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タイトル未定2026/04/07 19:50

 新人冒険者教育訓練初日。

 会場に到着すると血気盛んな若者達がガヤガヤと騒いでいた。

 教官との顔合わせとなれば、それなりに緊張している物だとばかり思っていたが、どうもこの場に集まった者達は、そんな可愛さなんて持ち合わせていないらしい。

 そんな中、私は周りとは真逆に緊張しっぱなしで元々シャイな性格なのも相まって周りに溶け込めずにいた。

 ガラガラと教室の扉が開き入ってきた一人の男の姿に皆黙って注目した。

 その男は、腕がなく、長袖をたなびかせていたのである。

 気迫はなく、精気もなく、まるで幽霊の様で、静かでどこか異質な雰囲気。

 噂に聞く『死神』と呼ばれる冒険者だとその場の誰もが理解した。


「えー本日から君らの担当教官を務めることになったリインカと言う者だ。役職はアサシン。隠密行動と生存自活を得意としている。どうぞよろしく。質問ある者いるか?」


 すると一番生意気そうな生徒が手を挙げた。


「腕なしで冒険者はできるんですかぁ?」


 差別的で嫌味たらしい質問に教官は悩むことなく即答で答えた。


「できない。だからここにいる」


 教室中悪意のある笑いの渦に包まれる。


「そんな人が何を教えられるんですか?」

「他にもっと相応しい人いなかったんですか?ほら!もっと強くて五大満足のベテランとか!」

「適任だったから俺が選ばれた。俺以上を求めるなら軍にでも入るんだな」


 どれだけ馬鹿にしても顔色ひとつ変えない教官が面白くないようで「つまんねー」と教官への興味をなくした生徒達はそっぽを向いて再び騒ぎ始めた。

 このままではまともな教習も受けられずに半年後を迎えてしまう。

 周りのみんなはそれなりに狩りや剣技の競技会等で十分な経験を積んでいるから問題ないかもしれないが、魔術にしか脳がない私にとっては死活問題だ。

 だからと言って「真面目にやろうよ!」なんてコミュ症の私に言えるはずもない。

 しかし教官は、そんな事気にせず話し始めた。


「これから始まる半年間の新人冒険者教育訓練の目的は大きく二つある。お前達に冒険者として必要な知識技能を習得させる事が一つ。もう一つは無駄に伸びきったお前らの鼻をへし折る事だ」


 突然の暴言にクラスは静まり返った。

 こうなるのを狙っていたと言わんばかりに教官は続けて発言する。


「この中で俺に勝てる自信のある者いるか?いるなら表にでろ。俺に勝てる奴が一人でもいたらお前らの好きにさせてやる」


 教官からの命令に生徒達は一瞬、戸惑ったが、すぐに「さっさと黙らせて楽な研修にするか」とゾロゾロ表に出て行った。


「え?皆んな勝つ自信あるの?」


 思わず疑問を漏らすと皆は「当たり前だろ!相手は腕失って戦意消失した腰抜けだぞ?」と教官に聞こえる様にわざと大声で答えが返してきた。

 私以外全員が表に出て行ってしまい一人残されていると「いい機会だからお前も見に来い」と教官に肩を捕まれて結局私まで表に出させられた。

 中庭に出た生徒達は訓練用の闘技場を囲む様に円を作り、その中央で一人の生徒と教官が向かい合う。

 丸腰の教官に対して生徒は木剣を構えた。

 生徒の名は「ハリス」

 若くしていくつもの有名な剣技の大会に出場し、その全てで上位に入り続けた剣術界期待の星と呼ばれている青年だ。

 そんな彼に丸腰で挑むなんて無謀だと皆が口にした。

 私もそう思った。

 案の定、いざ試合が始まるとハリスの凄まじい猛攻に教官は反撃出来ずにいる様だった。

 木剣を突き出し、振りかざす。

 合間に蹴りを混ぜてパターンを何度も変え続ける隙のない見事な蓮撃。

 だが、その全てが教官に当たる事はなかった。

 掠りもしない。

 この時点でなんとなく私は気づいてしまった。

 これは生徒の実力を図るためのテストなのだ。

 生徒の実力を引き出すために教官はわざと受けに回っている。

 それを知ってか知らずか面白がって生徒達は、ヤジを飛ばし始めた。

 

