89話『使者』
目が覚め、朝日が目に入る。
エルはいつもと変わらずに幸せそうに寝ている。
ああ、ずっとこんな日が続けば良いのにな。
*
口は災いの元
かつてそう言った先人は一体何を思ったのだろう。
少なくとも俺はこう思う。
くたばれ
「ちゅー!!!主!!!」
「ん?どうした?」
「結界に侵入者が入りましたちゅー!」
「…数と方角は?」
「東側から564体南側から356体でちゅー!」
「ああ、分かった。」
人間の軍隊…にしては数が少ない。
他の種族か?
しかし、狙われるような心当たりは無いな。
いや、待て。彼らが人間と同盟を結んでいたら?
それならば有り得るか。
にしても数が少ない。少なすぎる。
少数精鋭って奴かもな。
にしても何が目的だ?
「何者だ?」
「今史記がドローンで確認してるちゅー!」
ああ、史記と念波で連絡しているのか。
スマホと違って無駄な操作も要らないし、必要な機材も要らないから便利何だよな。
「分かった。その間に俺上から見る。」
「了解ですちゅー!」
*
上空から街を俯瞰し辺りを確認する。
あれは…獣人とエルフが南側から来ている。
獣人とエルフはかなり離れた位置に居る。
もしかして別勢力なのか?
人間とドワーフと思わしき連中は西側に居るな。
2勢力とも魔物と遭遇して戦っている。
こんな事なら認識阻害を結界に付与しておけば良かったな。
まぁ、それも後の祭りだ。
取り敢えずは彼らの対応が先だろう。
彼らの目的は不明。
おそらくは俺。いや、魔王だろうな。
訂正しそびれた挙句にあれだけ王都で暴れたんだ。
それこそ今更だろう。
では魔王討伐が目的か。もしくは庇護か?
いや、希望的観測は止めよう。
彼らの装備を見るに王都の兵士以上に上等な物だ。
武器なんかはミスリル製の物すらある。
まぁ、ミスリルがどれほど希少なのかは分からないが。強い装備なのは間違いない。
時々装備が光るのだが、アレは武器に付与されたスキルみたいなものが発動しているらしい。興味深いな。
もっともその武器が自分に向けられなければの話だが。
そうこうしている内に戦闘を終わらせた彼らが門に到達した。
西にはタケルが、南には史記がいる。
カオルは自分には迫力が足りないからと言って辞退した。ネズ田は部下を2人の元に送り本体は俺の肩に乗っている。ここからの映像を史記に送っているらしい。
さて、そうこうしている内に彼らが門に到達した。
魔王衣装に変えた方が良さそうか?
いや、今回は史記達に任せよう。
毎回魔王が出迎えるのはおかしいだろうからな。
決して面倒だからという訳では…いや、めんどくさいな
*
「私はエルフのミカエラ!!魔王殿はここに居るか!!??」
金髪のエルフの女が名乗りを上げた。
史記は思案する。
言うべきか、言わざるべきか。
「おや、これはご丁寧にどうも。貴女方は何用ですか?」
拡声の魔道具を使用し、答える。
「魔王殿と同盟を結びたく参った!!門を開けられよ!!」
なるほど、そういう事かと理解する。
だが何故だと思う。
エルフの生存圏はここからかなり離れた東に位置している。わざわざ西の果てとも言えるこの街に来る必要があるのか。或いはそれだけ魔王を脅威と見たか。
「我が主は魔王などではありません。お帰り願います。」
あの人は世界征服なんて考えませんし、同盟は不要でしょう。
史記はそう考える。
しかし、エルフの女。
ミカエラは納得が行かないようで
「それでも構いません!!同盟を結んでもらいたい!!」
「何故ですか?我が主は世界征服等と言ったくだらない事などお望みでは無い。貴女方にとってメリットがあるとは思えませんが?」
「そうでは無いのです!!我らは貴方方が所有する世界樹様の事で同盟を結びたいのです!!」
はて?世界樹?
史記の記憶に思い当たる節は無い。
…いや、訂正。一つだけある。
それはヤナギ様の住むあの大樹だ。
彼曰く、魔力を込めて成長させた
ただのデカくて堅い木だと言っていたが、彼の魔力を相当に込められた木が普通な訳が無い。
あの木は世界樹だと言われても納得するだけの神聖さと強固さ、そして魔力を持っている。
だが、あの木は御伽噺に聞く様な死者を甦らせる能力、回復能力等を持っているとは分からない。
故に、彼らの勘違いの可能性があるだろう。
一応、ヤナギ様に連絡を取る。
「もしもし、史記ですが。」
「ああ、あの木は世界樹だぞ。若木らしいが。」
どうやら彼にはこちらの会話が聞こえていたらしい。
彼らの勘違いであって欲しかったな。
そう嘆くが、これはもう致し方ないだろう。
「どう、しますか?」
「うーん。エルフには誤魔化しは効かなさそうだな。でもまぁ、同盟を結ぶメリットってあるか?」
「無いですね。」
こちらに物資の不足は無い。
欲しい物も無い。
エルフの技術?食文化?
