【3】本を渡したい覚悟の男と、お茶の時間を邪魔させないラスボス。〜祖母VS担任、初戦はなぎなた〜
その夜。
夕食を終えた莉緒は、祖母菊乃が淹れて冷蔵庫に保管してある、ほうじ茶の冷水を飲んで一休みしていた。
莉緒が嬉しそうに言う。
「お祖母ちゃん! このほうじ茶、新しいものよね!?」
菊乃がにこりと微笑む。
「お食事の後は、ノンカフェインのお茶で一休みして、お風呂に入らないと、莉緒ちゃんの疲れが取れませんもの。
今回は石川県の献上茶にしたのよ❤️」
莉緒が長いまつ毛に縁取られた、黒曜石のような黒い瞳を輝かせる。
「それを冷水にしたの!?
お祖母ちゃん、凄い!」
菊乃がホホホと笑う。
そんな和やかな空気の中、玄関から「……ただいま〜……」と、地を這うような声がした。
莉緒の母親、志穂だ。
志穂は菊乃の実の娘で、外務省のキャリア官僚。
一見、出来る系の美人だが、綾小路家の教養はサラッと流し、普通に一般常識を持つ、常識人だ。
莉緒も『綾小路家のお嬢様』として、常識のある娘に育てたかったが、なんせ菊乃が強すぎた。
しかも、志穂は有能なので、仕事でどんどん成果をあげてしまい、結局菊乃に子育てを頼むしか無かった。
菊乃が音もなく立ち上がり、玄関へと向かう。
「あら、志穂。
今日は遅くなるんじゃなかったの?」
その菊乃の言葉に、志穂は書類が詰まっているビジネスバッグを掴むと何とか立ち上がり、言った。
「お母さん!
今日、新しい教頭先生とやりあったでしょう!?
教頭先生から、莉緒の髪の毛について、お詫びのメッセージが来たのよ!」
菊乃がジロリと志穂を見る。
「やりあってなんか、おりませんよ。
莉緒ちゃんの為です」
その冷徹な声音に、志穂からガクッと力が抜けた時、インターフォンの音がした。
インターフォンの画面を志穂が確認すると、速水先生が映った。
速水先生は礼儀正しく、言った。
「桜ノ葉学院の国語教師、速水湊と申します。
綾小路さんの二年生の担任です」
そして、桜ノ葉学院の教員の身分証をインターフォンに、くっきり映るように見せた。
志穂の顔がパッと明るくなる。
「速水先生!
存じ上げておりますわ。
どんなご要件でしょう?」
すると、速水先生は一瞬照れた顔になると、再び礼儀正しく言った。
「綾小路さんは小説がお好きですよね?
文章の才能も素晴らしい。
そこで、綾小路さんが以前から読みたがっていた本の原本が、図書館で公開されることになりまして。
下校時にお渡ししたいと思ったのですが、革の表紙で、綾小路さんには重たくて持ち帰れないので、お届けに参りました」
志穂が感動した顔になる。
「まあ……!
わざわざすみません!
では、門を開けますので、玄関までいらして頂けますか?
莉緒に直接渡してやって下さい」
速水先生が爽やかに微笑む。
「ありがとうございます!」
そうして、インターフォンの画面を切って、門を開けるスイッチを押す志穂の背後から響く――
厳しい声。
「志穂。
今、莉緒ちゃんは食後のお茶の時間です……!
莉緒ちゃんに直接渡さずとも、あなたが受け取ればいいでしょう!?
お茶の時間と担任教師の本の差し入れ……どちらが莉緒ちゃんに重要だと思っているの?」
志穂が心の中で叫ぶ。
(……本の差し入れですッ!!)
そして、なんとか言葉を絞り出す。
「でも、お母さん。
先生はわざわざ革張りの本で重たいからと、家まで届けて下さったのよ?
直接莉緒に渡すのが、礼儀では……」
その瞬間、菊乃に遮られる志穂の言葉。
「だまらっしゃい!」
菊乃の声は、まるでネイビーシールズの教官のような厳しさになっていた。
「あの速水という先生……。
まず、礼儀がなっておりません!
生徒の家に、突然、訪ねる?
あり得ない!
まず、訪問の確認と許可を取るべきでしょうが!」
そして、菊乃は低い声で言った。
「志穂。
あなたはどう思いますの?」
志穂は白目になりそうなのを、必死で堪えて答える。
「お母さんの考えに間違いはありません……。
では、速水先生のご厚意はどうすれば?
帰って頂きますか?」
菊乃の目がギラリと光る。
「それでは、私どもが、あの速水先生よりも無礼者になるではありませんか!
私が直々にその本を受け取ります!」
志穂はその宣言に、悪い予感しかしなかった。
待つこと、10分。
やっと門が開き、速水先生は玄関に向かおうとした。
すると――
「止まりなさい!」という、女性の鋭い声がした。
速水先生が立ち止まると、現れたのは――
白い髪をきっちりと結い上げ、一目で高級品だと分かる着物を着た女性が、なぎなたを構えて立っていた。
その気品と圧。
速水先生はこの非現実的な光景に、驚くよりも、普通に疑問を持った。
(綾小路さんのお祖母さんだよな……?
何してるんだろう……?)
すると、菊乃が厳しい声で宣告する。
「この無礼者が……!!
その本とやらは、私が受け取ります!」
速水先生がぐっと、本が入った鞄を持つ手に力を込める。
そして、言った。
「いいえ……!
綾小路さんに直接渡させて下さい!」
即座に菊乃が言い返す。
「莉緒ちゃんは食後のお茶の時間です!
本ならば私でいいでしょう!?」
「いいえ! 綾小路さんに直接渡したいんです……!」
菊乃の目が怒りで燃え上がる。
「この……無礼者!
うちの敷地から、去れ!」
そうして振り下ろされる、なぎなた。
速水先生がひらりとかわしながら、言う。
「どうか……綾小路さんに本を渡させて下さい!」
菊乃がなぎなたを振り下ろしながら、鋭く返答する。
「莉緒ちゃんはお茶の時間だと、言っておろうが!
そこに、本を置いて、去らぬか!」
そして、またもひらりとかわす速水先生。
「お願いします……! 綾小路さんに直接……!!」
菊乃の振り下ろされるなぎなたと、繰り返される速水先生の懇願。
その頃、莉緒は――
既にお風呂に入っており、この騒動も知らずにいた。
そうして、二階の窓から一部始終を見ていた紬は――
『担任、莉緒のお祖母ちゃんと、日本庭園でバトル中』と、クラスのグループメッセージに送信していた。
爆速で流れるグループメッセージ。
『武器は!?』
『詳しく!』
『はやみん、莉緒んちで戦ってるの!?』
『フツーに迷惑では?(笑)』
『勝てない相手に挑む、はやみん勇者♪』
『はやみん、また、後ろ向きに飛んでる!?』
そして、紬が素早くメッセージを打つ。
『上に向かって飛んでる』と――
ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
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