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第7話《携帯電話》#2

「そこまで驚かなくても……」


強烈な反応に黒咲くんはリアクションに困って、口角の歪んだ笑いをしている。


だが決して嫌な笑い方ではなく、面白がっていることは読み取れた。


私は慌てて軌道修正をし、高校生らしい愛らしさ満点スマイルを前面に押し出してみる。


相当変な顔をしていたのかもしれない。

お互いに視線が交わると吹き出すように腹を抱えて笑いあった。


それから目尻に溜まった涙を指で拭い、黒咲くんは川の水辺へと目を向ける。


「で、何してたの? 石投げてたみたいだけど」


「あー、石投げをまずはやってみないと感覚がわかんなくて。やってみたけどあっさりしてるねー」


まさかポチャンで終了とは思わなかった。


これでは黄昏に小石を投げる少年である。


昔懐かしい小石を投げて夕日に叫ぶあの感覚がくるかと思ったが、ただただ地味で虚しかった。


「あ〜そうかもな。 夜だと余計に石なんて見えないし」


もっと最悪だった。

もはや何をしているかわからない。


目的は願いを込めて投げることなのだろうが、これでは夢も希望もない。


そういえば投げたなで終わってしまう感動のなさ。記憶の片隅からも外れてしまうレベルだ。


黒咲くんもそれをわかってはいて、苦悩しているのが見て取れた。


あくまで黒咲くんは補助要因だったので、口出ししなかったのか、それとも聞いてもらえなかったのか。


良くも悪くも高校生ボランティアを集めるための看板でしかなかった。


「ライトアップも視界確保のためだしなぁ」


「ライトアップかぁ。 理想はプロジェクトマッピングみたいなのだけどそれはさすがに無理があるね」


「そうだなぁ」


川に星空のプロジェクトマッピングをして、そこに石を投げると光が波紋するとかなら映えるというのに。


プロジェクトマッピングは作成時間と費用、構成と様々な要因でハードルが高すぎた。


この貧乏集落にそこまで余裕はない。


だからこそ、今お金をかけずに出来る方法を模索しているというわけだが。



唸り考えていると、黒咲くんが目を大きくして瞬きを繰り返す。


夕日に照らされた長いまつ毛の憂いが美しく、釘付けになってしまう。


「あ、それって目に留まるようになればいいってことだよな?」


「すでに目は夢中……」


「は?」


「ぴゃ!? なっ、なんでもございません!」


これはマズい、ただの高校生に見とれる年齢感覚の狂った変態女の思考になっている。


今は曲がりなりにも女子高生。

極力変態思考は振り払わねばと、慌てて頭を下げて、話を元に戻した。


「これ、参考にならない?」


黒咲くんが上着のポケットから取り出したのは、七色の透き通る丸い石だった。


あの時、過去へと戻った私が黒咲くんに再会し、プレゼントしたものだった。


なんの石かは初めて見るものだったのでわからなかったが、暗くなりつつある世界でも淡く光を放っていた。


「この石、あの時の……」


「これ綺麗だよなぁ。 すごいんだぞ? 夜でも見えるくらい光るんだ」


空に掲げると、黄昏た日を浴びて石の中で炎が揺らめくように赤く輝いた。


見れば見るほど不思議な石である。


なぜ、そんなものを持っていたのか、覚えが全くなかった。


「まるで星を掴んだかのようで気に入ってるんだ」


「星……」


その一言に私は内側から星が溢れ出すのを体感する。


あの流星群が私をここに連れてきたのだとしたら、この石は星の奇跡かもしれない。


そしてこの石の輝きは夜でも幻想世界をみせてくる。


ふたご町に落ちた奇跡で、希望の星だ。


私は手を伸ばし、石ごと黒咲くんの手を両手で包み込んだ。


「それだよ、それ! 黒咲くんすごい!」


「えっ?」


「願いを込めて星を投げるんだよ! 流れ星ならぬ投げ星!」


黒咲くんと見た流星群。


あなたの笑顔は一番星。


星に見守られて私たちは時をかけ、巡り会えた。


私はその奇跡の光景を再現したかった。


「みんなで投げたらそれこそ流星群みたいできっと綺麗だよ!」


「光る星を投げる」


黒咲くんの漆黒の瞳に光が走る。


キラキラと、まるで星空のようだ。


その中でもまだ知らぬ広い広い宇宙のどこかで産声をあげる大きくて一等に眩しい超新星だ。


「うん、いいなそれ。 絶対キレイだ」


あなたの好きを、私は希望に変えたい。


黒咲くんに絶望が来ないように星に願いを込めて、私は未来を回避したいと祈っていた。


「でしょ? ロマンティックで素敵! 星のことなら黒咲くんだね!」


私のはしゃぎ過ぎな様子に黒咲くんは少し頬を赤くして、やわらかく微笑む。


「考えたのは時森だろ?」


「違うよ? 黒咲くんが言ってくれたから生まれたんだよ?」


私は腕を大きく広げて、希望を表現する。


私だけの力じゃない。