「おい!ハリス!遊びすぎだぞ!」


 生徒達は、ハリスが手加減している様に見えているようだが、当の本人は焦ってい流様子だった。


「うるせぇ!黙ってろ!」


 地元では負け無しで、天才とまで言われてきたハリスの剣が、通用していない。

 技の全てが宙を斬り、肩で息をしているハリスに対して、教官は汗水ひとつ流す事はなかった。

 ハリスの方が優位に思えた試合だったはずが、今ではハリスの方が追い詰められている様に見える。


「疲れただろ?きついならやめて良いぞ?」


 おそらく教官は悪気なくそのままの意味を込めて発言したのだろう。

 だが、満身創痍のハリスにはただの煽りにしか聞こえていないようだった。

 勝負はもう終わったと思って、背を向けた教官。

 ハリスはその後頭部めがけて大きく振り上げた木剣を振り下ろそうとした。


「教官!危ない!!」


 ダメ元で声を上げたがもう遅い。

 圧倒的に不利な姿勢、配置、気構え、いくら教官と言えど防ぎ用のない一撃だとその場の誰もが思った。


「ッ!?」


 しかし次の瞬間、地面に膝をついたのはハリスの方だった。

 一部始終を見ていた生徒は皆、ハリスを倒した教官の異質な動きに驚愕した。

 剣が振り下ろされるよりも先に懐に入り込んだ教官は背中でハリスの胸を「とん」と押した。

 たったそれだけだった。

 あまりにも非力で、優しく、羽で叩かれた程度の衝撃しか感じ取れないその一撃で、成人男性に膝をつかせたのである。

 皆は一瞬、戸惑ったがすぐにどっと笑いが起こった。

 そして皆は口を揃えてこう言った。


「おいおい!面白い冗談だぜ!」


 まるでハリスが笑いを求めて演技でもしている様ないい草だった。

 腹を抱えて悶え苦しむハリスの姿をみて「しつけぇぞ!」と続けて冷やかす野次馬達。

 しかし、ハリスの容態はみるみる悪化していく。

 咳き込み始めるとそのまま嘔吐した。

 黄色い吐瀉物を見た皆は、青ざめて理解した。

 これは演技ではない。

 ハリスは本気でやって敗北したのだ。


「力強く無駄も少ない。いい動きだった。最後の不意打ちも悪くなかった。だが、それだけだ。試合でなら今のやり方で勝てるかもしれんが、お前らがこれから行おうとしているのは、ルールのない殺し合いだ。このままでは通用しない。まぁ単体のオークまでならぶっ殺せそうだから自信を持て…後は_____」


 教官はその場にしゃがみ込んで、ハリスと目線を合わせると鋭い目つきで睨みつけた。

 目があったハリスは、食物連鎖の上位存在と対面した非捕食者のように恐怖に囚われ、凍りついた様に動けなくなってしまっている。


「さっさと立て。おれが魔物や盗賊ならとっくにぶち殺されてるぞ?死にてぇのか?」

「はっはい!」


 我に帰り慌てて立ち上がるハリスに対して教官は「差し出す手がなくて悪いな」と皮肉を言った。

 腕があれば瞬殺していた。

 そうとも取れるその言葉に生意気だったハリスは黙って頷くしかなかった。

 その様子を見た生徒達は、教官の実力を認めた…と言うよりも、得体の知れない技を使う存在を前に押し黙るしかなく、飲み屋の様に騒がしかった訓練場が嵐らしの後の様に静まり返った。

 沈黙を作り出した本人がその沈黙を破る。


「次!やりたい者は前に出ろ!自信あるんだろ?だから舐めた態度で俺をためしたんだろ?ほら!どうする?ちなみに全員やらなきゃ帰さねぇぞ?」

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