【第14話】閉鎖された回路
僕の思考は、けたたましく鳴り響く警告音によって、引き裂かれていた。
赤。赤。赤。
ブリーフィングルームの全てが、非常灯の点滅によって、狂ったように赤く染め上げられている。メインディスプレイに大写しにされた『OXYGEN LEVEL DECREASING』の文字が、僕らの余命を宣告する墓標のように見えた。
パネルに表示された酸素濃度が、無慈悲に、しかし着実に下がり続けている。19.8… 19.7…
「う、そ……」
隣で、ミサキさんが喘ぐような声を漏らした。僕も、胸に分厚いガラス板を乗せられたような圧迫感を感じていた。頭の芯がじんと痺れ、視界がわずかに狭まっていく。これが、酸素欠乏。死が、すぐそこまで迫っている。
パニックに陥る僕とミサキさんを尻目に、後藤主任だけが、敵意に満ちた獣のような目で、部屋のコンソールを睨みつけていた。
「まだ、操作している……!」
彼は、絞り出すように言った。
「この部屋のどこかのコンソールから、犯人が今も、酸素供給システムを攻撃し続けている!」
その言葉に、僕らははっとした。犯人は、この部屋にいる。そして、僕らの目の前で、犯行を続けている。
「全員、コンソールから離れろ! 今すぐにだ!」
後藤主任の怒号が響く。
僕らは、まるで操り人形のように、弾かれたように椅子から立ち、部屋の中央へと後ずさった。
三人だけの、広いブリーフィングルーム。その中央で、僕たちはお互いの顔を見つめ合った。僕と、ミサキさんと、後藤主任。この中の誰か一人が、僕らの命を奪おうとしている。
三すくみだった。
誰もが、他の二人を疑いの目で見ていた。
後藤主任の、異常なまでの冷静さ。それは、この状況を仕組んだ犯人だからこその余裕ではないのか?
ミサキさんの、過剰なまでの怯え。それは、自らの犯行が暴かれることへの恐怖を隠すための、演技ではないのか?
そして、彼らの目に映る僕は、どう見えているのだろう。二人の仲間を消した、最重要容疑者。その僕が、最後の仕上げにかかっているように見えているのではないか。
息が、苦しい。
それは、酸素濃度が低下しているせいだけではない。互いの視線が、見えない手となって、僕の首を絞めているようだった。
「このままでは、じきに全員窒息する」
後藤主任が、荒い息を整えながら言った。
「警告音で、犯人はこれ以上の遠隔操作はできなくなったはずだ。だが、閉鎖されたバルブは、物理的に復旧させなければ元には戻らん」
「物理的に……?」とミサキさんがか細い声で聞き返した。
「ああ」後藤主任は頷いた。「酸素供給のメインバルブは、機関室のメインフレームからでしか、手動で開けることはできない。誰かが、ここから機関室へ行くしかない」
機関室へ。
その言葉は、一筋の希望であると同時に、新たな絶望の始まりだった。
誰が行く?
一人で行かせれば、その人物が犯人だった場合、ステーションは完全に破壊されるだろう。僕らをここに閉じ込めたまま、船を爆破することさえできる。
では、二人で行くか? だが、残った一人が犯人だったら? 僕らが機関室で必死に作業している間に、ブリーフィングルームのコンソールから、別の致命的なシステムを攻撃してくるかもしれない。
全ての選択肢が、死へと続いているように思えた。
僕らは、互いの腹を探り合うように、無言で見つめ合ったままだった。酸素だけが、確実に失われていく。
やがて、後藤主任が、まるで究極の問いを投げかけるかのように、僕らに告げた。
その声は、かすかに震えていた。
「誰が行き、誰が残る?」
彼は、僕とミサキさんの顔を、順番に射抜くように見つめた。
その問いに、僕らは誰も答えることができなかった。
それは、命を賭けたロシアンルーレットの引き金を、誰に引かせるかを決める、悪魔の選択だったからだ。




