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担任の愛が重い。〜過保護な担任と最強お祖母ちゃんに、今日も溺愛されています〜  作者: 久茉莉himari


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19/20

【19】ヒッシー人質説、爆誕。〜お猿さん疑惑の中でも、担任は今日も元気です〜

そして、翌朝のHR。


速水先生は、出欠を取っているだけなのに、A組の生徒全員が分かる程、機嫌が良かった。


ニコニコしている速水先生を見て、莉緒は思った。


(速水先生……本当は野球が大好きなのかも……!

でも、野球部には専門の監督がいるから、顧問になれないし。

足の怪我も治ったし、重度の花粉症も治って、陸上以外にも好きなことをするのかな?

先生が楽しそうで良かった!)


しかし、紬は複雑な顔をしている。


そうして、昼休み。


紬は、昨夜莉緒に送ってくれた動画とは別角度の動画を再生し出した。


そこには速水先生が大きく振りかぶり、勢いよくボールを投げ、乾いた音と共に、ボールがミットへ収まった映像があった。


「速水先生、凄い!」と言う莉緒に、

紬が人差し指を立てて、横に振る。


「違うの!

確かに、はやみんは、途中からどんどんフォーム良くなってた!!

野生に返ったのか……?って思うくらい!

育成ゲームだったら課金疑うレベルでね!!」


「課金?」と首を傾げる莉緒に、紬は即座に言った。


「それは莉緒は知らんで良い!

で!ここ!!ヒッシー見て!!なんかおかしくない?」


莉緒はじっと動画を観て答える。


「おかしいって言うか……何もしてないよね?」


「そう!それ!」と紬が勢い良く答える。


「はやみんのピッチング練習中もさあ……。

モリヤンの隣にボーッと立ってただけ!

ボールを投げるわけでもないし、

フォームを指導するわけでもないんだよ?

それにさ……この三人見て!」


そう言って、紬が指先で画像を拡大した。


森谷先生は嬉しそうに笑い、速水先生も爽やかな笑顔を浮かべている。


その横で――


菱田先生だけが、遠い目をしていた。


莉緒が思わず呟く。


「……菱田先生……本当に何してるの?」


「でしょ!?」


そして、紬が断言する。


「しかも時間経つほど顔が死んでいってた!!」


莉緒が息を飲む。


紬は勢い良く続ける。


「はやみんとモリヤンはめっちゃ楽しそうなのに……ヒッシーだけ一回も笑ってないの!!」


「……嘘……!!」


莉緒が驚きの余り、両手で自分の口元を抑える。


「それで……分かったんだよね……!」


そう言って、紬の目がギラリと光る。


まるで重要な情報を掴んだ諜報員のように。


「これ絶対、自分から来た人の顔じゃない!!」


コクコクと頷くことしか出来ない莉緒。


紬が真剣な口調で言う。


「ヒッシー……巻き込まれたんだよ!!」


莉緒の声が掠れる。


「な、何に……?」


紬は淡々と答える。


中二とは思えない、倫理の先生の如く――


「これは、まだ推論の段階だけど……ヒッシーは人質じゃない!?」


「……人質!?何の!?」


悲鳴のような声を上げる莉緒に、紬は空中を見て、またも淡々と答える。


「もしかして……モリヤンは気づいたのかもね……!体育の先生だから!

はやみんが進化と退化を繰り返し、今や枝分かれした現在を!

だから、野球をやりたがる野生のはやみんが暴走しないように、仲良しのヒッシーを人質にしてるんだよ……!あの二人、職員室で席が隣同士だし!」


「ぐ、偶然お隣同士じゃないんだ……!」


そう声を震わせる莉緒に、紬が安心させるようにウンウンとゆっくり頷き、口を開く。


「悲しいかな……リアルで偶然ってそんなに揃わないんだよね……。

そしてモリヤンは、はやみんに言うわけよ……。

『速水先生、あなたが暴走したら、菱田先生も犠牲になりますよ』みたく……!

だがしかし!

これはあくまでも仮説!

検証してみないと!」


「で、でもっ……!」


莉緒がガタンと音を立てて立ち上がる。


「速水先生はお猿さんじゃないよ!?」


その鈴の音のような声が、昼休みの教室に響き渡った。




5時限目の職員室。


この時間は授業が無い菱田先生は、文字通り頭を抱えていた。


何故なら――


『野球をやりたがる速水先生が暴走しないように、菱田先生が森谷先生の人質になっている。

※速水先生はお猿さんじゃないと綾小路さんが発言※』


という噂が一気に中等部を駆け抜け、菱田先生に直に質問をしてきた強者の生徒を通じて、菱田先生もそのメッセージを見たからだ。


(人質……!?人質ってどこから出た言葉!?

でも、俺が森谷先生の人質で、野球をやりたがってる速水先生ということは……昨日の放課後のグラウンドの件だよな……?

あれを見た生徒に誤解されてる……?


でも、綾小路さんの『速水先生はお猿さんじゃない』発言は何……!?

