第89話 「家を持っていきたいと言ったら、スゥが地面ごと消しました!?」
第89話 家を持っていきたいと言ったら、スゥが地面ごと消しました!?
次の目的地は――ドワーフの国。
……なんだけど。
唯:「その前に、一回ノストに帰ろっか!」
エマ:「賛成。旅の準備もしたいしね」
クロエ:「……補給も必要」
唯:「それに、スゥに家見せたい!」
スゥ:「イエ?」
唯:「そう! 私たちの家!」
スゥ:「スゥ!」
決まり。ドワーフの国へ向かう前に、一度ノストへ帰る。
唯:「じゃ、飛んで帰ろっか!」
《人化》を解除する。
身体が大きくなり、翼が広がる。
唯:「キャピ!」
スゥ:「…………」
私を見上げたスゥが固まった。
スゥ:「ユイ?」
唯:「キャピ!」
スゥ:「オオキイ!」
そういえば、スゥにこの姿を見せるの初めてだった。
エマとクロエが背中に乗る。スゥはエマに抱えられて――。
唯:「キャピ!」
飛ぶ!
スゥ:「スゥゥゥゥゥ!?」
一気に森が遠ざかる。
最初こそエマにくっついていたスゥだったけど。
しばらくすると、恐る恐る下を覗き始めた。
スゥ:「……オオ」
森。川。山。全部が足元にある。
スゥ:「トブ!」
唯:「キャピ!」
スゥ:「トブ! トブ!」
クロエ:「……楽しそう」
エマ:「どっちが?」
クロエ:「……両方」
その日のうちに、ノストへ到着した。
街から離れた場所へ降りて、人化。
門をくぐって。見慣れた道を歩いて。
唯:「帰ってきたー!」
スゥ:「キタ!」
エマ:「早速真似してる」
クロエ:「……唯二号」
唯:「変なこと教えてないよ!?」
そして。久しぶりの――我が家。
唯:「ただいまー!」
ガチャッ!扉を開ける。
少し空気はこもっているけど、何も変わっていない。
テーブル。ソファ。キッチン。
唯:「家だぁ……」
エマ:「荷物置いてから寝転んでね」
先回りされた。
スゥ:「イエ?」
スゥが入り口で止まっている。
唯:「うん」
抱き上げる。
唯:「ここが私たちの家」
スゥ:「ユイ?」
唯:「私とエマとクロエ。それから――」
スゥを軽く持ち上げる。
唯:「今日からスゥも!」
スゥ:「……スゥノ?」
唯:「うん。スゥの家」
スゥ:「…………」
ぷるっ。
スゥ:「スゥノ、イエ!」
唯:「そう!」
スゥ:「イエ!」
ぽよん!腕から飛び出した。
ソファ。テーブルの下。キッチン。
部屋中を跳ね回る。
スゥ:「イエ! イエ!」
エマ:「気に入ったみたい」
クロエ:「……よかった」
うん。これでスゥにも、帰る場所ができた。
――数時間後。
唯:「着替えよし!」
エマ:「保存食も大丈夫」
クロエ:「……薬、少ない」
唯:「じゃあ明日買い足そう」
テーブルの上には、ドワーフ国へ持っていく荷物。
着替え。保存食。薬。野営道具。その他いろいろ。
唯:「…………多くない?」
エマ:「長旅だから仕方ないよ」
せっかく家に帰ってきたのに。
また全部詰め込んで旅に出る。
唯:「家ごと持っていけたら楽なのに」
エマ:「無茶言わないの」
唯:「だよねー」
…………。
ん?私はスゥを見る。
スゥ:「スゥ?」
スゥ。亜空間。広い。
入口を好きな場所に出せる。
私は家を見る。もう一度スゥを見る。
唯:「…………」
クロエ:「……唯」
唯:「なに?」
クロエ:「……悪い顔してる」
唯:「してないよ!」
エマ:「何思いついたの?」
唯:「いや、その……」
私は床を指差した。
唯:「家ごと亜空間に入れたら、荷造りいらなくない?」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
クロエが家を見る。スゥを見る。床を見る。
クロエ:「……あり」
エマ:「なし!」
唯:「まだ何も試してないよ!?」
エマ:「試そうとしてるから言ってるの!」
クロエ:「……入口を家より大きくする」
唯:「それ!」
エマ:「家をどうやって動かすの!?」
唯:「…………」
クロエ:「…………」
そこだった。
唯:「持ち上げる?」
エマ:「誰が!?」
クロエ:「……分解」
エマ:「絶対ダメ!」
唯:「じゃあ地面ごと――」
エマ:「もっとダメ!」
スゥ:「…………」
三人で家を囲んで。ああでもない。
こうでもない。入口を広げる。
家を分解する。土台から動かす。
魔法で浮かせる。段々、声も大きくなっていく。
スゥ:「…………ケンカ?」
三人の声が止まった。
唯:「え?」
スゥ:「ケンカ……?」
エマ:「違うよ、スゥ。これは――」
唯:「作戦会議!」
クロエ:「……議論」
エマ:「二人とも余計分かりにくい!」
スゥ:「…………」
ぷる。スゥが家を見る。
私たちを見る。
もう一度、家を見る。
スゥ:「イエ……」
唯:「スゥ?」
淡い緑色の光が。
スゥの身体から漏れ始めた。
クロエ:「……魔力」
エマ:「スゥ?」
スゥ:「ケンカ……ダメ」
唯:「あ、いや、本当に喧嘩じゃ――」
スゥ:「スゥ!」
ブワッ!!
唯:「え?」
家の外まで光が走った。
そして――。ズズズズズズズズ……!
唯:「…………」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
窓の外。私たちの家を丸ごと囲むほど巨大な光の輪が、地面に広がっていく。
唯:「ちょっと待って」
クロエ:「……大きい」
エマ:「スゥ!? 何してるの!?」
スゥ:「スゥゥゥゥゥ!」
次の瞬間。――ドゴンッ!!
唯:「キャピィィィィィ!?」
家が。庭が。そして、その下の地面まで。
まとめて――沈んだ。
第89話 家を持っていきたいと言ったら、スゥが地面ごと消しました!? 完




