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担任の愛が重い。〜過保護な担任と最強お祖母ちゃんに、今日も溺愛されています〜  作者: 久茉莉himari


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17/20

【17】先生は二刀流、最強祖母はお百度参り。〜それってただの草野球ですよね?〜

そして菱田先生は、速水先生から聞いてしまったのだ。


警視庁SPには草野球チームが存在し、ゴールデンウィークに財務省の草野球チームと、本当に試合があることを。


菱田先生はまたも、驚きを通り越し、脱力していた。


そして――


(財務省の人たち……。

ああいう官僚の人も草野球するんだ……)


と、ぼんやり考えていたが――


「前々から、誘われてはいたんです!」


始まった。


速水先生のマシンガントークが、菱田先生の考えを一瞬で吹き飛ばす。


「助っ人頼むって!

でも、SPは分かってないんですよね!

我々教師がどんなに忙しいか!


だから、逆に!

逆にね! 無視していたんです!


僕は、無視なんてしたくないですよ?

でも教師の忙しさを分からないSPを無視しても、それは正しいですよね!?」


止まらない。


菱田先生の顔が、今度は理解不能でクシャッとなる。


(速水先生……!

SPだって忙しいですよ!!


何なら、俺たちより命がけでは!?

よく知らないけど、訓練とかもあるのでは!?


正しいか正しくないかより――


国語教師なのに、『逆に』の連発で無視を正当化しないで下さいよ!!)


すると、速水先生が、突然静かになった。


菱田先生の心臓がドンと鳴る。


――恐怖で。


「でも……菱田先生のお陰で気づいたんです……」


(何に!?)


「ゴールデンウィークには、生徒は学校に来ない」


(はい)


「ならば――」


(ならば?)


「草野球をやるべきだと……!」


(なんで!?)


「菱田先生、本当にありがとうございます」


そうして、菱田先生に深々と頭を下げる速水先生。


菱田先生は内心、完全にパニックを起こしていた。


(俺のお陰……!?

俺が何か言いましたか!?


あー……生徒たちのバードウォッチングで速水先生が感動し過ぎて、俺が自分の心と肩を守ろうとした時……!?

ポロッと言っちゃった、あれ!?


というかね! 速水先生!

ゴールデンウィークに生徒は学校に来ない!

それは常識!!

去年まで、理解していましたよね!?

なぜ、今年になって、また理解を深めたんですか……!?


しかも、「ならば、草野球をやるべき」とは!?


生徒が学校に来ない。

イコール。

草野球。

その間に何があったんですか!?

飛躍した部分を説明して下さい……!!


あーーー!!

帰りたい!!

でも、帰れない……!

こんなに頭を下げて感謝してる同僚を放り出せない……!

隣の席だし……!!)


菱田先生はウーロン茶を一口飲んだ。


コホンと咳払いをする。


(大丈夫。落ち着け。

一つずつ整理すればいい。

相手は同僚だ。

国語教師だ。

話せば分かる)


菱田先生は、何とか自分を立て直すと言った。


「成る程!

じゃあ、話を纏めますね!

速水先生はゴールデンウィークに、SPの草野球チームに二刀流で出場したい!」


「はい!」


「でも、森谷先生にそれを言ったら、怒られた!」


「はい!」


「僕は森谷先生のお言葉にも一理あると思います!」


「はい!」


「普通の人は、ピッチャーと四番打者をやりたいなんて言わないので!」


「はい!」


(返事だけは素直だな!!)


そう思いつつ、菱田先生は続ける。


「特に森谷先生は体育教師なので、そういうところ、敏感に反応しますよね!

でも、速水先生の情熱は分かりました。

僕からも、森谷先生に頼んでみます!」


その瞬間――


速水先生がガバッと顔を上げた。


そして、菱田先生の手を両手でガッシリ掴む。


「ありがとうございます!!」


(痛い痛い痛い!!)


心の中で悲鳴を上げる菱田先生。


しかし全く気づかない速水先生は言った。


「菱田先生と森谷先生がいてくれたら、僕も頑張れます!」


あまりにも爽やかな笑顔で。


そして――


菱田先生はまたも、自分に特大ブーメランを放ってしまった。


しかも今回は、放った瞬間に戻ってきた。




その頃、綾小路家でも――


ゴールデンウィークの草野球に向けて、静かに、しかし確実に準備が進んでいた。


莉緒はいつも通り学校生活を送り、その裏で菊乃は、近所にある1000年以上の歴史ある縁(ゆかり)の神社から、お百度参りの許可を頂いていた。


そして、まだ空も薄暗い、朝4時。


菊乃は動きやすい服装に身を包み、静まり返った神社の境内に立っていた。


直哉の草野球チームの必勝祈願である。


まず本殿に向かって深く一礼。


それから百度石の前に立ち、本殿へ向かう。


本殿の前で手を合わせて祈り、再び百度石まで戻る。


そして、また本殿へ向かう。


それを百回繰り返す。


菊乃は背筋をピンと伸ばし、歩き始めた。


一度目。百度石から本殿へ向かい、手を合わせる。


(直哉さんが、どうか怪我なく活躍出来ますように)