綾小路さんは学年トップの成績だし、品行方正!

お猿さん……お猿さんとは……!?


いや、まず、俺が森谷先生の人質じゃないところから、生徒に訂正を入れた方がベストなのか……!?

でも、どうやって……!?)


そして、菱田先生は、授業でいない隣の速水先生の机をキッと見た。


(もう……!!速水先生!!

速水先生のせいですよ!?

やっぱり俺はいらなかったじゃないですか……!!

それどころか変な噂まで流れてる……!!)


そうして、菱田先生はじりじりと速水先生が戻って来るのを待っていた。




そして、HRの時間になった。


速水先生が教室に入って来る。


クラス中の生徒の視線が速水先生に釘付けだ。


もちろん、莉緒も――


だが、速水先生はいつもと変わりなく、必要事項などを伝えている。


そして、最後に「綾小路さんは残ってください」と言った。


ざわめきが広がる教室。


莉緒は「はい」と静かに答えた。




そうして、皆が「ごきげんよう。さようなら」と帰って行く中、莉緒は自分の席で自習をしながら速水先生を待った。


紬は瞳をギラギラと光らせ、「私はヒッシー人質説を検証してくる……!!」と言って、教室を出て行った。


そうして誰もいなくなった教室に、速水先生がやって来た。


速水先生は莉緒が立ち上がろうとする前に、

さっと莉緒の席まで来て、言った。


「綾小路さん、そのままで」


そうやさしい声で言うと、列を挟んだ隣の生徒の席に座った。


そして、速水先生はまたやさしい声で言った。


「綾小路さん、先生を庇ってくれてありがとう」


「……え?」


莉緒が真っ直ぐに速水先生を見る。


速水先生は、その声と同じように、やさしく微笑んでいた。


「何か変な噂を綾小路さんは聞いたんだよね?

でも、綾小路さんは先生を『お猿さんじゃない』と庇ってくれた。

その、お礼を言いたくて」


そう言う速水先生の顔がだんだん赤くなる。


莉緒も頬が熱くなるのを感じた。


莉緒が何も言えずにいると、速水先生はスマホをフリックした。


流れる、『カッコよくてスマン☆』の曲。


先生は夕陽に照られながら、以前のように――いや以前よりも激しく踊り出す。


バク転しながら、バレリーナのように水平にジャンプしながら、側転しながら、バク宙しながら、その場でくるくると回転しながら、ボックスステップを踏みながら――


そして、ラストの

『ヨッ☆君だけを見てる、僕の視線、熱くてスマン☆』のところで、莉緒に向かって跪いた。


莉緒が拍手をする。


先生は息一つ乱さずに言った。


「野球が終わったら、ハードル走をします!」


莉緒は黒曜石のような瞳をキラキラさせながら答える。


「はい」と一言だけ。




そして、やりきった感満載で職員室に戻って来た速水先生を、菱田先生が入り口で待ち構えていた。


菱田先生は一言、「給湯室へ!」と言うと、スタスタと歩き出す。


給湯室で二人きりになると、菱田先生は、額に青筋を立てて言った。


「……速水先生……!綾小路さんに『お猿さんじゃない』発言の真意を、聞いてくれたんじゃないんですか!?」


速水先生がにっこりと笑う。


「え?菱田先生、見ててくれたんですよね?」


「ええ!先生の言われた通り見てました!

でもね!!」


菱田先生が電気ポットを掴む。


「速水先生……何か勘違いしていませんか!?

綾小路さんは先生を庇ったんですか!?

それと……踊る必要あります!?」


速水先生は一瞬キョトンとすると、爽やかな笑顔になる。


「綾小路さんはどう聞いても僕を庇ってくれてますよね?

僕は人間だし、『お猿さんじゃない』って否定してくれたんですから!

それと、踊りはお礼の気持ちです!

生徒に物品は渡せないので!」


菱田先生がポットを掴む手をわなわな震わせている中、速水先生は続けた。


「あ!菱田先生の『人質』の件ですが、どうやら藤宮さんが僕達の練習を見学していたみたいです!

いやー……多感な年頃あるあるですよね!

菱田先生の表情から推測したらしくて……全然笑ってないからとか!

藤宮さんが野球部の子に聞き込みをしていて、その生徒が教えてくれたんです!」


その瞬間、目の前が真っ暗になる菱田先生――


(……俺!?俺の表情のせい……!?)


そうして体育教師らしい森谷先生の良く響く声がする。


「探しましたよー!

今日の練習メニューの件なんですけど!」


速水先生が正に初夏の太陽のような笑顔で応える。


「わざわざ、ありがとうございます!

さあ、菱田先生も行きましょう!」


菱田先生は今度は頭の中が真っ白になり、無言のまま、電気ポットを抱えて二人の後を歩いて行った――

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

この連載は火曜・金曜の20時の更新です。

次回も読んで下さると嬉しいです☆


Xはこちら→ https://x.com/himari61290

自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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