86話 『万事上手くいかず』
夜になった。
フェリシア姫との約束の時間が近い。
魔王スタイルに着替えを済ませ、フルフェイスヘルメットを付ける。
さて、準備は済ませた。行こうか。
*
事前に用意してあったポイントに飛ぶ。
ショートカットはいい文明だ。
王城のベランダに降りた俺はスキルを使い周囲を探る。
見えた人影は100人程度。その中には姫も居る。
そして玉座と思わしき場所には彼女の父、つまりは国王と思わしき人物も居た。
護衛の数は多い。歓迎ムードって訳では無さそうだ。
何やら激しい口論になっているようだが、その内容までは分からない。
こちらにとって不都合なのは間違いないだろう。
あーあ、これでは不干渉の協定も何も無いな。
更に、部屋の中央部分に明らかに罠と思わしき魔力の塊がある。俺が見抜けないとでも思っているのか、或いは底に誘導出来ると思っているのか。
まぁ、どちらにせよ、舐められている。と言うのは間違いないだろう。
その罠の内容は直接見て見ないと分からないが、恐らくは捕らえるもの、もしくは殺すもの、或いは何処かに飛ばすもの。最悪なのは奴隷にでもするものだろう。愚かだ。ああ、本当に……
「人間は醜いな。」
俺は堂々とその中に入った。
騎士達が殺気立った。
「約束通り姫を迎えに来たぞ。」
姫を見据える。
彼女は酷い顔をしている。
説得が出来なかった罪悪感か、或いはこの後の惨劇を想像しているのか。
「お前が魔王か…?」
皺が多い痩せ気味の男。玉座に座る王が聞いてきた。
姫はまだ何も答えない。
俺は何も答えない。
「貴様!王が聞いているのだぞ!答えよ!」
しばらくの無言が続き、騎士の1人が業を煮やしたのか、そう言った。
俺は答えない。答える義務は何一つ無い。
違うと言っても、言ったところでこいつらには理解出来ない。そう思った。
「姫様。行くのか?行かないのか?ハッキリしろ。」
姫に尋ねる。
「……い、行きます。行きます!」
姫は答える。震える声で、でも確かに答えた。
「良かろう。ならば連れていく。約束通りに。」
ああ、早く帰りたい。ここには、俺が望む物は何も無い。
「ならん」
短く、王が答えた。
しかし、俺は答えない。
姫を護るように騎士が立ち塞がる。
意味も無いのに。立ち塞がる。
人の恋路を邪魔するのは馬に蹴られれば良いのにな。
まぁ、シュチュエーション的に魔王が姫を拐う様に見えるだろうな。ああ、分かるとも。
真実がどうであれ。彼等にはそれが真実だ。
俺にはそれを覆す事は出来ないし、しない。
意味も無い。
俺は歩く。散歩をするように
「っ!やれぇ!姫を護れぇ!」
騎士の中の1人がそう言った。
周りの騎士が呼応して動き出した。
騎士達が俺を囲み、手に持った槍を突き刺す。
無慈悲に折れた。
周りの騎士が引いた所に数人の騎士が腰の剣で俺の頭を攻撃した。
粉々になって剣は折れた。無意味に
体格の良い騎士達がこちらを押し潰すように大盾で突進してきた。
盾は砕け、騎士達は壁に当たったように飛ばされた。
無駄に
大剣を持った騎士が頭上から攻撃を仕掛けた。
剣が折れ、騎士の肩に当たり血を吹き出した。
無謀に
それから、それから、それから……
幾多も折れ、砕け、粉砕され、玉砕され、蹂躙して、蹂躙された。
俺は何もしない。何も答えない。
彼等は彼等の行いで傷付き、倒れた。
こんな分かりやすい自業自得、因果応報も中々無い。
何が彼等を引き立てるんだろう。
矜恃?忠誠?それとも狂気か。
ああ、無駄だ。何をしても結果は変わらない。
気付かないか。気付けないのか?
まぁ、いいや。どうでも
ただ歩く。
罠を踏んだ。
眩い光が辺りを照らす。足元には魔法陣が浮かんでいる。どうやらこれは俺を殺すためのものらしい。
「おお!これで!これで魔王が倒せる!」
筈も無く。
パリン!ガラスが割れるように砕けた。
俺は文字通りの無傷。
「っ!!!」
俺以外の全員が息を飲んだのが分かった。
彼等はこの魔法陣には信頼があるようだ。
勝てないと思った彼等からはカチカチとした歯の噛む音、鎧がガチャガチャと鳴る音。
そして…俺が歩き出すと
「う、うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
1人の騎士が恐慌状態になったのか、逃げ出した。
すると周りの騎士も堰を切ったように逃げ出した。
周りには誰も残らない。
王もいつの間にか逃げていた。
だが、それで構わない。
姫が地面にへたり込んだ。腰が抜けたようだ。
「そ、そんな…あれは最強とまで言われた国宝なのに……」
「おい」
「ひっ!」
姫は俺を化け物を見る目で見た。
実際、俺は化け物だ。仕方がない。事実だ。
「さっさと立て。アイツの所に連れて行ってやる。」
「は、はい。」
ガタガタと震える姫はやっとの様子で立ち上がり、こちらに来た。足元の水溜まりは見なかった事にしよう。
姫をそのまま転移させようと思ったが、一応清浄の魔法を掛けてから転移させた。
みっともない姿でアイツの所に連れて行くわけにも行かないからな。
*
街に着くと姫が尋ねた。
「あの」
「なんだ」
「貴方は本当に魔王では無いのですか?」
「違う。そんな種族でもないし、魔物を従えている訳でも無い。人をわざわざ殺したいとも思わないしな。」
口調を元に戻す。格式張った口調って訳でも無いが、肩が凝りそうだ。
マスクを外す。そして魔法で着替える。黒いTシャツとジーパン。ただの私服だ。
「…そうですか。」
姫は突然の着替えに驚いた様だったが、俺の顔を見て、そう答えた。納得した様だ。
松尾の家まで送り、そして後は若いお二人にお任せした。後ろからは2人の声でありがとうと聞こえた。
俺は軽く手を振って答える。
ああ、早くエルに逢いたい。
心底思った。俺の望みはここにあるんだと。
今日のやる気スイッチは切れました
□。_(..*)OFF
また次回。望まれ次第で。(・ω・)ノ




