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担任の愛が重い。〜過保護な担任と最強お祖母ちゃんに、今日も溺愛されています〜  作者: 久茉莉himari


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11/16

【11】担任、ついに下敷きが立体化しました。〜裏庭で初めて知ったアールグレイのミルクティー〜

菱田先生が職員室に着くと、もう速水先生は席に着いていた。


「おはようございます」と声を掛ける菱田先生に、速水先生がニカッと笑う。


「おはようごさいます!

昨日は楽しかったですね!」


「ええ」


(何の成果もない食べ会になっちゃったけど……。

美味かったし、楽しかったし、ま、いっか……)


そう思いながら菱田先生が席に着くと――

速水先生が透明な下敷きを持って、じーっと見ていた。


菱田先生の鼓動が早くなる。


(で、出たーーー!! 透明の下敷き……!

今、今なら自然に聞ける……!?)


だが、そう思ったのも束の間――

菱田先生は固まった。




2年A組、ホームルームの時間。


速水先生が、いつものように爽やかな笑顔で教室に入って来る。


「皆さん、おはようございます!」


クラスのみんなは「おはようごさいます! 速水先生!」と声を揃えながら、目は先生が持つ出欠簿に釘付けだ。


すると――

速水先生は透明な下敷きを出し、カクッカクッと折って教卓の右脇に立てた。


教卓に透明な下敷きが一枚敷かれ、そして、それに連なる透明な下敷き二枚が、右脇を縦に遮断している。


静寂。


莉緒は思った。


(下敷きが立体化してる……!

先生、相当花粉症が酷いんだ……!

いつも私が携帯しているお祖母ちゃんが買ってくれたマスク……差し上げようかな!?)


紬は笑いを堪えながら、低い声で言った。


「……ふざけんな……はやみんよ……!」


その紬の声が終わらない内に、速水先生の声がする。


「綾小路莉緒さん」


莉緒がいつものように「はい」と答え、静かに手を上げる。


速水先生は、にっこり笑い、出欠を続けた。




昼休み。


莉緒が紬に『速水先生、重度花粉症説』を唱えると、紬は「待った! 待った! 待った!」と莉緒の話を遮った。


「なに?」と莉緒が不思議そうな顔になる。


紬がギラリと瞳を光らせる。


「でもさあ……あんな下敷き立てるくらい重度の花粉症なら、今までも噂になってたんじゃない?

これは……はやみんの進化なんだよ!」


「……進化?」と、益々不思議そうになる莉緒。


紬が深く頷く。


そう、自分の会社の持ち株が上昇した時のCEOの様に。


「莉緒には詳しく話せないけど……あの動画撮った時ね、はやみん……一回野生のお猿さんに戻ったの!

いや! 言わんでも良い!

はやみんは野生のお猿さんじゃないって、莉緒は思ってる!

莉緒の感覚は正しい。

でも……私はこの目で見た……。

あれは野生のお猿さん……!

そして、昨日文明化して、今日また進化した……!

これは観察しないと、正しい答えは出ない!

私が、一人で、はやみんを観察するから、莉緒は心配しないで」


莉緒は紬の言ってることが、全く理解出来なかったが、『あの動画』と紬が言った時に、昨日の放課後を思い出した。


(……楽しかったなあ……。

そうだ!

昨日の踊りと歌のお礼に、マスクを差し上げるのなら、先生も受け取ってくれるかも……!)




一方、職員室では。


自分の手作り弁当をモリモリ食べている速水先生と、速水先生を見ないように、前を向いてコンビニ弁当を食べている菱田先生がいた。


菱田先生は冷静を装いながら、心は大混乱だった。


(あの……透明な下敷き……!

確かに昨日は一枚の下敷きだったのに……!!

三枚になって……組み立て式になってた……!

しかも、出欠簿に毎回挟むって……!

速水先生……あの透明な下敷き……出欠に必須なんですか!?

もう、怖すぎて、理由を聞けなくなったじゃないですか!!)


すると、突然速水先生に「菱田先生!」と元気よく話しかけられて、思わず椅子からピョンと跳ねてしまう菱田先生。


「……な、何か……?」


そう、菱田先生が小声で訊くと、速水先生がニカッと笑う。


「今日、昨日の居酒屋の真似して、だし巻き卵作ってみたんですよ!

