タイトル未定2026/03/21 09:06
目が覚めると懐かしい天井が目に入った。
ここは何度かお世話になった事のあるギルドの医務室のようだ。俺は決闘に負けて気を失いここに運ばれてきたのだろう。
横を見るとリンゴの皮をむくシワックの姿があった。
「笑いに来たのか?」
「まさか……ただあんな別れ方は良くないと思ってね」
「俺はお前を追放した。そんでシワックは俺達より強くて賢いパーティーに転属する。それで終わりだろ?これ以上に何を望むんだ?」
皮肉のつもりで言ったが、シワックは気にもしていない。
「あの日、君はパーティーの為じゃなくて僕のために追放しようとしてたんだろ?」
全部見透かされているような気がしてならない。
どうにか話をそらしたいが寝起きのせいか、言葉が思いつかず 「邪魔者を排除したかっただけだよ」とその場しのぎで誤魔化す。
「そうか。それならそれで別にいいよ」
皮を向き終わったリンゴを切り分けながらシワックは続けた。
「なぜゼインの攻撃は、ミリアに当たらなかったと思う?」
「俺の攻撃パターンや癖を研究したんだろ?ここ一週間、妙な視線を感じてたからな。プライベートなんてあったもんじゃなかったよ」
「その通りだ。やっぱり気ずいてたんだね」
「…でも気づいた時には遅かった」
リンゴを1口サイズに切り分けるとそれを皿に盛り付けてそのまま自分で食べ始めた。
「え?」
てっきり、食べさせてくれると思っていたが、その予想を裏切られた事で思わず、柄にもない間抜けな声を出してしまった。
「何?食べたいの?しょうがないなぁ〜ほら!アーン!」
「いらない。ただ驚いただけだよ」
「そっか」
こんな冗談言われたのいつぶりだろうか?
思えば冒険者になってから、どんどんシワックとの距離が離れていた気がする。
その結果このザマだ。
「なぁ?ミリアは俺の剣を知り尽くしてたんだろ?だったらなぜ最初の一撃だけ当たったんだ?」
「それについてはねぇ━」
決闘を盛り上げるため、気を使って一撃だけ受けた、そんな答えが帰ってくると思ったが答えはもっと単純なものだった。
「幻術魔法だよ。最初君と向き合っていたのは分身で、本物はずっと隠れて出方を伺ってたんだ」
「…決闘が始まる前から仕込まれてたのか」
「分身がやられた後。君が勝ちを確信して背を向けたタイミングでしれっと分身を消して、本体が無傷で登場したわけだ」
「後は動揺して隙ができた俺をボコれば勝ちってわけだ…やられたよ」
「卑怯とは言わないんだね」
「気づけなかった俺が悪い。実戦なら死んでたわけだしね」
「そっか…」
「僕は最初から最後までハラハラドキドキだったよ…でも良かった」
ミリアが勝った事で、気分よく移籍できるから安心していたのかと思ったが、どうやらそれは違う様で、シワックの顔には安心から出る穏やかな笑みが浮かんでいた。
「右腕、だいぶ良くなってるみたいだね」
「なんの事だ?」
「相変わらずとぼけるのが下手くそだねゼインは」
「…」
シワックは懐かしそうに話した。
「まだ僕らが幼かった頃。この村が魔物の群れに襲われたよね。その時、怯えて何も出来ない僕をゼインは必死に守ってくれた。その時、ゼインは右腕に深い傷を負ってしまって、僕は申し訳なくてただ泣くことしか出来なかった」
「そんなこともあったな。懐かしいよ」
「僕は罪滅ぼしになればってゼインのパーティーに入った。本当はゼインの隣に立って一緒に前衛をやりたかったけど前衛職種の適性がなかった僕は必死にサポートに徹してきた。そのうちゼインはあっという間に強くなって仲間を増やした」
「そうだな。皆にはいつも感謝してるよ」
