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11/12

第7話《携帯電話》#1

2010年12月17日、金曜日。


クリスマスイブまで残り7日、年末まで14日。


私と黒咲くんは休み時間に、机を挟んで話を弾ませていた。


誰と向き合って話す行為にトキメキが消えない。


誰かの目を見て話すのは、思っていたよりハードルが高かったが、自分が年上という自己暗示が恐怖をかき消していた。


なにより、見つめ合うは黒咲くんというおいしい展開で私は平然を装ってダバダバ涎を垂らしていた。


「今日、夜に復興会の人たちで話し合いがあるらしい。親父が皆さんに動画とかホームページのこと話してみるって」


これでようやく計画が動き出す。


みんなで何かをするワクワクさに心は震え、口角は下劣にもニチャニチャしてしまう。


こんな損得なしで、上下もないで出来るのは学生の特権だ。


大人になればボランティアでも上下が出て、お偉いさんが居座っているものなのだから。


「これで土日にがっつりやって、月曜日に発信出来たらばんばんざいだね」


「ありがとな、本当に。 めちゃくちゃ助かってる」


「ふへっ……へへへ。 なんのこれしき、お易い御用ですわ」


よこしまな思いがとまらない。


顔がデロデロになって、溶けてしまう。


今なら変身だけの技が使えそうだ。


「時森ってそんなキャラだっけ?」


(やばい、ド変態の顔が出てくる)


「楽しいだけだよぅ! 黒咲くんが頑張ってるから感化されただけ!」


(よし、パーフェクトアンサー!)


その言葉に黒咲くんは目を丸くしたあと、照れくさそうにマシュマロのような笑顔を浮かべた。


「それが一番嬉しい。 本当にありがとう」


「ぴゃあ!」


そんな笑顔で喜んでもらえて、感謝されるとは心臓に悪い。こんなのはハートの形をした心臓が喉から飛び出てもおかしくない。


もう少しその笑顔は私にとってのキラースマイルということを知ってほしいものだ。


でもそれは告白するようなものなので、口が裂けても言えなかった。


「出た、時森の叫び」


「あーはっはっ、言わないで……」


告白はしたい。

でもそれはアラサーの私の気持ちだ。


私は黒咲くんに告白出来ず、ずっとその想いを抱えて拗らせた。


ずっとずっとそうして黒咲くんを忘れられないわりに、黒咲くんのことを何も知らずに死を選ぶ未来が訪れた。


この時代の私が告白するわけにはいかない。

私が告白してどうするより、黒咲くんの生きる道を模索したかった。


この時の改変で告白が許されるならば、それは最後でいい。

ううん、しなくて黒咲くんが笑顔で生きられる未来を手にできるなら報われなくてもいいんだ。


私の未練を断つことより、黒咲くんの幸せを願う。



社会にがんじがらめになり、真っ暗な世界に再び星を灯してくれたのは今ここにいる黒咲くんだったから。


ぼんやりと流星群を流れていただけと思っていたが、あの時一瞬でも黒咲くんを助けたいと願った。


守りたい。その手を掴みたかった。


これは私の意思が働いて起きたタイムリープだと、今は少しだけ理解していた。


「夜、連絡する。それじゃ」


立ち上がって黒咲くんは自席へと戻っていく。


その後ろ姿にヘラっとしながら肘をついて頬を支えた。

さすがにヘラヘラしてばかりなので、自分のことをヘラ女と呼んでもいいかもしれない。


誤解を招きそうな造語である。


(なんかほっこりするなぁ。 黒咲くんとこんなふうに話せるなんて……)