案外上手くいって!

良かったら味見してくれませんか?」


「……は、はい……」


すると、速水先生が菱田先生のお弁当に、だし巻き卵を一切れ置いた。


速水先生のアイドルさながらのキラキラした瞳に負けて、菱田先生がだし巻き卵を食べる。


菱田先生は、何とかごくんと飲み込むと言った。


「……美味しいです……」


速水先生が嬉しそうに笑う。


その爽やか過ぎる笑顔を見て、菱田先生は心底思った。


(悩んでない! こんなだし巻き卵作れて、こんな爽やかに笑える人は……悩みなんて無いんだよ……!!

俺が、朝に見た光景は幻だ……!!)と。




そうして、帰りのホームルームでも、速水先生は、あの透明な立体型下敷きを使った。


またも、2年A組を静寂が支配する。


放課後になると――

紬は、まるで重要任務を背負った工作員の様に莉緒に言った。


「私、今日からはやみんを観察してから帰るから!

夜にメッセージで報告するね!」


そして、紬はダッシュで教室を出て行く。


莉緒も帰り支度をすると、職員室に行って速水先生にマスクを渡そうと思い、ゆっくりと職員室に向かった。


渡り廊下を通り、ふと見ると、裏庭のベンチに気づく。


莉緒の顔に、幼くも美しい微笑みが浮かぶ。


(こんな所に、こんなにかわいいベンチがあったんだ!)


まるで大発見した気分で、そのベンチに一人座り、イヤホンをすると速水先生の棒高跳びの動画を観る。


少し傾いた太陽の中、春のそよ風を感じながら観る速水先生の棒高跳びは、自分の部屋で観るより100倍も美しいと思った。


(速水先生……本当に今度はハードル飛んでくれるのかなあ……)


そんなことを考えながら、思わず「カッコよくてスマン☆」を小さく口ずさむ。


すると――

スッとスマホが翳った。


莉緒が見上げると、速水先生がいた。


速水先生はやさしく微笑むと言った。


「綾小路さん、何してるの?」


莉緒はあっと思った。


(先生……私の名前、普通に呼んでる!)


だが、速水先生は気付いていないのか、スッと小さなステンレスの水筒を莉緒に差し出して続けた。


「綾小路さんは、アールグレイのミルクティー好きかな?

僕、大好きなんですよね。

それで……綾小路さん、中々ベンチから立たないし、冷えちゃったかと思って、淹れて来たんです」


莉緒は嬉しかった。


母親の志穂は香りの強い紅茶は苦手で、アールグレイは飲んだことが無かったから。


「飲んだことが無いので、飲みたいです!」


莉緒がにこりと微笑む。


先生はピョンと一回後ろに跳ねたが、直ぐに戻って言った。


「じゃあ、飲んでみて下さい。

好みに合わなかったら、無理しないで。

ポットは職員室の先生の机の上に置いておいて下さい」


そうして、ベンチにポットを置いて立ち去ろうとする速水先生に――

莉緒は叫んでいた。


「待って! 一緒に飲んで!」


咄嗟に出た言葉は、敬語を忘れていた。


速水先生がゆっくり振り返る。


速水先生は少し困った顔をしていたが、「良いですよ」とやさしく言うと、ベンチの水筒の蓋を開けた。


そして、小さなコップにアールグレイのミルクティーを注いで一口飲むと、笑顔で言った。


「我ながら、美味しいです!」


莉緒は差し出されたコップを、細く白い指先で受け取る。


そして、一口飲んでみる。


香り高いその紅茶は、とても美味しかった。


莉緒が小さく「とても美味しいです」と言うと、速水先生は「良かったです!」と言って、今度こそ走り去った。


莉緒はベンチに座り直すと、ゆっくりと小さなコップを傾けた。


ただ、春のその風が、莉緒とアールグレイのミルクティーを包んでいた。




そして、紬は――

教頭先生から借りた、バードウォッチング用の高性能カメラを、陸上部のグラウンドに向けていた。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

この連載は、通常は火曜・金曜の20時の更新ですが、

只今、ゴールデンウィーク特別企画中です(^^)


詳しくは活動報告を読んで下さると、分かりやすいです。


次回も読んで下さると嬉しいです☆


Xはこちら→ https://x.com/himari61290


自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪

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