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担任の愛が重い。〜過保護な担任と最強お祖母ちゃんに、今日も溺愛されています〜  作者: 久茉莉himari


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12/15

【12】先生が私の名前を、ちゃんと呼べる朝。〜担任、次はハードル走よりも高い壁へ〜

莉緒はゆっくりアールグレイのミルクティーを飲むと、職員室に行き、ポットの下にお気に入りのメモとマスクを置いて帰った。


そうして、菊乃と二人で夕食を食べている時に、速水先生が淹れたてのアールグレイのミルクティーをわざわざ届けてくれたと話した。


菊乃は美しい笑顔を浮かべ、ホホホと笑うと言った。


「速水先生、気がつく方ねえ❤️

私からも何かお礼をしようかしら」


莉緒の顔がパッと花が咲いたようになる。


「じゃあ、お祖母ちゃんの抹茶オレはどうかな!?

もの凄く美味しいもん!」


「そうねえ。

先生のお口に合うと良いけど❤️」


「絶対に合うと思うな!

だって、あんなに美味しいアールグレイのミルクティーを、学校で淹れられるんだよ!?

お祖母ちゃんの抹茶オレ、きっと感動すると思う!」


「あらあら❤️

莉緒ちゃんったら大袈裟ねえ」


莉緒がニコニコと笑い、食事に戻った瞬間――

菊乃の目が、獲物を見つけた鷹のようにギラリと光った。




そうして、夜9時。


宿題も終わり、莉緒がスマホを見ると――

そこにはズラッと、紬からのメッセージが表示されていた。


『はやみん……!!

本当に花粉症かもしれない!

マスクして走ってる!!』


『ちょっと……グラウンド5周したんだけど!!』


『嘘!嘘!嘘!

マスクして10周したーーー!!』


『えー……

信じられない……!!

マスクを目につけて、スポドリ飲んでる!!』


『あ!

またマスクした!!

ハードル走してる……!!』


『おいおい……マスク……顎に掛けたまま、何か喋ってるよ!!

マスク取れば!?』


『だからーーー!!

頭にマスクするな!!

部活終わったなら、マスク取りなよ!!

何がしたいの!?』


『莉緒!

やっぱりはやみんは、お猿さんで進化の途中かも知れん……!!

マスクという現代の物に出会った喜びで、外せないのかも!

また明日も観察するね!

写真は明日持ってくね!』


莉緒は確信した。


(やっぱり先生は重度の花粉症なんだ……!!

花粉症って去年軽くても、急に重症化するってお母さんも言ってたし!

明日、予備のマスク持って行こうかな……?

でも、マスクをしてたなら、先生は自分のお気に入りのマスクがあるんだよね……。

出しゃばるのは良くないし……紬の明日の観察を聞いてからにしよう!)と。




翌日。


莉緒は家を出る時に、菊乃に「莉緒ちゃんのリクエストの抹茶オレよ。先生にお礼にお渡しして❤️」と、小さな水筒が入った紙袋を渡された。


「ありがとう!お祖母ちゃん!」と莉緒が笑顔で学校に行く。


そうして、教室に入ると、紬がアルバムの様な物を見て難しい顔をしていた。


「紬、おはよう!

どうしたの?」


紬は難しい顔のまま、莉緒を見た。


「……それがさあ……こうやって写真にすると、やっぱりはやみんって、本体はイケメンの野生のお猿さんなのかなって思って」


莉緒がクスリと笑う。


「先生は人間だよ?」


紬がずいっとアルバムを莉緒の机に乗せる。


「じゃあ、これ見てみ?」


莉緒がアルバムを開いて見ると――

秒単位で撮られたような速水先生が、ズラッと映っていた。


「紬……これ、どうやって撮ったの……!?」


丸く大きな瞳を更に真ん丸にしている莉緒に、紬が、ため息混じりに答える。


「教頭先生、鳥オタじゃん?

だから、『私もバードウォッチングしてみたいんです』って言って、学校に置いてある望遠カメラを借りて撮ったんだけど、高性能過ぎて操作が良く分かんなくて!

重たいしさ〜。

だから、オートっていうところを押しといて、私はレンズを覗いてた!

そしたら、はやみんのパラパラ写真が出来ちゃった!」


「バラバラ写真〜?」と莉緒が笑ってアルバムを捲ると――

莉緒の手が止まった。


紬がアルバムを覗き込むと、ビシッと指差す。


「ほら〜!

マスクして走ってるでしょ!?

