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タイトル未定2026/04/08 17:23

その後、教官は二時間かけて生徒達をボコボコにして各人のプライドをズタズタに引き裂いた。

 ようやく帰れると思った矢先、涼しい顔をした教官に「お前もだ。来い」と腕を引かれて前に出されてしまった。

 いやいや前に出された私を皆が哀れみの目で見ている。

 コミュ症であがり症の私からしてみればただの拷問だ。

 みんなの前で恥をかきたくない。

 そもそもなんで私までやらなきゃいけないの?私は真面目にしてたじゃん!できるだけ存在感も殺してたのにどうしてこんなっちゃったんだよ!

 私の内心とは裏腹に試合は始まってしまう。

 やけくそになって杖を構える。

 もうどうにでもなれ!

 魔法陣を展開すると教官は驚いたように目を見開いた。


「お前その魔法陣は!?」

「え?どうかされましたか?」


 よく聞こえなかったため聞き返したが「いやなんでもない」と返される。

 そうして始まった決闘。


 同期達の虐殺現場を見ていた私は「とにかく教官を近づけてはならない」事だけは理解していたため、全力で距離をとりながら弾幕を張った。

 槍状に整形した氷を飛ばしたり、火の玉を飛ばしてみたり、レーザー光線を飛ばしてみたり、いろいろ試してみたが全て避けられ、気づけば手が届く距離まで詰められていた。

 咄嗟に防御を固めようとしたが、すでに遅い。


「うへッ!?」


 教官の膝蹴りが腹に深々とめり込み、朝食べたスクランブルエッグと胃酸が混じった吐瀉物を口からぶちまける。


「オエェッ!?」


 ひとしきり吐いた後も最悪な気分が続く。

 口の中に酸味が残り、空腹感が遅れてやってくる。強烈な異臭が鼻に入ってきて、さらに吐きそうになった。

 足元の黄色い水溜りから視線を上げる。

 めまいがするせいでうっすらとしか見えないが、影が近付いてくるのを確認できた。

 静かで生気を感じない幽霊のような人物。

 影の正体は間違いなく教官だ。

 後数メートルで攻撃可能な範囲に入る。

 鼻水と涙を流しながらも影の動きに警戒していると教官の影は想定よりも離れた位置で止まった。


「トラップを仕掛けてるな?」

「……そんな余裕があったように見えますか?」


 教官は、足元に転がっていた小石を蹴り飛ばした。

 小石が転がった先で、小さな爆発が起きて白い冷気が半径三メートルの範囲を氷付にした。


「よく仕掛けたな。素晴らしい判断と演技だ」


 教官は褒めてくれているが、最後の切り札さえも見抜かれていた事に変わりはない。

 自分のレベルの低さを実感して、元からほとんどなかった自信が消えてしまいそうになる。


「美しい魔法陣だった。よくその歳で身につけたな」

「いえ…まだまだ私は半人前です。魔法陣だって師匠のマルパクリだし…」

「お前が使っている魔法陣は、すでに完成されたものだ。それを身につけられてるなら、わざわざ変える必要はない。自信を持て、そして師匠に感謝しろ」

「…はい」


 小声で励ますと教官は口笛を鳴らして生徒達の目線を集めた。


「全員注目しろ。本日の総評を述べる」


 数時間前までだったら、私以外の誰も言うことを聞かなかっただろう。

 しかし、生徒達はこの数時間で思い知った。「俺達はまだまだ雑魚であり、目の前の人物に逆える立場ではない」と。

 その結果、口笛一つで静まり返って、教官へ目線を向ける様になった。もはや誰一人として教官に逆らう者はいない。


「俺が想定していたより全体的にレベルが高かった。とくにハリスとサリン」


 え?私?


「お前ら2トップだ」


 ハリスは当然だけどなんで私までそんな評価されてるの?ボロ負けだったのにどうしてだ?それに目立ちたくないのにこんなみんなの前で名前出されたら変に注目されてしまうでないか。

 思った通り、皆んなの目線がハリスと私に集中した。周りの目線が痛く感じて咄嗟にフードを被って防御する。

 皆は口には出していないが、「どうしてお前が?」と思っているに違いない。

 そう考えると胸が苦しくなった。


「でもまぁ、どいつもこいつもまだまだ現場には立たせられない。どんぐりの背比べってやつだな。大差ないから安心しろ」


 生徒達の当初の態度を根に持っているのか?総評と言いながらもほぼ悪口だ。


「俺の腕がない理由は単純に俺より賢く強い奴と戦ったからだ。それが何を意味するかわかるな?」


 つまり、腕のない教官に惨敗している様じゃあ、現場に出てすぐ死ぬという事だ。と言うか、こんな化け物から腕を奪うってどんな魔物だよ。


「本日の訓練は以上だ。明日は座学を行う。飲み物の持ち込みは許すが居眠りは許さない。質問あるがある者は挙手」


 誰も手を挙げていないのを確認するとそのまま解散となった。

 別れ際に教官が言った「地獄にようこそ!」と言う一言が頭から離れず、その夜はあまり眠れなかった。

 

 *

 

 ギルドに戻って報告書を提出する。

 それを受け取るなり、シーナは気前よく「サービスです!どうぞ!」とコーヒーを差し出してくれた。

 なにか裏がありそうだ。


「お疲れ様でした!どうでした?手応えあります?」

「一通り確認したが、全員土台はしっかりしていた。後は指導者である俺次第で化ける事だろう」

「そうですか!それなら安心ですね!…ところで…」


 シーナは威圧的な目線を向けながら、カウンターの上に五枚の資料を叩きつけて指でコツコツと突いた。


「初日からすでに5名も自主退学者が出たのはどう説明するつもりですか?」

「まずやってみせる。でなきゃ人は育たん。体育会系はとくにそうだ。だからやった。無駄なプライドをへし折ったんだよ」

「ハァ〜」


 馬鹿でかいため息をつくシーナに背を向けて帰路に着こうとすると「何人残りそうですか?」と心配そうに尋ねて来た。

「そうだなぁー」と足を止め、天井を眺めながら計算し、出た答えを伝えた。


「五人残れば良い方だな」

「えぇ……」

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