あ
「え?誰?」
「知り合いじゃないのか?」
「ちがうよ…え?誰?」
困惑する新人パーティーに一切配慮することなくミリアは続けた。
「この報告書ってやつ書くのがめんどっ…よくわかんねぇんだよ。これ書けるか?」
「書けるけど?」
「よし!決まりだ!このパーティー抜けて俺専属の後方支援になってくれ!」
「え?」
困惑が困惑で塗り替えられていく。
もっとコミュニケーションをとる錬成をさせるべきだった。
「おい!今取り込み中なのがわからねぇのか!」
「そうよ!そもそもあなた誰なの?!」
「うるせぇな!お前らは黙ってろ!!…たくっ!これだから冒険者ってやつは!!……そんで取り分の話だけどよ。」
頭にブーメランを突き刺しながらミリアは交渉を続ける。
「女だからって容赦しねぇぞ?」
ミリアの出鱈目な態度に耐えかねた新人パーティーの格闘家が拳を振り上げると野次馬はさらに興奮して声を上げた。
「いいぞ!行け行け!」
「やっとおっぱじめるか!いいぞ!俺はお前にかけるぜ!」
「喧嘩すんなら表出ろ!クソが!」
野次の中に店主の怒りが混ざっている。
このままではミリアの監督責任で俺まで処分を食らってしまうのは目に見えていた。
仕方がないのでミリアの前に立ちはだかり代わりに拳を頬で受け止めた。
「なっ?!」
頰に拳がめり込み、脳を揺らされた。後頭部まで来た衝撃で酷い頭痛がする。
「もういいか?」
その場にいる冒険者全員が唖然とした。
口の中に吐き出したくなるほどの血が溜まったが店内で吐き捨てる訳には行かないため仕方なく飲み込む。
クエストに向かう度に落ち武者のようにズタボロで血まみれになって帰ってくる村一番のイカれた冒険者を前にその場の冒険者達は、嵐の後の静けさのように静まった。冗談の通じないタイプのヤバイやつが来たと思ったのだろう。
小声ではあるが「空気読めクソ野郎」と聞こえてきた。
なんとでも言いやがれこの場が収まれば俺の勝ちだ。
「まだやりたいってんなら決闘でもするか?ああ?」
「…ッ!?」
ゼインを含む新人パーティーメンバーは絶句した。 生まれて初めて殺気を向けられた子供のように見えて可愛げがある。
「おら!!散った散った!!酒も飲まねぇ飯も食わねぇで騒ぐだけのやつは出禁リストにぶち込むぞ!!」
シラケた空気を店主は見逃さず一気に解散に追い込む。
冒険者達はブツブツ文句を言いながらそれぞれの席へと戻っていった。
ようやく騒ぎが収まったと思った矢先にゼインが口を開いた。
「いいだろう!その決闘受けよう!!」
「バカが…」
『決闘』と言う言葉を耳にした野次馬達が再び群がだて来た。
最悪だ。
喧嘩を納めるために言った発言が逆に事態を悪化させてしまった。
「いいぞ!!やっちまえ!!」
「どっちに掛けよう?」
この後、アドレナに説教されるのが確定した瞬間だった。
「騒がしいと苦情が来てますよ?今何時だと思ってるんですか?」
呆れ顔をしたシーナが来店してきた。
冒険者を管理する立場のギルドはこのように冒険者が騒ぎを起こすと事態の解決のため現場まで駆り出される事があり、特に治安のよろしくない片田舎ではしょっちゅうだ。
今回も例に漏れずシーナが現場まで駆り出されたようだ。
シーナの顔色は悪く、目元のクマが今日の激務を物語っている。相当ストレスが溜まっているように見えた。
少しは彼女らギルド職員の事も労わるべきなのだが冒険者如きにそんな事は期待できない。
「そうだぞ!今何時だと思ってるんだ!」
「あなたに言ってるんですよ?1回鼓膜破いときますか?」
「…すまない」
「で?決闘という言葉が聞こえてきたんですけど?説明して貰えますよね?」
ここまでの経緯を話すと予想通りシーナは大きなため息をついた。
「相手は大型モンスターの討伐を得意としているパーティー『ブレイズ』のリーダー大剣使いゼイン。新人でありながら前代未聞の速さで昇格している。現在のランクはA…正気ですか?」
「俺を心配してくれるのか?」
「何をふざけたこと抜かしているんですか?」
再び大きなため息を着く。
「私の言い方が悪かったようですね。あなたに彼は歯が立たない。虎と猫ほど差がありますよ」
「言いたい放題ですね!もしかして僕なんかやっちゃいました?」
「安心しろ全治3ヶ月以内に抑える」
「あなたまで煽らなくていいんですよ?」
「決闘の規定で決まってるんです。明らかな実力差がある場合、決闘は認められない。冒険者なら皆知っているでしょう?ねぇ皆さん!!」
シーナが周りに目をやった瞬間いっせいに目をそらす冒険者達。
「あ〜やってますねこれ…」
何かを察したシーナはわざとらしく大きな舌打ちをした。
「規則は規則ですので!何を言ってもダメです」
「なぁ!じゃあ代理で俺がでるのは?」
リインカが決闘に参加できないと聞いたミリアが名乗りをあげる。
「あなたはまだ実績が少なすぎるので、実力差があるかどうかも判断しかねます」
「俺は構わねぇぜ?」
「あのですね」
「安心してくれ。新人のお嬢さん相手に本気なんて出さないからさ」
「あ?舐めてんのか?」
「はいそこまで!ちゃんとした場を儲けるのでそこでやってくださいね!」
このままでは村が祭り感覚で潰されかねないと判断したシーナは仲裁に入った。
再び大きなため息をつきながらメモ書きをして告げる。
「1週間後ギルドが示した場所で決闘を行います。それぞれ準備しておくように…これで満足ですか?」
「ありがとうございますシーナさん!」
「文句なしだ。1週間後が楽しみだな!」
「クソッタレが」
各々がそれぞれ納得したのを確認するとシーナは手を叩いてその場に集まった全員に注目させた。
「はい!これにて解散!!皆様席に戻ってください!」
アイドル的立ち位置である受付嬢の頼みに冒険者達はデレデレしながらしたかう。
「悪い。助かった」
シーナには迷惑をかけすぎて頭が上がらない。
「いいですか?1週間でミリアを育て上げてください。でもってゼインの伸びきった鼻を一度へし折るんです。そうしたら今回の件はチャラにしますよ」
「どういうことだ?」
シーナはまたため息をついてゼインをの方を見た。
「ゼインさんは確かに強いです。ですが失敗を知らない。だから危険なんです。成功ばかりしている人間は失敗した時どうしたらいいか知りませんから」
「なるほどな。それなら安心しろ。俺の弟子は俺に似て失敗ばかりしている。伸び代しかない。」
「……」
呆れたようにまた、ため息をついてシーナはギルドへ戻って行った。