これでグラウンド10周したんだよ!?」


莉緒は何も言えなかった。


速水先生がしているマスクは――

莉緒がアールグレイのミルクティーの入った水筒を返した時に、一緒に置いておいたマスクだったから。


(先生……!

私の置いたマスク、付けてくれたんだ!

それで……花粉をシャットダウン出来て、気に入ってくれたのかも知れない!)


その時、速水先生が教室に入って来た。


「皆さん!おはようございます!」


「速水先生、おはようございます!」とクラスのみんなが口を揃えて応え、速水先生の手元に視線が集中する。


そうして、速水先生が出席簿を開く。


透明な下敷きは――

無かった。


そして、速水先生が言った。


「綾小路莉緒さん」


どよめきが広がる教室。


莉緒はいつもの通り、「はい」と答えると、静かに手を上げる。


速水先生の出欠確認は続いた。




昼休み。


紬はお弁当を食べながら、ウンウン唸っていた。


「……何で……!?何で退化するの?

マスクという物質を知ったから!?

そっちに興味がいったのか……?

野生のお猿さんは分からん!」


莉緒は、もしかして……と思っていた。


昨日、マスクと一緒に置いたメモに書いておいたのだ。


『ありがとうございました。

美味しかったです。

ごちそうさまでした。

それと、先生は、私の名前をちゃんと言えていましたよ』と。


そして、莉緒は思った。


(速水先生は花粉症が直っただけかも知れないけど、私の名前を普通に呼べるようになって良かったな!)と。




そして、帰りのホームルームでも、速水先生は透明な下敷きを使わずに、出欠を取っていた。


莉緒のことも、普通に「綾小路莉緒さん」と呼んでいた。


紬はホームルームが終わった途端、「じゃあ!また今夜報告するね!」と言いながら、教室を飛び出して行く。


莉緒は速水先生が廊下に出たところで、「速水先生!」と呼んだ。


速水先生は、ゆっくり振り向いた。


「何ですか?」


速水先生は、ほんの少し、緊張しているように見えた。


莉緒がそっと小さな紙袋を差し出す。


「昨日のお礼です。

祖母が先生にって。

私の大好きな、祖母の手作りの抹茶オレが入っています。

18時間保温出来る水筒です」


速水先生が、今度は少し困った顔になる。


「お礼なんて、受け取れないんですよ。先生は」


莉緒はペコリと頭を下げた。


さらりと艷やかな黒髪が揺れる。


「すみません。

知らなくて。

ごきげんよう」


「ごきげんよう、綾小路さん」


先生がやさしく言って、去って行く。


莉緒はそのまま鞄を持つと、渡り廊下の奥にある、昨日見つけた裏庭に行った。


誰もいないベンチに、一人座る。


そして、イヤホンをして、速水先生の動画をリピート再生しながら、水筒を開けて、抹茶オレを飲んだ。


ふと、気づく。


涙が頬を伝わっていることに。


莉緒は動画に合わせて小さく歌った。


「カッコよくてスマン☆

魅せちゃってる俺、スマン☆

君の瞳一人占め、スマン☆」


すると――


「ネッ☆素敵過ぎてスマン☆

ネッ☆尊くてスマン☆

ヨッ☆君だけを見てる、僕の視線、熱くてスマン☆」


と歌声がして、莉緒はにこりと微笑んだ。


速水先生が、立っていた。


速水先生は早口に言った。


「喉が急に!本当に急に乾いてしまって!

一口飲ませて貰えませんか!?」


莉緒が「どうぞ」とコップを渡す。


すると、速水先生はコップを持ったかと思うと、一気に飲み干した。


そして、やさしく微笑むと、ハンカチを差し出して言った。


「今度は完璧なハードル走をしてみます!」


莉緒はハンカチで涙を拭うと、にこりと微笑む。


「ハードルを跳ぶんですか?」


速水先生は、また、やさしく言った。


「ハードル走は、飛ぶと言うより駆け抜けます」


そして、くるりと莉緒に背を向け、走り去る速水先生。


莉緒はハンカチを、握り締め、呟く。


「……駆け抜ける……。

きっと美しいですね」


だが、速水先生は、まずハードル走よりも越えなくてはならない高い壁に、挑むことになるのだった――

ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

この連載は、通常は火曜・金曜の20時の更新ですが、

只今、ゴールデンウィーク特別企画中です(^^)


詳しくは活動報告を読んで下さると、分かりやすいです。


次回も読んで下さると嬉しいです☆


Xはこちら→ https://x.com/himari61290


自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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