どれも必要とは思えない。
エルフ固有と言えるものは世界樹だけだろうが、その世界樹もあるならば、僕達にメリットは何一つ無い。
領民不足は解決するだろうが、彼は信用が出来なさそうなエルフを受け入れるとは思えない。
「だよな。断っておいてくれ。」
「了解しました。」
しばらく黙り込んだ史記を見てミカエラは何を思ったのか、こう告げた。
「エルフの秘術をお教えします!!」
「いえ、大丈夫です。」
反射的に史記は答える。
「で、では武具を!!」
「それも必要ありません。」
「そ、それでは若い女子を!!」
「一番必要無いですね。我が主は人の売り買いは嫌いですので。」
「…………」
そう告げると、エルフの女性は完全に黙り込んでしまった。
「正直、貴女方との同盟には一切のメリットが無いんですよ。」
「せ、戦争の時に加勢が出来ます!!」
「たった1人で国を落とせるのに加勢が必要でしょうか?」
「では物資の支援は!!??」
「それも間に合っているんですよね。」
事実、この街には50年以上の年月を掛けても消費しきれない食料がある。農作もやっているし、家畜も飼っている。もしそれでも無くなれば植物魔法で作るだけの話だ。人数も少ない分消費も少ない。そう言った意味ではむしろ援軍が足枷になるだろう。
「それでは困るのです!!私は何としても同盟を結ぶよう国から言われているのです!!」
「それは私達には関係の無い話ですよね?」
「そ、それは……」
「そもそも何故エルフがそこまでして同盟を結びたがるのですか?世界樹が2つも生まれてしまったのであればむしろ滅ぼす気がしますが?」
「それは私達の信仰で世界樹を害す事は出来ないからです!」
信仰。なるほど、そういう事だったのか。
「では仮に同盟を結んだとしたら貴女方はどうするのですか?」
「それはもちろん貴方方の街にエルフを数名招かせて頂き、世界樹様の世話をさせていただきます!!」
尚更駄目だ。ヤナギ様は世界樹の中に住んで居る訳だし、それを信仰心のあるエルフが見たら発狂して襲いかかってくるくらいのことはしそうだ。
「ならば、尚更。貴女方とは同盟は結べません。」
「な!何故ですか!!??」
「我が主は世界樹に住んでいます。
と言うか、世界樹を創ったのは我が主だ。家の前で信仰など行われては主の気が休まらない。お引き取り願います。」
「なっ!!!???」
ではさようなら。史記はそう告げて話を終わらせようとした。が
「まっ!!!待っていただきたい!!!」
「まだ、何か?」
「世界樹を創った!!??創ったとはどういう事ですか!!??」
「説明したところで貴方には理解できませんよ。」
私にも分かりませんしね。
「ではお引き取り願います。」
あとがつかえてますからね。
と史記は告げた。
*
その頃一方タケルは
「我等は魔王殿に謁見しに参った聖国の使節団だ!!開門を願いたい!!」
人間とドワーフの混成部隊と思わしき連中と話していた。
「えー。我が主はそういうことに…あー、まどろっこしい!やめだ。うちの大将はそういうのに興味ねぇんだ!帰ってくれや!」
「なっ!!」
「ガッハハハハ!!」
指揮官と思わしき人間が絶句しているとその横でドワーフが盛大に笑う。
「俺もまどろっこしいことは嫌いなんだ!だから率直に言うぞ!うちと組まねぇか!?」
「嫌だ!」
「おいおい!即答かよ!ひっでぇな!」
と言いつつもその顔から笑みは消えない。
とそこで怯んでいた人間の男が状況を理解したようだ
「我が国と同盟を結べば我が国の名誉!栄光!食料!宝石!ありとあらゆる物を交易を行い、貴国の更なる飛躍と繁栄を約束しましょう!」
「要らん!困ってない!」
「なっ!!!」
再び男は沈黙する。
「じゃあうちからは武具と酒と鉱石!」
「それも要らん!」
「では不足しているものは無いと…?」
「無い!鉱石とか宝石はそこら辺の山で採れる!食料はそこら辺の魔物とか畑で余ってる!酒もうちの大将が作ってる!武具ももう大将から貰った!」
「で、では名誉は!」
「そんなものは最初から要らん!」
「おいおい武具だって壊れるんだぞ?そしたらまた必要になるだろ?」
「その時はまた貰えばいい!」
取り付く島もないとはこの事か。
とドワーフと人間は思った。
「じゃあ人手は要らねぇか?」
「ドワーフのオッサンはともかく、人間は信用出来ないから要らん!」
「だとよ。」
とドワーフは人間を小馬鹿にしたように言う。
「お、王国が魔王殿に何をしたのかは存じております!ですが我等聖国は違います!」
「うちの大将は信仰は関わるとめんどくさいから関わりたくないらしい、大人しく帰ってくれ!」
「なっ!!??我らの信仰をコケにするか!!」
男の周りが殺気立った。
その時、防衛用のゴーレムが起動した。
*
あーあ。やっぱりこうなったか。
穏便に帰ってくれるのが理想的だが、あの手の連中にはまず無理だな。
結局の所、危害を加えようとした人間の兵に対してうちのゴーレムが起動してしまった。
止めようと思えば止められるが、それをする必要があるか?