「頼れる格闘家、回復を得意とする僧侶。遠距離からの弾幕を張れる魔術師。皆、優秀でゼインが背中を任せられる仲間達だ」
シワックは1本のナイフを差し出した。装飾品はなくシンプルで実用的なデザインをしたナイフだ。
「本当は追放される前に渡したかったけど…はい!これ!左利き専用のハンティングナイフだ。ゼイン用にオーダーメイドしてもらったんだよ」
「これは!?」
ナイフの刀身には有名な鍛治職人の名前が掘られていた。
「わざわざ街の鍛冶屋にまで頼みにいったのか?!」
「うん。結構高かったんだよそれ」
「…悪いよ。受け取れない。俺はシワックを追放したんだよ?」
「大丈夫。どうせ近いうちにパーティーを抜けようと思ってたから」
「だったらなぜこのナイフを?」
「追放する時言ってたよね。『このパーティに相応しくない』ってさ」
「……」
本心ではなく、シワックを諦めさせるために言った言葉ではあるが、それでも幼馴染を罵倒した事に罪悪感を感じていた。
恨まれてもいいと思っていた。
あれだけ酷いことを言ったのだ絶交されても仕方がない。
しかし、それでもシワックは俺の事を案じてくれていた。
パーティに相応しくないのはシワックじゃない。
俺の方だ。
「シワックあれは…」
「いや、ゼインは間違っていないよ。僕自身も全く持ってその通りだと思うんだ。足でまといでドジで自分の身を守るので精一杯」
「そんなこと…」
シワックはパーティーメンバーの為にあらゆる雑務をこなしてくれた。彼がいたから戦闘に集中できていた。それは間違いなく事実だ。
「そんなことはない」と反論しようとしたが、シワックを追放した張本人が今更そんなこと言えはずがなかった。
「だからせめて使えるものを渡して去ろうと思って貯金してたんだ。そんで!やっと渡せる物を用意出来たってわけだよ!」
「……本当にいいのか?」
躊躇っていると「いいから!ほら!」と無理やり両手を掴まれナイフを握らせられた。
「オーダーメイドって言ったろ?君以外にそのナイフを使いこなせる人間は居ないよ。受け取って貰わなきゃ僕が困る」
「ありがとう。大切にする」
「そっか!良かった!」
荷物を纏めるとシワックは背を向け歩き出した。
「僕はこれからミリアのパーティに入って冒険者を続ける。お別れだ」
「そうだね。でもギルドであったら話しかけてくれよ?パーティーは違えど幼なじみなんだからさ!」
シワックは嬉しそうに笑顔で答えた。
「わかった!」
*
「ふぅ〜やっと終わったぁ〜」
くたくたになりながらも依頼をこなしてやっとの思いで村まで戻って来れた。なかなかの長丁場になってしまったため、ミリアもかなり疲れている様子だ。
後方支援に専念していた僕でさえこれだけ疲れたんだ。前衛のミリアはもっとしんどいことだろう。
ここは余裕がある僕が動くべきだ。
「報告書出してくるよ。」
「おー頼んだぜ!」
たった一週間しか経っていないはずなのに懐かしく感じる冒険者ギルドには、相変わらず色んな人がいた。
昼間っから酒を飲むベテラン、掲示板をを睨みつける新人、そして僕の古巣であるパーティ「ブレイズ」のメンバーもそこにいた。
何やら机の上に書類を並べて頭を抱えている様子だ。
何か問題が起きたのだろうか?
「おーい!シワック!!」
「どうしたのゼイン?」
「報告書書くんだろ?うちのパーティ誰も書き方分からないから隣で見せて貰っていいかな?出来れば解説付きで…ダメかな?」
「あー…」
チラッとミリアの方を見る。
ミリアはリインカと話していて、こちらを見る気配がない。
ミリアからは良く「お人好しすぎる」と説教されているため、タダ働きは控えるようにしているが、今ならバレることは無いだろう。
「ミリアには内緒だよ?」
「ありがとう!!」




