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タイトル未定2026/03/27 08:29

オークに担がれ連れてこられた魔物の住みかは、人がいなくなり廃墟となった村だった。

 まさかこんな近くにオークの群れが住み着いていたとは思わなかった。

 廃墟のほとんどは半壊していてまともなインフラが整っているようには見えない。

 一部の頑丈な施設だけは、まだ住めそうなほど原型を保っているようだ。

 私が担ぎ込まれたのはその中でも頑丈で広い何かしらの公共施設のような建物だった。

 私はそんな建物のなかでも、異臭を放つ公共トイレの中へ放り込まれた。

 それも男性用の方だ。

 当然だがまともな清掃は行われていないようで排泄物が溜まりに溜まって全体的に茶色く変色しており鼻が曲がりそうなほど臭い。

 最悪だ。

 早くゼイン達に伝えなければならないのにオーク達はそんな暇を与えてはくれなかった。

 涎を垂らしながら股から性器を肥大化させたオーク達が私を待っていたと言わんばかりに囲み込んできたのだ。

 トイレに現れたオークの体はどれも先ほどまで戦っていた個体より小さく幼い顔つきをしている。

 まるで子豚に毛が生えたような見た目だ。


「子供の玩具にするつもり?」


 この上ない屈辱だ。

 しかし好都合。

 杖は奪われたが全ての魔術が使えなくなったわけではない。

 幼体が相手なら私一人でなんとかなるはずだ。

 その場に手をついて魔法陣を展開しようとした時に一つの誤算に気がつく。


「プギィ!!」


 私を運んで来た個体がまだ残って監視している。

 幼体ならともかく成熟した個体に杖なしで使える魔術だけじゃあ勝てるわけがない。


「終わった…」


 その場に糸の切られた人形の様にくず落ちる。


「シワックがいれば…」


 愚かなことをした。

 今思えばシワックがいつもボロボロになっていたのは私達、魔法使いを庇っていたせいだ。

 私達がよくとる陣形は前衛二名を前に出して後方に魔法使い二名、そしてそれを守りつつ前衛の支援を行うシワックがいて初めて完成する。

 誰か一人でもかければ陣形が崩れてしまうと言うのにそんな簡単な事をランクが上がったことに自惚れた私達は忘れてしまっていた。

 シワックが守ってくれていたから、私達は支援に専念できていた。シワックがいたから前衛は目の前の敵に集中できていたのだ。


「ごめんなさい…シワック」


 今更謝ってももう遅い。

 シワックはとっくに別のパーティへ移籍してしまった。

 同じ依頼を受けているとはいえ別行動をしている彼が私を見つけ出してくれるはずがない。

 そもそも私が連れ去られたことすら彼は知らないはずだし、パーティの違う私を守る義理もない。

 もう抵抗する気力すら今の私にはなかった。

 これは戒めだ。

 私達は、一つも文句を言わない事をいいことに誰よりも傷ついているのも無視して、面倒な裏方の仕事をシワックに押し付けてきたんだ。

 最低だ。

 こんな目にあって当然なんだ。

 オーク達の臭い息がまじかまで迫ってきた。

 コイツらから辱めを受けるくらいなら自分の意思で死んでやる。


「くたばれ!」


 舌をかみちぎり自害しようとした、その次の瞬間、成熟オークの首から血が吹き出した。


「プギィ!?」


 吹き出す血を必死に止めようと自ら首を押さえているが、傷が深すぎて止血が追いつかずそのまま成熟オークは死亡した。

 親を失いパニックを起こして、逃げ出そうとする幼体オークの前に、三人の人影が立ちはだかった。


「師匠。確かオークの幼体は殺しても怒られなかったよな?」

「その通りだ。スライムとかの益獣と違ってゴブリンやオークは害獣扱いになる。よってコイツらを駆逐しても罰金は発生しない」


 そこに現れたのはアサシンパーティーの三人だった。私を助けに来たというよりも、たまたま殴り込んだ先に私がいたと言う様子で、私を発見したシワックは驚いていた。


「アイラ?!なんでこんなとこに?」

「逸れたのか?まぁいい。お前が保護してやれ。オークはまかせろ」

「シワック…」


 もう無理だと思っていた。

 誰かが守ってくれるのが当たり前じゃない事を知り今回は誰も助けてくれない、守ってくれないと諦めた矢先にシリックが駆けつけて来てくれた。

 もう違うパーティーの私に、今まで感謝の言葉一つ発さなかったこの私に彼は優しく手を差し伸べてくれた。

 安心して瞼から涙がこぼれ落ちてくる。


「大丈夫!うちのパーティも強いから安心して!」

「…ごめん。シリック。今まで本当に…」

「いいんだよ。僕もアイラの魔術に助けられてきたから」

「でも…私は…」


 こんな謝罪で許されない事をしてきたのにシリックは優しく微笑みかけてくれる。


「それにきずいたんだ。」

「なにに?」

「今まで君に頼りすぎたことに。本来はあんなに魔術に依存するべきじゃあなかったんだ」

「うん…うん?」


 涙でよく見えなかったため気付くのが遅れたがオリックの目に光がない。

 そしてもう一つの違和感に気づく。

オリックの背後で行われている戦いは戦と言うにはあまりにも一方的で残酷なものだと。

 親を殺されたことで戦意を損失した子オーク達があちこちに逃げ惑っていて、それをミリアとその師匠は追いかけて捕まえては容赦なくナイフで刺し殺して回っている。

 まるで虐殺だ。


「勝てると思ったらとことん攻めろ!負けると思ったら死ぬ物狂いで逃げろ!今回は前者だ!徹底的にぶっ殺せ!」


 ミリアとその師匠の姿が、返り血に染っているのもあり鬼か悪魔にしか見えなくなってきた。

 不思議なことにオリックの笑顔さえも殺人鬼のそれに見える。

 異常すぎる光景を前にしたせいで逆に冷静になってから、気づいたが助けに来た三人全員が何故か泥だらけでやたら臭い。

 ここはオークの便所でありこの世で最も臭い場所であるはずだ。

 なのにこの三人は来た当初から見た目も匂いも溶け込んでいた。


「シワック…それって…」


 嫌な予感がして恐る恐る聞いてみる。


「リインカさんがよく言ってるんだ。木を隠すなら森に、『便所に溶け込むならクソに塗れるのが一番手っ取り早い』ってね」

「うわぁ…」


 予想通りの答えが返ってきたため思わず声を出してドン引きしてしまった。

 最悪だ。

 絶体絶命のピンチに駆けつけてくれた王子様がクソまみれで異臭を放っている。

 あの場面でシワックの手を取らないのは人としてよろしくない。それはわかってる。

 わかってるけど臭くなった右手を見るとどうしても後悔の念に駆られてしまった。

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