表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/32

【第14話】閉鎖された回路

 僕の思考は、けたたましく鳴り響く警告音によって、引き裂かれていた。


 赤。赤。赤。

 ブリーフィングルームの全てが、非常灯の点滅によって、狂ったように赤く染め上げられている。メインディスプレイに大写しにされた『OXYGEN LEVEL DECREASING』の文字が、僕らの余命を宣告する墓標のように見えた。

 パネルに表示された酸素濃度が、無慈悲に、しかし着実に下がり続けている。19.8… 19.7…


「う、そ……」

 隣で、ミサキさんが喘ぐような声を漏らした。僕も、胸に分厚いガラス板を乗せられたような圧迫感を感じていた。頭の芯がじんと痺れ、視界がわずかに狭まっていく。これが、酸素欠乏。死が、すぐそこまで迫っている。


 パニックに陥る僕とミサキさんを尻目に、後藤主任だけが、敵意に満ちた獣のような目で、部屋のコンソールを睨みつけていた。

「まだ、操作している……!」

 彼は、絞り出すように言った。

「この部屋のどこかのコンソールから、犯人ホストが今も、酸素供給システムを攻撃し続けている!」


 その言葉に、僕らははっとした。犯人は、この部屋にいる。そして、僕らの目の前で、犯行を続けている。


「全員、コンソールから離れろ! 今すぐにだ!」


 後藤主任の怒号が響く。

 僕らは、まるで操り人形のように、弾かれたように椅子から立ち、部屋の中央へと後ずさった。

 三人だけの、広いブリーフィングルーム。その中央で、僕たちはお互いの顔を見つめ合った。僕と、ミサキさんと、後藤主任。この中の誰か一人が、僕らの命を奪おうとしている。


 三すくみだった。

 誰もが、他の二人を疑いの目で見ていた。

 後藤主任の、異常なまでの冷静さ。それは、この状況を仕組んだ犯人だからこその余裕ではないのか?

 ミサキさんの、過剰なまでの怯え。それは、自らの犯行が暴かれることへの恐怖を隠すための、演技ではないのか?

 そして、彼らの目に映る僕は、どう見えているのだろう。二人の仲間を消した、最重要容疑者。その僕が、最後の仕上げにかかっているように見えているのではないか。


 息が、苦しい。

 それは、酸素濃度が低下しているせいだけではない。互いの視線が、見えない手となって、僕の首を絞めているようだった。


「このままでは、じきに全員窒息する」

 後藤主任が、荒い息を整えながら言った。

「警告音で、犯人はこれ以上の遠隔操作はできなくなったはずだ。だが、閉鎖されたバルブは、物理的に復旧させなければ元には戻らん」

「物理的に……?」とミサキさんがか細い声で聞き返した。

「ああ」後藤主任は頷いた。「酸素供給のメインバルブは、機関室のメインフレームからでしか、手動で開けることはできない。誰かが、ここから機関室へ行くしかない」


 機関室へ。

 その言葉は、一筋の希望であると同時に、新たな絶望の始まりだった。


 誰が行く?

 一人で行かせれば、その人物が犯人だった場合、ステーションは完全に破壊されるだろう。僕らをここに閉じ込めたまま、船を爆破することさえできる。

 では、二人で行くか? だが、残った一人が犯人だったら? 僕らが機関室で必死に作業している間に、ブリーフィングルームのコンソールから、別の致命的なシステムを攻撃してくるかもしれない。


 全ての選択肢が、死へと続いているように思えた。

 僕らは、互いの腹を探り合うように、無言で見つめ合ったままだった。酸素だけが、確実に失われていく。


 やがて、後藤主任が、まるで究極の問いを投げかけるかのように、僕らに告げた。

 その声は、かすかに震えていた。


「誰が行き、誰が残る?」


 彼は、僕とミサキさんの顔を、順番に射抜くように見つめた。

 その問いに、僕らは誰も答えることができなかった。

 それは、命を賭けたロシアンルーレットの引き金を、誰に引かせるかを決める、悪魔の選択だったからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