「へへっ、キュンですな」


「キュンキュン? なんだか芽々、女の子やってるねー」


そこに里穂がミーハー心に頬を染めてニヤニヤと近づいてきた。


私は友達がそばにいる喜びにさらに破顔して、ねっちょりドロドロになったりんご飴のように甘くしつこく里穂に擦り寄った。


私、誰かと軽口に話したかったみたい。

こんなに開放感があり、突っ走っても前身しかない感覚は何十年ぶりで、まだまだ速度があがりそうだった。


「いい顔してんじゃん。 ちょっとかわいくて羨ましいぞ」


「かわいい? ちゃんと女の子出来てる?」


「え、女の子じゃないの?」


「いつでも女の子だよー!!」


飛びつくように里穂の腕に抱きついて頬擦りをはしる。


若い子特有の柔らかさとふわりとした感覚に癒されていく。



「どうした!? 芽々が甘えん坊になってるんだけど!? ちょっと気味悪い!」


一方の里穂は毒を吐いてはいるものの、少しお姉さん目線で私の頭を撫でくりまわし、ニヤニヤと八重歯を見せて笑っていた。



***


昼休みはお昼を食べ終えたあと、屋上で麻理子と奏でおしゃべりをしていた。


麻理子は腕を揺さぶって、じっと上目遣いで見つめてくる。


「ねーねー! 動画、どんな感じになったー?」


「ま、まだ出来てないよぉ! 夜にでもメールで送るから!」


頬を膨らませ、テンプレのように腕を結ぶ麻理子。


あざとくて、まるで攻略キャラクターのようだ。


いや、彼女はヒロインビジュアルなのだからきっとこの先、ドラマティックに恋愛をして綺麗になっていくのだろう。


美人エキストラのように見えて、彼女という人生の主役を歩んでいく。


未来ですれ違ってもきっとお互いに気づかないだろうが、それぞれの人生は必ずあった。


どうして一目で相手の人生や性格がわからないのだろう。


すれ違う人は同じ人間なのかわからないとき、その人生はどんな色をしているのか。


同じように私も背景の一部の存在かと思うと色褪せる。


高校生としてみんなで過ごすカラフルな時間が愛おしかった。


同時に麻理子にも奏にも、他のみんなにもカラフルを忘れないで欲しかった。


「ちゃんとかわいく編集してよねー!?」


「麻理子はかわいいから大丈夫だよ!」


「今度、奏も入ってよー!」


「えーっ!? じゃ、じゃあ後ろの方で盛り上げ役で……」


「いっそ当日のアナウンスでもやったら? 奏、声いいし歌うまいし」


それは新情報であった。


たしかに奏の声はアナウンサー向きの上品な声をしている。聞き取りやすさはクラスNo.1かもしれない。


「ええーっ!? それはちょっと無茶ぶり……」


「奏に褒められるとまじで星の女王の気分になれるからよろ〜」


「うぅ。麻理子がそう言うなら……やるよ」


奏は麻理子が大好きで麻理子至上主義。

鉄壁の守り役であり、麻理子に危害を加えるものは先に排除する徹底ぶりだ。



頬を染めながらもふんわりと気合いを入れ始める奏に、麻理子はくすくすと笑って肩を預けていた。


女の子ってかわいい。存在が神だ。


「君たち仲良いねぇ!」


「「オッサンかよ!!」」


そのツッコミですら愛おしいほど、私の心は枯れていてオアシスを見ている気分であった。


***


放課後、私は星祭りで使う神社横の川に訪れていた。


風が吹き、草と土、臭い匂い、独特の匂いが鼻をくすぐる。


私は石を拾って、指でコロコロいじくりながら流れのゆったりした浅い川を見据える。


「ここに小石投げるんだよね」


大きく足を上げ、腕をあげ、投げてみる。


よく見る弾ける小石のようには上手くいかず、一発で落ちて波紋を広げるだけであった。


川のせせらぎ音だけが残る。


「地味だなぁ。 投げる人そんなにいないからただの数人で石投げの動画になっちゃう」


(とはいえ、大人数で投げるのは川の魚にご迷惑かけそうだし)


みんなでせーの、石投げ! 終わり!


究極のつまらなさである。


今までよくこれをお祭りにしてたなと正直呆れてしまうレベルである。


「困ったなぁ」


「とーきもりっ! こんなとこで何してるの?」


「ぴゃあっ!? く、黒咲くん!?」


もう、いつ心臓が爆破されてもおかしくない。


常に爆発三秒前状態のため、黒咲くんの気配なきアサシンぶりは恐ろしかった。

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