タイトル未定2026/03/30 16:56
「え?!」
確かミリアのリインカはギルド長直々の遊撃任務に当たっているはずだ。
もしミリアの言っている事が正しければリインカは遊撃と称して、たった一人で戦っていることになる。それも村に来た以上の数を相手にだ。
「だとしたらどうやって?!」
質問に対してミリアはキレ気味に答える。
「知るかよ!でもそれ以外に説明がつかねぇだろうが!」
「そうだけど…」
「止まれ!」
ミリアが目の前で突然拳を上げて停止したためブレーキが間に合わず、ミリアと激突するのを避けたせいで、その場に滑り込むように仰向け顔面から転けてしまった。
「ちょ!ミリア!急に止まらなっ_____」
胸ぐらを掴まれ雑に岩陰へ引き摺り込まれる。
赤く腫れた顔面を「イタタ…」とさすっているシワックを見向きもせずミリアは静かで鋭い目つきを岩の向こう側へ向けている。
「見つけた」
ミリアと同じ方を覗いてみるとそこはまさに地獄のような光景が広がっていた。
ここは何度も通ったことのある野原だったのはずなのだが、目の前には野原の代わりに焼け野原が広がっていた。
魔物の死体の山が幾つもあり、その中央には血まみれで、右手を失い、地面に両膝をついたリインカの姿だがあった。
「この数をたった一人で殺ったのか?!」
広がる焼け野原に転がる死体の数はパッと見ただけで軽く2000体は超えている。
疑いようもない事実であるはずなのに目の前の光景を目の当たりにした今でも信じられなかった。
確かにリインカは強い。
下手な剣士よりも腕は立つし、ベテランの冒険者でも知らない様な事まで知っていたりする。
だからってたった一人で魔物の大群に勝ってしまうなんてはっきり言って異常だ。
「この大馬鹿野郎が!!」
しかしミリアはリインカの事をいっさい疑がう事なく目の前の光景を受け入れた。
リインカの実力を信じているからこそミリアは怒りをあらわにした。
己の師を馬鹿呼ばわりしたミリアは、そのままふらふらのリインカの胸ぐらを掴んで無理やり立ち上がらせた。
「なんで一人で戦った!!なんのために俺達は防衛線を築いたと思ってんだ!!」
「冒険者は軍人じゃない。他部隊との連携を想定している軍人なら即興の連携は可能だろうが、冒険者にそれをやらせるのは現実的じゃない。パーティーメンバーならともかくつい昨日まで他人だったやつに背中を任せられるわけないだろう?」
「一人で戦うよりはるかにマシだろうが!」
「確かに今回の魔物の大群はただ集まって進軍するだけの無能集団だった。だが、逆に言えば規則性はなく統制もない。思想もバラバラ。それゆえに動きが読みづらい。100%防ぐなんてほぼ不可能だろう。あのまま正門で迎え撃っていれば取りこぼしが手薄な村の中に入り込んで甚大な被害を出していたはずだ」
「あの防衛線に不満があるならギルドに意見を出せばよかったじゃねぇか!」
「意見具申なら何度もやったさ。それでも一度決められたものはそう簡単には覆らなかった。だから俺はここで戦ったんだよ」
「……だったら俺だでも連れてくれば良かったじゃねぇか…俺はそんなに頼りないのかよ」
「お前はまだ半人前だ。足手纏いにしかならない」
ぽつりぽつりと雨が降り始める。
悔し涙を隠す様に頰をたたって無数の雫が落ちていく。
ミリアが必死に体を鍛えて、嫌いな勉学に励んできたのは憧れの師に少しでも近づいて、その背中を守る事で今まで溜まりに溜まった恩を少しでも返したかったからだ。
やっとその時が来たと思ったのに結局、リインカは誰にも頼らず一人で戦った。
その結果、片腕を失う重症を負ったが、この結末を知っていたとしてもリインカは同じ選択をしていただろう。
実力不足なのは十分承知している。それでもリインカが頼ってくれなかったのは悔しくて仕方がなかった。
「言い様だな_____」
突然、真っ黒なキシードをスマートに着こなした細身の老人が死体の影から現れる。
「なんだお前?」
寒気がする。
吐き気もだ。
自分よりも遥かに強大な何かと遭遇したような、本能的に逃げ出したくなるようなそんな感覚だ。
心臓の鼓動が荒くなるのを感じる。
この老人はヤバいと警告の金をならしているしているようだ。
「どけハーピーの生き残り。そいつはここで殺さなければならない存在だ」
「うるせぇよ!だったらどかしてみろよ!老害が!」
ナイフを構えて臨戦体制に入る。対して老人は意味ありげな装飾品がつけられた剣を構える。
蛇に睨まれたカエルのような気分だが、それでも引き下がるわけには行かない。それにこちらにだって勝機はあるのだ。
気配も物音も極限まで抑えて死体の山の中を寿王無人に走り回った。
師の教えを完璧に守った動きだ。
老人の視線が逸れた瞬間に、囮の幻術を出す。
老人が幻術に視線を向けたところで気づかれることなく見事敵の背後に回り込んだ。
まだ気づかれていない。
ナイフを手に取りゆっくりと近づいていく。
そしてその刃で標的の首を切り裂いた。
人間の姿をした相手であっても躊躇はなかった。
意外にも罪悪感はない。明らかな格上をに上手くいくかの不安だったため、今はただ罪悪感を超える手応えを感じていた。
「武器を向けてくる相手は全員敵だ」それが師の教えだった。たとえそれが同族だったとしても自分を、仲間を、家族を守るためなら躊躇うな。
後悔や反省は全部終わってからやればいい。
「言われた通りやったぜ!師匠!」
「それでいい。だが…爪が甘い」
老人は首を抑えながらこちらに振り返った。
嫌な予感がして距離を取る。
それなりに深く切り裂いたはずだったのだが、老人は平然と生きている。
得物が妙に軽く感じて、手元を見るとナイフの刃が根本から切り落とされていた。
あの一瞬で切り落とされたのか?
「その程度か?」
余裕そうな表情で、こちらに迫ってくる。
体が動かせない。意識ははっきりしていて、視界も鮮明だ。なのに歩くことも、腕を上げることも、瞬きすらできない。
まるで金縛りにでもかかったように動けなくなってしまった。
間違いなくこの老人による「精神攻撃」だ。
想定外の反撃に戸惑っていると老人は間髪入れずに次の攻撃を仕掛けてきた。
「首を裂いて自害しろ」
その声に反応して腕が勝手に動く。
刀身がなくなってナイフを捨てて、新たにナイフを手に取った。
己を守るはずの黒色の刀身が自らを殺そうと喉元へ向けられる。
必死に抵抗を試みるも多少動きがノロくなるだけで動きを止めることは出来ない。
「お前ごとき自ら手をくだすまだもないってか?ふざけやがって!」
その様子を見て勝利を確信した老人は、こちらに背を向けて、瀕死状態のリインカの元へ向かっている。
好都合だ。
ムカつく事だが、俺を舐め腐ってくれたおかげで隙が出来た。
人差し指をほんの少し動かす。たったそれだけで、この状況を覆せる。
ポケットに忍ばせ続けて、もはやお守りと化していた切り札をようやく使う時が来たのだ。
この時代においてのその武器は、かなり希少で、扱いが難しく、ニ発までしか装填はできない物だった。手持ちの弾もあちこち探し回ってようやく手に入れたたったの五発のみ。
さらには一発撃つ事に、騒音を響かせると言うアサシンとは相性最悪なおまけつきである。
そのため極力使わずにいた。
まさかそれを使う時が来るとは思わなかったが、この際仕方がない。




