【10】担任の悩みを聞く前に満腹です。〜菱田先生、居酒屋の戦い敗北の巻〜
そして、速水先生が職員室に戻ると、菱田先生が待ち構えていたように言った。
「速水先生!
今日、食事して帰りませんか?
部活無いんですよね?
ほら! たまに行く居酒屋!
僕たち、お酒飲めませんけど、おかずが美味いし!
あそこ全面禁煙ですし!」
そう、速水先生と菱田先生はタバコも吸わないし、お酒は全く飲めないが、居酒屋メニューは好きなタイプなのだ。
速水先生が爽やかな笑顔で答える。
「良いですね!
行きましょう!
あ、でも、僕あと一時間くらい掛かりますけど」
菱田先生も笑顔で応える。
「僕も丁度、一時間くらい掛かるので!
じゃあ決まりで!」
「はい!」
菱田先生は速水先生の笑顔を見て、ホッと息を吐いた。
そうして、行きつけの居酒屋に着いた速水先生と菱田先生。
速水先生がメニューを見ながら爽やかに言った。
「菱田先生。
飲み物はいつも通り、大ジョッキのウーロン茶で良いですか?」
菱田先生も笑顔で頷く。
「ええ。
食べ物も、適当に頼んで下さい」
速水先生が、ポーンとテーブルのボタンを押すと現れる店員。
「いらっしゃいませ! ご注文は?」
速水先生が笑顔で告げる。
「飲み物はウーロン茶を大ジョッキで二つ!
食べ物は、えーと……まず、白身魚の唐揚げチリソースかけと、ソーセージの三種盛りと、椎茸のチーズ焼きで!」
菱田先生が胸を撫で下ろす。
(よしよし……いつもの速水先生のペースだ……。
一息入れたら、あのダンスと透明な下敷きの件から切り出そう!
そして、速水先生の悩みを聞こう!)
そうして、まず、運ばれて来たウーロン茶で乾杯する二人。
速水先生はごくごくとウーロン茶を飲むと、「美味しいですね!」とにっこり笑う。
菱田先生もウーロン茶を一口飲むと言った。
「あの……速水先生……ちょっとお聞きしても良いですか?」
「はい! 何でしょう?」
その時、速水先生の声に被さるように――
「お待たせしましたー! 白身魚の唐揚げチリソースかけでーす!」と店員さんの声。
テーブルに置かれた料理に、早速手を伸ばす速水先生。
「菱田先生のぶんも取り分けますね!
ここのチリソース、美味いですよね〜!」
「あ、はい」
(まあ……一品くらい食べてからの方が話しやすいか……)と菱田先生が思っていると――
運ばれてくる、ソーセージ三種盛りと椎茸のチーズ焼き。
菱田先生のぶんも取り分けながら、バクバク食べている速水先生。
「うまっ! 熱々が美味しいですよ!
ここの椎茸、めちゃくちゃ肉厚ですよね〜!」
「あ……はい」
速水先生がずっと食べ続けているので、話が切り出せず、思わず速水先生を見つめてしまう菱田先生。
(凄い勢いで食べるなあ……。
体育の森谷先生みたいだ……。
あ! 放課後のダンス!
あれで腹が減ったとか!?)
やっと会話の糸口を見つけた菱田先生が言った。
「え、えーと……今日の放課後……」
その瞬間――
「うおー!! 菱田先生!
このソーセージ、更に美味くなってますよ! プリップリ!
どうぞ!」
どデカいソーセージを取り皿に乗せられてしまう菱田先生。
「あ、ありがとうございます。
で、ですね……今日の放課後、速水先生……教室でダンスを……」
「うーん……悩みますね……」
(悩む!? やった!
速水先生から話してくれるのか……!
ここはさり気なく、料理を食べながら待とう!)
菱田先生がソーセージにかぶりつくと、速水先生は深刻な顔をして言った。
「この、だし巻き卵……絶対美味しいやつですよね……!
あと、さっき白身魚の唐揚げ食べちゃったけど、このニンニク唐揚げ頼んでも良いですか!?」
「……あ、はい」
菱田先生が力なく答える。
(そっち!? 食べ物の悩み!?
いや……もしかしたら、照れているのかもしれない!
じゃあ一旦、ダンスは置いといて、下敷きの件から聞こう! いや……噂のメガホンでも良いな……!)
その間にも注文している速水先生。
「ウーロン茶大ジョッキを一つお代わりと、だし巻き卵とニンニク唐揚げ、あとシーザーサラダ! ドレッシング増しでお願いします!」
菱田先生が目を見開く。
(速水先生……シーザーサラダって……!
増えてるじゃないですか!)
コホンと咳払いをして、ウーロン茶を飲み、仕切りなおす菱田先生。
「あの……速水先生……今朝見せて頂いた透明の下敷きなんですけど……」
「あー! ハイハイ!」
幸せそうにニコニコと料理を食べている速水先生。
(速水先生、やっぱりイケメンだよなあ。
俺もイケメンって言われるけど……。
それに、悩んでいるようには見えないなあ……)
その菱田先生の一瞬の隙が、命取りだった。
「お待たせしましたー!!」
元気な店員さんの声と共に運ばれて来る、だし巻き卵と、シーザーサラダ。
速水先生の目が輝く。
「わー!
美味そう!
あ、えーと……何のお話でしたっけ?」
「いや……。
お先にお食事なさって下さい」
「良いんですか!? ありがとうございます!」
にっこり笑ってだし巻きを食べる速水先生。
(だし巻き卵……一個食べた……!
良し! シーザーサラダも一口いったら……ズバリ綾小路さんの名前を出そう!
下敷きは後回しだ!)
そう、決意した菱田先生に、無情にも響く店員さんの声。
「お待たせしましたー!!
ニンニク唐揚げです!!」
菱田先生が真っ青になる。
(嘘だろう……!?
また熱々で食べたい系が来ちゃったじゃないか……!!)
湯気の立つ唐揚げに、またも目を輝かせる速水先生。
だが、速水先生はニンニク唐揚げに箸を伸ばさず、静かに言った。
「……菱田先生……もしかして……」
(おっ……!!
来たか!? 俺の気持ちを察してくれたか……!?)
菱田先生の顔色が戻る。
すると、速水先生がニカッと笑った。
「先生……もしかして……サッパリ系が良かったですか?
じゃあ刺身の盛り合わせ、頼みますね!!」
(違ーう!!
それに、まだ食べるんですか……速水先生!!)
菱田先生が心の内で悲鳴を上げる中――
速水先生は店員を呼ぶと、爽やかな笑顔で言った。
「刺身の舟盛り、一つお願いします!」
(舟盛り……!?
貝の盛り合わせで良いですよ!!)
そうして――
菱田先生は速水先生に何一つ訊くことが出来ずに、満腹で帰りの電車で揺られていた。
いや、メガホンの事は聞けた。
ただ、それは禁断の質問だった。
速水先生はメガホンのメーカーから、その美点を延々と語り出したのだ。
軽量なのに、共鳴効率が良い。
持ちやすさ。
その構造について。
そして、用途の幅までも。
菱田先生は電車の窓に映る夜景を見ながら思った。
(今度の体育祭の時の備品に、教頭先生に申請してみようかな……。
あと、あの居酒屋はやっぱり美味いな……。
それと刺身は赤身だな……)と。
そうして、翌日、菱田先生はまたも目撃してしまうのだった――
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