いや、下手に戦争になっても面倒だな。
止めるか。好んで戦争何かしたくもない。
起動しかけたゴーレム達が止める。
だが、向こうはやる気っぽいな。
どうしたものか…
*
タケルは考える。
言葉の通じない人間にどうすれば伝わるのか。
俺はナギ坊じゃねぇし、分かんねぇな。
そして、一瞬で思考を放棄した。
ま、とりあえず言葉で分かり合えないなら殴れば良いだろ!
そして、タケルがその身に宿る暴力を解放した。
*
結論から言えば恐れていた自体にはならなかった。
何故ならタケルが魔力を解放し、城門から飛び降りて攻撃しようとした途端に彼等が降伏したからだ。
俺からすれば大した事の無い魔力でも彼らからすれば怪物の類に見えたらしい。
慌てた彼等は武器を捨て、膝を着き両手で祈る様に謝罪をした。
彼等なりの最上級の謝罪の仕方なのかもしれない。
毒気を抜かれた様な顔をしたタケルが魔力を抑えた。
その間のドワーフ達は棒立ちだったが、何人かの兵士が呆けた顔で武器を落としたがそれを咎める者は居なかった。
そんな彼等にタケルは言い放つ。
「命が惜しけりゃ帰れ!そしてもう来るな!」
指揮官の男はそれに従った。
「たっ、直ちに帰還する!兵を纏めろ!!」
そして、人間達が逃げるように立ち去る中、ドワーフの男は言う。
「やっぱり、うちと組まねぇか?」
「はぁ……」
タケルはため息を付いた。
「うちの大将は同盟に興味なんかないっつーの」
埒が明かない。そう思った。
これは自分の手には負えない。すぐにそう思ったタケルは夜凪に連絡した。
「もしもし、ナギ坊か?」
「ああ」
「流石に俺には手に負えん。後は頼むわ。」
「分かった。」
*
一方史記は未だにエルフと話していた。
と言っても一方的にだが。
彼らの主張をまとめると世界樹を創った我が主に会いたい。会わせてくれだ。
そして、こちらはそれは出来ないと言っている。
先程からそれの繰り返しだ。
墓穴を掘ってしまったかと思う。
そうこうしている内にもう1つの団体、獣人達がやって来てしまった。
「頼もう!!!」
はぁぁ……
と内心溜息が止まらない史記だが、来てしまったものは仕方が無い。すぐに心を切り替える。
「何用ですか?」
「私は獣人族の長!ガルドルと言う!魔王殿に会いに来た!」
と精悍な狼の顔をした獣人が答えた。
またか、と思った。
「……我が主は魔王ではありません。お引取り下さい」
そう答えると獣人は引く唸り、答えた。
「では、貴方の主にお目通り願いたい。」
「何故ですか?」
「我等は魔物の大軍に襲われ、今はその数は半数になってしまったのです。どうか、貴方の主の慈悲で庇護を頼みたい。どうか、どうか。お願いいたします。」
そう言って彼は頭を深く下げた。
これは、どうしたものか。
私では真偽は不明。見た所嘘ではないと思う。
しかし、彼等の戦力、装備の質、汚れ方を見るに、本当にそうなのか。判断が出来ない。
「見た所、ここに居る人達は皆さん強そうですが?」
「この者たちはうちの種族の最高戦力です。半数は街で防衛していますが、持ってあと3週間でしょう。」
そう答える長の目は曇りひとつ無い。
本気らしい。
よくそんな危険な賭けに出たものだと関心した。
そして同時に恐ろしいと思った。
彼等はヤナギ様が受け入れないと言う可能性を考えなかったのだろうか。いや、分かっているのだろう。
長と言う立場でこの選択をするという事はもう獣人に後はない。
そんな彼等を受け入れないと言う選択はヤナギ様には出来ないだろう。
人が嫌いだと常日頃から言っている彼も結局はかなりのお人好しだ。
