タイトル未定2026/04/07 19:30
「冒険者引退?」
「そうだ。流石にこの体じゃあ戦いようがない。腕がないんじゃ薬草採取もままならないだろう。若手も育ってきたんだ。問題ないだろう?」
「義手はどうです?」
「試してみたんだが、せいぜい日常生活を不自由なく送れるレベルの物だった。戦場に出るには心許ない」
「そうですか…」
シーナは残念そうに肩を落とした。
ここまで頼りにしてくれているのは嬉しいのだが、それに答えられなければただ迷惑をかけるだけの結果になる。時には潔さも必要だ。
「では!ここにサインをお願いします!」
「…ん?…おかしいな。俺は退職の手続きをしにきたんだが?」
差し出されたのは退職願いではなく、新しく新設された、冒険者新人教育訓練場の教官希望書だった。
「俺に教官になれと?」
「前線に出なければいいのでしょう?お似合いだと思いますが?」
どうやらまだ引退させてくれないらしい。
*
激動の一週間を乗り越えて、ようやく自宅で一晩過ごせた次の日、まだ、朝礼前だと言うのにギルド長にお呼ばれされてしまった。
正直いって面倒くさい。
何となく呼ばれた理由はわかっているが、それでも勤務時間外に下らない理由で拘束されるのは非常に不服だ。
無駄に豪華で分厚い扉の前で、大きくため息をついて、三回たたくと中からの「入れ」と声が聞こえた瞬間に扉を開いて入室した。
「こんな朝早くから、ギルド長様はお暇なんですね?何の様です?お茶でも入れて欲しいんですか?」
冷めきった目つきに対してギルド長はただ静かに「座れ」と命令する。
やれやれとわざとらしくため息をついて向かい側に腰を下ろす。
そして、机に置かれた紅茶を一気飲み干して「ご馳走様です!いい紅茶ですね!」と遠回しに時間がない事をアピールした。
しかし、ギルド長の態度は1ミリも変わらない。
ギルド長は手に持つカップから立ちのぼる湯気を鼻に当てて、気持ちよさそうに吸い込むと一口飲んで「高級な紅茶だ。香りをしっかり楽しまなきゃもったいない」と皮肉を返して来た。
わざとらしくでかい舌打ちをすると「わかったよ。本題に入るからイライラしないでくれ」とようやくカップを置いた。
「要件は、冒険者新人育成教育訓練についてだ」
「でしょうね」
冒険者新人育成教育とは、その名の通り、冒険者になる前の研修期間である。
半年の訓練で、冒険者として必要な知識技能を習得させて人材を育てる事を目的としているのだが、かつて地獄と言われたこの研修期間も、最近はマンネリ化していて、誰でも簡単に何の苦労もせず乗り切れる様になってしまっている。
そのせいでまともな戦力は育たず新人冒険者の死亡率は年々増加していた。
そこで、教育訓練の内容をすべて見直して改善しようとギルドが動き始めたのである。
私に任された仕事は、そのテコ入れした教育訓練の担当教官に相応しい人間を推薦する事だった。
「なぜリインカなんだ?他にも適任者はいたはずだ。ゼインはどうだ彼も優秀だろ?」
ギルド長のいいたいことはわからなくもない。
確かにゼインはずば抜けた実績があり、五体満足で、知識技能も十分にある。
だが、それだけだ。それだけでは新人教育訓練の教官は務まらない。
もっと深く広い経験を持つリインカでなければ新人教育訓練の根本を変える事はできないだろう。
それに彼が前線を引いた今、貴重な戦力を二人目までも下げるわけにはいかない。
……と報告書には書いておいたはずなのだが、理解してくれてないらしい。
面倒なので端的に済ませることにした。
「一番強いからです」
「それだけか?」
「はい。知識、技能、実績、性格どれをとっても並ぶ者は存在しません」
「最近腕を失ったそうじゃないか?そんな状態で務まるのか?」
「彼が腕を失っただけで弱体化すると思いますか?」
「普通はするだろう?それとも彼は例外だと言うのか?」
「そうですけど?」
「君は、教育訓練の現場を見た事あるか?」
「ありますよ。私でもこなせそうな低レベルで、見ているとあくびが止まらなくなるほど下らないものでした。あんなんじゃ新人に爆弾持たせて特攻させた方がマシですよ」
「彼ならそれを変えられると?腕を失って路頭に迷っている彼に、仕事を与えたいだけでないのか?」
「だとしてらなんです?ギルドは何度も村を救った英雄が使えなくなったら、闇に葬り去ってさよならバイバイする組織なんですか?」
「そこまでは言っていない。彼の今後は、実績に応じた退職金で保証するつもりだ」
「えー手放しちゃうんですかー?持ったないないですよ!腕がなくても彼にはこれまで培った知識技能があるんですよ?それを新人に身につけさせれば強い人材を確保できる」
「…わかった。君の考えを尊重しよう。ただし一度だ。この一度目で『死神』の名を次ぐ強者を排出しろ。でなきゃ即刻クビにする」
「かしこまりました!伝えときますね!」