黒咲くんの想いがあったから事が動いたんだ。


一人で出来ないことも、想いが重なり力を合わせれば夢物語なんかで終わらないんだ。


「バラバラじゃ出てこなかった! 黒咲くんは私に力をくれたんだよ! ありがとう!」


どうか、自分を卑下しないで。


黒咲くんは一生懸命でとてもすごい人なのだから。


あなたが壊れる未来なんて、私は認めない。


その笑顔は未来へと繋いでみせる。



「ありがとう、時森。何回言っても足りないや」


「楽しもうね!」


黒咲くんは七色の石を握りしめて、口角をあげ決意する。


石の輝きが反射して、黒咲くんの瞳に波が生まれた。


「石を光らせる方法、探してみる。 だから待ってて?」


「うん、待ってる」


(黒咲くんが笑ってる。 その笑顔がとても嬉しい。やっぱり黒咲くんは私の好きな人。 星のように光る笑顔が大好きなんだ)


本当に順調で、楽しくて、幸せで。


黒咲くんが笑うたびに酔いしれていた。


あなたの笑顔を曇らせたくないのに、希望は時に晴れから曇りに変わってく。


やがて雨になって、晴れることなくあなたは時を止めてしまった未来が待ち受けているのにーー……。


***


それから黒咲くんと別れ、星があちこちに点滅する群青の空になった頃。


私は小学生のまま時の止まった部屋でパソコンと向き合い、黙々と動画制作に励んでいた。


未来でちらりとみたショート動画の要領で上手いこと繋げてストーリーを構築する。


前髪をヘアピンでがっつり止め、髪を結び胡座をかきながらズボラで作業モードに入っていた。


「ふふ、意外とパソコンで動画制作出来んじゃ~ん」


これぞ作り終えたときの達成感と、誇らしさ。


最高の出来だと自負する高揚感。


作りたては興奮していて、盲目というものだ。


「麻理子様、ちゃんと感動くれたし。 さすが女王様」


華がある人はやることが違うと鼻息を荒くした。


少なくとも私にとって麻理子は華のあるアイドルだ。


誇らしげに鼻を高くしながら麻理子にメールでデータを送ると、ベッドにダイブする。


携帯電話。ガラパゴス携帯。

通称・ガラケーを開くといつの間にかメールを受信していたようだ。


マナーモードにしていて気づかなかった。


開くとそれは大好きな黒咲くんからの通知だった。


それだけで私はスキップして世界一周が出来てしまうふわふわした幸せを噛み締め、足をバタバタさせながらメールの本文に目を通す。


( えーっと?)


だが足は止まり、指先から急速に冷えていく。


短い文章に、黒咲くんの悲鳴が見えてきた。


「なんで?」


『ごめん。反対意見が多くてダメだった』


たったそれだけの文章。

謝るしかできない黒咲くんの葛藤が顔を出していた。


ガラケーを握りしめて、枕を殴りつける。


「意味わかんない! お金だってほとんどかけないのに!」


歯を食いしばって、耐えられないと私は黒咲くんに電話をかけたが、が黒咲くんは出てくれない。


着うただけが切なく流れる。


今、こんなにも会いたくて、心が震えて喉が焼けてしまいそうだ。


「黒咲くん……」


通じない電話で歌を聞きながら私は気づいてしまう。


(あ、そうか。ここもそうなんだ)


社会人として生きた経験から、私はその壁を知っていた。


一人では壊すことの出来ない分厚く高い壁。


体当たりをして傷だらけになって、上から見下ろされる感覚だ。


「古い慣習。 それが黒咲くんの壁だ」


昔からこうやってきた。


やり方を変えると不満が出て大変。


変えるのにもお金がかかる。


誰が責任とれるのか。


それは悪意のない若者を沈める励ましの言葉。


『これからは若者が時代を作るんだ』


『若者が頑張る時なんだ』


『自分たちは夢中で前を見て時代を築いた』


『君たちも頑張ってくれたまえ』


時代の違いが私たちを縛る。


現実の厳しさが私たちを打ちのめす。


誰も悪意なんてないから、誰にも嘆きを叫べないんだ。


(正直、どこにでもある話。 辛いけど、黒咲くんが自殺することに繋がるのは何?)


こんな暗い気持ちはいやだ。


しかし黒咲くんの自殺には決定打とはならない気がする。


(何が降り積もって、絶望したの? その笑顔が曇ってしまう闇はなんなの?)


「知りたい。 私は黒咲くんに幸せな未来を手にしてほしい」



ベッドから降りると、うんと背伸びをして前を見据える。


黒咲くんは間違いなく、必要な人だ。

未来で笑っているべき人だから。


ただそれだけの想いが私を突き動かす。


長年拗らせた想いは、ずっと黒咲くんに向けられていた。今さら手放すなんて拗らせ損だ。


諦めたくないからこの時代までぶっ飛ばされたに決まっている。


あの悲劇の未来を回避するためにここへ来たんじゃないかと、私はケータイ片手に部屋を飛び出した。

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