でなければ壊れた街の修繕などせずそもそも街一つを壊してしまえば良いだろう。
仕掛けたの向こうだ。勘違いであろうがそれは変わらない。しかも隷属した友人を仕向けて。
それだけでも街一つを壊す理由になる。
でもしなかった。
そんな彼が獣人達を見捨てられる筈がないだろう。
困ったな。
そう思っていると連絡が来た。
「うちのゴーレムを貸し出してやれ。それで何とかなるだろ多分」
やはり、人が甘い
「……分かりました。そのように伝えます。」
「ああ、でも同盟は無しな。一度だけ力を貸すとだけ伝えてくれ」
了解ですと答えて通信を切る。
「我が主は一度だけ力を貸すその後は自分達で何とかしろと申されました。」
その言葉を聞いた獣人達から歓声の声が聞こえる。
「おおっ!それでは!」
「ただし、同盟は結びません。その後の事は知りません。」
「それでも!有難い!何と、何と礼をすればっ!」
「これから先の一切の不干渉。それだけで結構。」
きっぱりと告げる。
「では貴方達は帰りなさい。自体は一刻を争うのでしょう?」
「はっ!」
そう告げた獣人は深々と礼をした後に足早に去った
「はぁ、本当に甘いんですから」
でもそれもまた主の良い所なのだろう。
*
俺はタケルが投げ出したドワーフの対応をしている。
わざわざそれっぽい格好に着替えるのもめんどくさいので普通に私服だ。
めんどくさい。
「で、お前達は何が目的なんだ?」
「まぁ、結局の所あんたと敵対したくないってとこだな。」
「そっちが何もしなければこちらも何もしない。これでいいだろ。帰ってくれ」
「それがそうも行かなくてな」
溜息が出る。というか出た。
「じゃあ何だ。不干渉の契約でもすれば満足か?だったらしてやるからさっさと帰ってくれ。」
「いや、そうじゃなくてよ。出来れば交易とかしてぇんだわ。」
「交易…ねぇ」
欲しいものとか無いんだよな。
武具とかは創れるし、造れる。
刀から銃まで一通りは修めてはいる。
何ならビーム系の異世界仕様の銃器も造った。
造り過ぎて飽きた。
食料も不足してないし、酒も作れる。
まぁ、人数が少ないのが難点だが、下手に増やして揉めても面倒だ。
「武器に関しちゃあ俺らはプロだ。いくらあんたが武器を造れるって言ったってそれが俺らに勝ってるとは思えねぇ」
それにまだ物すら見てねぇしな。と付け加えた。
「そうか。じゃあこれを見てくれ」
と言って俺は亜空間に入っていた一本の剣を投げた。
愚直でなんの面白みもないただのロングソードだ。
素材もただの鉄。本当に特別でも何でもないものだ。
スキルの練習がてらに打った1000本の内の一本。
その中の一番最後にして一番出来の良い物だ。
そんなロングソードを見たドワーフはしばらくの間無言で武器を見つめ
「…………これを打ったのか…」
と絞り出すような声で言った。
「そうだ。何か文句でもあるのか?」
と問うとドワーフは肩を震わせ
「これは…人が……いや人類が打っていい様なもんじゃねぇ!鍛治の神様が打ったもんだ!こんな!こんなもん見せられて!どうすりゃあいいんだ!」
「……どうやった!どうやってこんなもん打ったんだ!」
どうやったと言われてもな
「普通に」
と答えるとドワーフは顔を真っ赤にして叫んだ。
「見せてくれ!金だろうが酒だろうが何でも払う!」
ここまで来てから俺はしくじった。と思った。
負けたと思えば素直に帰ると思っていたがなぁ。
勝ったら勝ったで押し売りして来そうだったから一番良さそうな物を出したが、失敗だったか。
「しょうがない…か」
こうなった以上、言葉での説得は無理だ。諦めよう。
何とか書き上がりました




