第6話 ダガジグン!?
ふぅ。
さて。
帰らなきゃ。
俺のミユキちゃんが待っている。
「戻りました」
「あ、おかえりー! 必要な連絡する人以外は全部ブロックした!」
「おお。素晴らしい学習能力ですね」
「スマホが鳴らない! こんなことで喜ぶ日が来るなんてね!」
「いやー、流石にあれは異常でしたからね」
「ありがと! タカシくん!」
「いやいや、そんな大したことじゃないですよ」
「ハンカチは洗って返すね!」
「ハンカチは別にそのままでもいいですよ」
「ダメ! 洗って返す!」
「そうですか」
「ねえ」
「はい」
「なんでいつまでも丁寧語なの?」
「え?」
「タメなんだから、タメ口でいいじゃん」
「はい」
「タメ口でいいじゃん」
「うん」
「タカシくん。連絡先交換しよ」
「え?」
「いや?」
「嫌じゃないけど、大丈夫?」
「何が?」
「着信、増えるよ?」
「それはそれ!」
「そっか」
「はい! QRコード」
「はい。Takashi Inoue でやってる」
「これだね!」
——ピコン
猫のスタンプが送られてきた。
呪霊たちへの返事でよく使われていたやつだ。
「よろしく」
「タカシくん!」
「ん?」
「今日暇?」
「暇だけど」
「飲み行かない?」
「いや、俺未成年だから」
「じゃあ、ご飯行こうよ!」
「何食おうか」
「大衆イタリアン!」
「ミユキちゃん何食べる派?」
「ドリア!」
「いいね」
「タカシくんは?」
「ペペロンチーノと若鶏のグリルとライス」
「めっちゃ食べるね!」
「あと、辛味チキン」
「めっちゃ食べるね!」
「食べるんだよ」
……。
どうやら俺は、番外戦術で蠱毒を勝ち抜いてしまったらしい。
それだと最も強い毒が俺だったということになるが……。
目の前にいる儚げな美少女を救えたんだ。
猛毒にだってなってやる。
◇
まぁ、なんやかんや言って、大衆イタリアンで飯を食ったあと、一人暮らしをしているミユキちゃんの家に行くことになった。
「気になっているホラー映画があるけど、一人では怖くて見られない」なんてミユキちゃんが言い出したからだ。
いささか展開が早いが、俺にとってはそれも日常の一部だ。
隣を歩く小柄な美少女。
ふむ……。
俺も大学生活が始まって浮かれていたんだと思う。
もちろん『射爆』については忘れていなかったが……。
油断……ではない。
ただ、最後に射爆してからしばらく経っている。
俺だってあの頃のままじゃない。
耐えられる……!
そう思っていたんだ。
だが、現実は残酷だった。
◇
これがミユキちゃんの部屋か。
白基調でまとめられた家具にピンクのアクセントが入っている。突然の訪問客を迎え入れるにもかかわらず、部屋はきれいに片付いていた。
そして、女子の部屋特有のいい匂いがした。
ミユキちゃんの家に着いたあと、俺たちはすぐにシャワーを浴びて、ドンキで買った動物のパジャマに着替えた。
「タカシくんのくまさん可愛いー似合ってるー」
「ミユキちゃんも本物のハムスターみたいだね」
「褒めてる〜?」
「褒めてる褒めてる」
なんて、じゃれあいながら、例のホラー映画を見ていたんだ。
古い映画でな。悪魔に取り憑かれた女の子を、神父のおっさんが命がけで助けようとするやつ。
首は回るし、ゲロは吐くし、なかなか大変な映画だった。
そんなもんを女の子の家のベッドで二人並んで見る映画に選んだ時点で、たぶん俺たちは何かを間違えていた。
しかしさすが名作。俺は映画に夢中になっていた。
「うわぁ……」
思わず声が漏れる。
——ポフッ
集中していた俺の肩に、突然ミユキちゃんが頭を乗せてきた。
!?
数秒前まで悪魔にビビっていたはずなのに……。俺のアンテナは厄介なもんを受信しちまったみたいだ。
バリ5だ。
「タカシくん」
「だめだよ、ミユキちゃん」
「私、女子校出身だから……男子との距離感がいまいちわからなくって……」
「それじゃあ……仕方がないね……」
俺は流れに身を任せた。
ミユキちゃんはやはり男との距離感がわかっていない。
他の『あたしぃ、女子校出身だからぁ』などと言っている女どもとは一味違う。
こいつは本物だった。
「タカシくん……」
ミユキちゃんは俺を押し倒すと、そのまま覆い被さってきて、唇を重ねてきた——
刹那。
「あ、ああ」
「タカシくん♪」
「う、うううう」
「……タカシくん?」
「ゥガアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「タカシくん!?」
俺に覆い被さっていたミユキちゃんを投げ飛ばし、両手で頭を押さえながらのたうち回った。
「ア……ア……ア……イギギギギ!!!」
「ダガジグンンンンン!?」




