第10話 マドカちゃんが拉致された!
これは高校二年生の冬だな。確か二月だったな。
とにかく寒い日だった。うちの地元は茨城の最北端だから、ほぼ東北地方だ。
雪はそんなに降らないが……海風が冷たい。そんな田舎だった。
昼休みにいつもの仲間たちと机をくっつけて、早起きして作った弁当を食っていたんだ。
その日のメニューはなんだっけな。卵焼きと唐揚げが入っていたのは覚えているんだが……。嘘だ。別に覚えていない。卵焼きと唐揚げは毎日入れていた。それだけの話だ。
「そろそろ期末テストかー。タカシは勉強してる?」
「期末テストの勉強はしていないな」
「期末テストの勉強以外に何の勉強するんだよ」
「俺は期末テストのための勉強をしなくていいように、毎日予習と復習をちゃんとしてるんだよ」
「カーーー! くそやろう! そこは『勉強してねー!』って言うのがテンプレだろうが! テスト勉強するよりちゃんとやりやがって!」
「俺は三日で覚えたことは三日で忘れちまうからな。テスト勉強用の勉強をしてても身につかないんだよ」
「正論ばかり言いやがって! お前の卵焼きは没収だ!」
意味のわからないことを言いながらスグルは俺の卵焼きを勝手に食いやがった。
「おい。うまいか? 優等生からカツアゲした卵焼きは」
「うまい。俺も卵焼きは甘い方が好きだな」
「だろ? 出汁と味醂と蜂蜜を入れてるんだ。砂糖でもいいんだが、蜂蜜の方が少し優しい味わいになる。お袋の味ってやつだ」
なんて、自分の作った卵焼きについて語っていると、
「えー! タカシくんの卵焼き私も食べたーい!」
「今日の唐揚げは何点?」
「えー! すごいね! おかず交換しようよ!」
なんて、女子が集まってきてしまった。これもいつものパターンだ。結局俺はいつも自分で作った弁当を自分でほとんど食えずに終わる。
まあいい。焦がさずに巻けた卵焼き。ピリ辛に味付けた唐揚げ。昆布と梅干しの入ったおにぎり。俺が作った料理をうまいと言って喜んでくれるのは気分が良い。可愛い女子なら尚更だ。
だからこそ、ついついこだわってしまうんだよな。
俺が物々交換で手に入れたオカズや菓子パン。そして残されたきんぴらごぼうを食べていると、マサハルが教室に飛び込んできた。
「てえへんだ! てえへんだ!」
飛脚かな?
「タカシ! お前と仲の良い後輩……マドカちゃんがエミリ達に拉致された!」
「ゴホッ! マジ?」
エミリはクラスが違う同級生の女子で、過激派タカシファンの一人だ。去年のバレンタインで異物混入チョコレートを渡してきた。
あれは不器用なだけだと思っていたのだが、それ以外にも不審なイベントがいくつか発生したので警戒はしていたものの……俺以外に危害を加えたことはこれまでなかったのに。
まさか偏差値60超えの高校にも後輩を拉致する奴がいるとは。
「購買帰りに体育館裏に連れて行かれるところを見ちまったんだよ! あれは間違いねえ、リンチだ! タカシ! 俺はどうすれば良いんだよ!」
エミリはガタイがめちゃくちゃ良い。中学時代は柔道部で、あだ名は『門番』だったらしい。我々の高校では女性を『門番』とか『ガリバー』などと呼ぶ奴はあまりいないので、普通に名前で呼んでいたが……。
そんなことはどうでもいい。
とにかくマドカちゃんを救出に向かわねば!
椅子の上で裸足になってあぐらをかいていた俺は、急いで上履きを履き直し、体育館裏へ走った。
【ご挨拶】
「ハーレムの呪い」を読んでくださってありがとうございます。
面白いと思って読んでいただけているなら……おそらく私と近い感性をお持ちなのでしょう。
私ごとで大変恐縮ですが「小説家になろう」におきましては、コメントや星評価をいただいたことはほとんどございません。
もし、少しでも、射爆に悩む男の人生が面白いな……って思ってもらえたなら。
リアクションを下さる方が一人でもいると、泣いて喜びます。