祈り終えると、百度石へ戻る。


そして、また本殿へ。二度目。


(直哉さんのチームが、必ず勝ちますように)


再び、百度石へ。三度目。


(出来れば大差で)


百度石へ戻る。四度目。


(いえ。油断はいけません。まずは一点ずつ確実に)


また、百度石へ。五度目。


(直哉さんが打席に立った際には、何卒よい球を)


そして、百度石へ。六度目。


(いえ、よい球では相手投手に失礼ですわね。どのような球でも直哉さんが打てますように)


早くも祈願の内容が具体的になってきた。


それでも、菊乃の足取りは乱れない。


百度石から本殿へ。


手を合わせて祈り、百度石へ戻る。


そして、また本殿へ。


ひたすら、それを繰り返す。


二十度。


三十度。


四十度――


空が少しずつ白み始める。


(守備の皆様も、どうかエラーをなさいませんように)


五十度。


(打線も繋がりますように)


六十度。


(出来ましたら、初回に先制を)


七十度。


(追加点も早めにお願い致します)


八十度。


(出来れば最終回まで、こちらが安心して観戦出来る点差で)


もはや必勝祈願というより、試合展開への細かな要望になっていた。


だが、菊乃は真剣だった。


全国大会ではない。


甲子園でもない。


財務省と警視庁SPの草野球。


しかも、ゴールデンウィークの一試合。


だが、菊乃には関係ない。


直哉が出場する。


ならば――


勝って欲しい。


出来れば怪我なく。

出来れば大差で。

出来れば直哉も活躍して。

出来れば最後まで一度も危なげなく。


そして、出来れば莉緒が安心して観戦出来る試合展開で。


願いは、どんどん増えていた。


九十八度。百度石へ戻る。


九十九度。また戻る。


百度。


本殿の前で手を合わせた菊乃は、長い祈りを終えると、静かに目を開けた。


これで百回。


お百度参りは終わりである。


菊乃は本殿に向かって深く頭を下げ、百度石へ戻った。


そして――


もう一度、本殿へ向かって歩き出した。


百一度目。


(最後にもう一度だけ――直哉さんのチームが必ず勝ちますように!)


祈りを終える。


菊乃が目を開ける。


そして――


(……もう一度くらい)


足が百度石へ向かいかける。


だが、途中でピタリと止まった。


「……いけませんわ」


危うく百二度参りになるところだった。


菊乃は静かに踵を返し、本殿に向かって深々と頭を下げた。


(あとは当日ですわね)


最強祖母は、まだやる気だ。


そうして、ようやく神社を後にする。


鳥居をくぐる頃には、薄暗かった空もすっかり明るくなっていた。


朝の住宅街を歩き、綾小路家へ戻る。


玄関を静かに開けると、まだ家の中に人の動く気配はない。


菊乃はそのまま浴室へ向かい、汗を流した。


浴室を出る頃には、二階から微かな物音が聞こえ始める。


莉緒が起きる時間が近い。


菊乃は鏡の前に座り、手早く髪を整える。

いつもの着物に袖を通し、帯を締める。

最後に鏡の中の自分を確認した、その時――


二階から莉緒が降りてくる足音がした。


菊乃の表情が、瞬時に柔らかくなる。


そして、莉緒が姿を見せると――


「莉緒ちゃん、おはよう❤️」


いつもと変わらない、優雅な笑顔。


そこには、つい先ほどまで神社で百一度も必勝祈願をし、危うく百二度目に突入しかけていた人物の面影など、一切なかった。


莉緒は、朝4時から祖母が父親の草野球のためにそこまでしていることなど、知る由もない。


そして、志穂はもちろん働いているので、お百度参りまでは到底出来ない。


だが、菊乃から「あなたも妻として、直哉さんの必勝祈願をなさい!」と厳命され、一日に一度、将門塚にお参りをしていた。


しかし、志穂も嫌々やっているわけではない。


こちらも本気だ。


(直哉さんのチームが勝てるように、お力をお貸しくださいませ!)


直哉の癒しの笑顔を悲しみにしたくない!


その一心で。


こうして――


菊乃は毎朝、お百度参りプラス一回。

志穂は毎日、将門塚へお参り。

さらに応援グッズも着々と増えていく。


ただの草野球のはずなのに、綾小路家だけは、もはや決勝戦を迎えるような勢いで準備が進んでいた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

この連載は火曜・金曜の20時の更新です。

次回も読んで下さると嬉しいです☆


Xはこちら→ https://x.com/himari61290

自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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