ……ッ……莉緒さんッ!!」


莉緒が「はい」と返事をし、静かに手を上げる。


隣の席で紬が笑いを堪え、下を向いてボソボソと呟く。


「『あやっ』て今日は言葉が跳ねてるわ……」


「つか……、綾小路ーィって伸びてる……」


莉緒がしーっと口元に人差し指を立てると、紬はちょっと肩を竦めて見せた。


だが、事件は国語の時間に起こった。


今日の題材は『アイスプラネット』。


しかし莉緒は、『アイスプラネット』よりも、葉桜になった桜が気になった。


桜ノ葉学院の名前の通り、莉緒の学校は、学校をぐるっと囲むように桜が植えられている。


春に咲き誇る桜は、美しいとしか言いようがない。


(でも、緑になった途端、忘れられるんだよなあ……。

桜が儚いのはそのせいかなあ……)


莉緒は想像力が豊かなので、考え出すと止まらない。


しかも模試では全国上位常連。


学校では常にトップの成績。


だから、自分の"考えごと"に浸っていても、授業に支障は無いので、授業中もつらつらと色んな考えが湧いてくる。


その時、紬が「莉緒の番だよ!」と言った。


莉緒は窓を見たまま、立ち上がった。


そして、言った。


「桜の下に死体じゃなくて孤独というところが好きです」


しん、と静まり返る教室。


紬が慌てて莉緒の制服の袖を引っ張る。


莉緒の腰まである黒髪が、さらりと揺れる。


その時、速水先生がやさしく言った。


「それは坂口安吾だね?

『桜の森の満開の下』……綾小路さんはあの山賊に同情するの?」


莉緒は窓を見て答える。


「いいえ。

彼は桜の花びらになりました」


「そうだね」


速水先生は、莉緒に向かって再びやさしくそう言うと、「じゃあ次、金子さん」と言って授業を続けた。




昼休み。


紬はお弁当を食べながら「ヤバいヤバいヤバい」を繰り返していた。


莉緒が不思議な顔になる。


「紬……今日のお弁当、そんなに美味しいの?」


「違いますッ!」


キッと莉緒を睨んだかと思うと、両手で頬を包み、ウットリする紬。


「国語の授業だよ……!

もう、はやみんと莉緒の二人の世界じゃん!

みんなも、少女漫画みたーいって言ってるよ!

尊い☆

あ! 見開き2ページね!

まあ何を会話してたか、全然分かんないけど!

莉緒は突然、空想少女になるからさ〜。

でも!!

私も、はやみんはイケメンだったと思い出した!

はやみんは、お猿さんじゃない!」


莉緒が、ふふっと笑う。


「そうだよ!

先生はお猿さんじゃないよ!」


そして、莉緒は瞳を見開くと言った。


「あ!

そうだ!

紬……私、やっぱり速水先生は怪我をしてると思うんだよね!!」


紬もウンウンと頷く。


「はやみん、今日はピョンピョンしてなかったけど……やっぱり!?」


莉緒が真剣な眼差しになる。


「きっと、先生は陸上部の顧問だから、誰にも言えないんだよ。

だから、今日の放課後、陸上部に行って先生を観察しようと思うの!」


紬がガシッと莉緒の両手を掴む。


「付き合う!

でもさ〜、はやみんが隠してるなら……。

もし、はやみんが怪我をしてるって分かっても、誰にも言えなくない?」


莉緒がうーんと考えると、パッと瞳を見開いた。


「でも……あんなに飛び跳ねるほど痛みがあるなら……。

『無理しないで下さい』とか、お手紙書くとか……どうかな!?

名前は書かなくても、生徒だと分かってくれるんじゃない?」


紬が莉緒の両手から手を離すと、机に突っ伏す。


「うわ〜……それ、マジ良いよ……!!

はやみん、感動して、無理は止めるかも!」


莉緒は、紬の生まれつき茶色がかったサラサラのショートボブを見ながら、「そうだよね!」と力強く答えた。




そうして、帰りのホームルーム。

速水先生は、落ち着いていた。


というか、普通に『先生』をしていた。


莉緒と紬は「ごきげんよう、さようなら」と言いながら、いつも通り教室を出て……

中等部の陸上部のグラウンドが見える、図書館へと移動した。


そうして30分もすると――

陸上部の部員たちが集まって来て、ストレッチなどをし出した。


莉緒がみんな元気だなあと感心していると、紬が「あっ!」と小さく言った。


「莉緒! はやみん、右から登場!」


莉緒が右側に目をやると、真っ白なジャージを着た速水先生が現れた。


(教室で見る先生とは全然違う……)


莉緒がそう思っていると、紬がまた小さく「あっ!」と言った。


速水先生が、部員たちと一緒にストレッチを始めたのだ。


紬が速水先生の一挙手一投足を観察しながら、「あれは右足を庇いながらのストレッチ……? いや、左足か……?」とブツブツ言っている。


小学生の頃から体育を免除されている莉緒には、違いは分からない。


それでも、じーっと速水先生の動きを観察していると――

速水先生と目が合ってしまった。


速水先生は莉緒と目が合うと、直ぐにメガホンを手に取った。


そして「勉強してるんですかー!?」と叫んだ。


陸上部員も、図書館の窓際にいた生徒たちも、全員固まっている。


莉緒は先生に分かるように、ブンブンと首を左右に大きく振った。


すると、またも響き渡る速水先生の声。


「それならグラウンドに見学に来てみて下さーい!

面白いものを見せますよー!」


紬がはしゃいで、莉緒の手を引っ張る。


「面白いものだって! 行こう!」


莉緒は皆の視線を浴びて、真っ赤になりながら、図書館から出てグラウンドに向かった。




莉緒と紬が陸上部のグラウンドに現れると、速水先生がまたメガホンを使って言った。


「革靴で構いません!

こっちのマットまでどうぞー!」


莉緒は、その時、思った。


(先生……やっぱり足が痛いんだ……!

だから、こんなに近くでもメガホン使うんだ!)


今度は莉緒が紬を引っ張った。


(もしかしたら……先生が怪我をしているところが見られるかもしれない……!!)


その気持ちでいっぱいで。


だが、速水先生はマットの手前10メートルまで来た莉緒と紬に、またメガホンで言った。


「ストップ!

そこで見ていて下さーい!」


莉緒と紬が立ち止まる。


すると、速水先生は軽くグラウンドを走り、マットレスに向かって走って来た。


それは一瞬の出来事。


先生の手には、いつの間にか長い棒が握られており、先生はその棒で、飛んだ。


そう――

莉緒は、飛んだ、と思った。


見上げるバーの上を軽々と飛ぶ速水先生は、葉桜よりも高く、夕陽に向かって飛んだ、と。


莉緒の胸が感動でぎゅっと痛くなる。


まるで鷲掴みにされたように、痛い。


速水先生は、もうマットレスから立ち上がり、またメガホンを持つと言った。


「楽しかったですかー?」


莉緒は自然と拍手をしていた。


悲しくも無いのに、涙がポロポロと頬を伝う。


そうして――

莉緒はバタンとその場に倒れた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

この連載は、通常は火曜・金曜の20時の更新ですが、

只今、ゴールデンウィーク特別企画中です(^^)

詳しくは活動報告を読んで下さると、分かりやすいです。

次回も読んで下さると嬉しいです☆


Xはこちら→ https://x.com/himari61290

自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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