第7話 ハーレムの呪い
「ア……ア……ア……イギギギギ!!!」
とうとう体をのけぞってブリッジみたいな状態になったり、胎児のように丸まったり……。首は回っていないし、ゲロを吐いてはいない。だが、奇声を上げて暴れる俺は、先ほどのホラー映画の女と完全にリンクしていた。
「ダ、ダガジィ!ブザ、ブザ、ブザゲナイデヨォぉォォォ!」
俺から距離を取り、泣きながら叫ぶミユキちゃん。
「ググググ……グガ……グガァアア……!!!」
ミユキちゃんはエクソシストではない。なんなら、呪霊達に取り憑かれているところを俺が助けたばかりだ。低級呪霊すら祓えない彼女にできることは、この場が収まるのを祈ること。
それだけだ。
「ハァ……ハァ……」
……。
◇
そうしているうちに、俺は正気を取り戻した。
永遠とも感じられた激痛だったが、現実時間では二分程度しか経過していなかった。
部屋には、先ほどまで呪いにかかったかのように暴れていた俺。恐怖に顔を歪めて固まるミユキちゃん。ひっくり返ったローテーブルと割れた食器。そしてミユキちゃんが俺に投げつけたのか、ぬいぐるみや本が散らかっている。
入室した時はきれいに片付けられていたミユキちゃんの部屋は、完全にポルターガイスト現象が起こった後の心霊スポットと化していた。
「ミユキちゃん、ごめん。もう大丈夫」
「あ、あ、ああああああああ」
安心したのか、泣き崩れるミユキちゃん。
……発射まで行かなかったおかげか、搬送されることもなかったし、漏らすこともなかった。それだけが唯一の救いだった。
「ちょっと、トイレを借りて良いかな」
「う、うん」
「ごめん。失礼するよ」
そう言って俺は、トイレで危険な不発弾を除去した。手を洗って部屋に戻ると、ミユキちゃんは少し冷静になっていた。
「大丈夫? 怖い映画見て、取り憑かれたの?」
「いや、呪われていたのは昔からなんだ」
「え?」
「俺、童貞なんだ」
「その顔で童貞なの!?」
「あぁ。残念なことにな」
「でも、童貞は呪いじゃないよ!」
射爆の痛みからは逃れたが、まだ俺は冷静になり切ってはいないようだ。伝えたいことを適切に伝える力を失っている。
「いや、違う……『射爆』だ……」
「しゃばく?」
「あぁ。医学的な名称はちゃんとあるみたいだが、俺はそう呼んでいる」
「なにそれ」
「女性による性的刺激によって発射すると、脳の血管が膨張して激痛が走る病気だ」
「嘘だ」
「嘘じゃない。入学祝いに買ってもらったスマホで調べてみてくれ」
「本当にそんなのがあるの?」
「あぁ。結果は見ての通りだ。発射に至らなくても、その過程ですらあれだ……」
「それで童貞なんだ……」
「ちなみに、発射に至ると最悪死ぬ人もいるらしい」
「ええ!?」
「これはもう、呪いだろ?」
「確かに……」
その後はまぁ、部屋を片付けて、一緒にあの映画の続きを見て、バイバイだ。
俺の呪いは、大学生になっても解けていなかったんだ。
いやんなっちまうぜ。
◇
それから、例の『|鳴り止まぬ呪霊達の鳴き声《SNSの通知》』は収まった。
ストーカーと化した特級呪物たちとの戦いなんかもあったが、それはまた今度話そう。
ミユキちゃんと仲良くなってからは、よくランチだったり、こんなふうに暇つぶしに呼び出されるようになった。
まぁ、顔の可愛い子だから、俺も呼ばれたらホイホイついて行っちまう。
下落合で一人暮らしをしているミユキちゃんは、俺が終電を逃すと泊めてくれる。
残念ながら何も無い。
布団も別々だ。
別々の布団で天井を見ながら、アニメの話だったり、就活の話だったり、お互いのサークルの話をしたりする。
性欲を向けてこない男というのは、女性からしたら都合の良い存在なのだろう。
何より、恐ろしい夜を乗り越えた二人だ。
強い絆で結ばれている。
……。
女性の家に泊まる日は、家に入る前に二発。
自家発電で絞り出してから行くことにしている。
普段は毎日四発だが、その日は五発だ。
工場の生産速度が追いつかない。
あとはもう、朝目覚めたらソッコーで便所に行くだけだ。
なあ。
可愛くて、自分を慕ってくれている女の子と同じ部屋で寝たとしても、何もできない。
それどころか、無理やり絞り出してから遊びに行かなくてはいけない。
これが呪い以外のなんなんだよ。
俺は女性と謎の縁が生まれやすい。
そして、俺は俺のことを好きな美少女を好きだ。
最後まで行こうと思えば行けるだろう。
しかし、行ったら最後……激痛爆発で倒れ込むことになる。
これを『ハーレムの呪い』と呼ばずしてなんと呼ぶ。
つまりそういうことだ。
——ピコン
『ねえ、今日サークル無かったよね?カフェ行かない?』
『ごめん。今日は予定があるからまた今度ね』
……。
——プツッ
——ピコン
——ピコン
——ピコン
帰ろう。
俺はミユキちゃんのことを好きだし、普通に仲良しだ。
ミユキちゃんは連絡を返しても返さなくても、勝手に連絡をしてくる。
だが、今日は別の予定がある。
飲みに行く予定があるんだ。
マドカちゃんとな。
......Next




