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『転生したらコウモリでした。キャピしか言えないけど異世界で生きます。』  作者: AsaHiruYugataYoru
第3章 キャピ! 異世界が思ったより広すぎます!

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第88話 「スゥが「ぺっ」した種、まさかの世界樹でした」

第88話 スゥが「ぺっ」した種、まさかの世界樹でした


 翌朝。


唯:「よし!」

エマ:「唯」


唯:「なに?」

エマ:「朝ご飯、まだ途中だよ?」

唯:「…………」


 見る。パン。スープ。果物。

 確かに途中だった。


唯:「でも亜空間が!」

エマ:「逃げないから」

唯:「キャピ……」


 昨日から、ずっと気になっている。

 問題は――。どうやって作っていくかなんだよねぇ


 何もない。本当に何もない。土すらない。


スゥ:「スゥ!」


唯:「スゥも行きたい?」

スゥ:「スゥ!」


唯:「よし! じゃあ――」

エマ:「食べてから」


唯・スゥ:「…………」


 エマには逆らえなかった。


 朝食を終えると、すぐに昨日と同じ部屋へ集まった。


唯:「スゥ、お部屋!」

スゥ:「オヘヤ!」


唯:「出せる?」

スゥ:「スゥ!」


 ぷるん!スゥの身体から淡い緑色の光が飛び出した。

 光は空中に線を描き、人一人が通れる輪を作っていく。


クロエ:「……昨日より早い」

エマ:「もう慣れてきたのかな?」

スゥ:「スゥ!」


 得意そうだ。


唯:「じゃあ行こう!」


 一歩。光の輪を抜ける。

 昨日と同じ、白っぽい空間。


 空も。地面も。何もない。

 ――はずだった。


唯:「……ん?」


 少し離れた場所。白一色だった地面に、小さな緑色が見えた。


唯:「なんかある!」

エマ:「え?」


 走って近づく。小さい。

 私の指くらい。二枚の葉っぱを広げた、小さな芽。


唯:「……草?」

エマ:「昨日はなかったよね?」

クロエ:「……なかった」


 クロエがしゃがみ込む。

 そして。ゆっくりスゥを見る。


スゥ:「…………」

クロエ:「……スゥ」


スゥ:「スゥ?」

クロエ:「昨日」


スゥ:「スゥ~?」

クロエ:「……ここで何か吐いた」


唯:「え?」

スゥ:「スゥ~♪」


クロエ:「……誤魔化してる」

唯:「吐いたって何を?」


クロエ:「……種みたいなの」

唯:「種?」


 昨日。スゥが食べたもの。

 《世界樹の実》。


唯:「まさか……」

 芽へ手をかざす。


唯:「《鑑定》!」

《世界樹の幼芽》


唯:「…………」

エマ:「どうしたの?」


唯:「世界樹」

エマ:「え?」


唯:「これ、世界樹!」

エマ:「ええっ!?」


クロエ:「……やっぱり」

スゥ:「スゥ!」


唯:「なんでスゥが得意そうなの!?」

 もう一度確認する。


《世界樹の幼芽》

《世界樹の種子から発芽した幼体》

《周囲から生命力・魔力を吸収しながら、長い年月をかけて成長する》


唯:「種……」

 なるほど。スゥが世界樹の実を丸ごと食べた。

 生命力や魔力は《吸収》したけど。


唯:「種だけ消化できなかったんだ……」

クロエ:「……だから、ぺっ」

スゥ:「スゥ~♪」

唯:「できるじゃん! ぺって!」


 昨日あれだけ「出して!」って言ったのに!

 あのとき出してよ!


エマ:「まあまあ」

唯:「世界樹の実ぃ……」


 もうない。全部スゥの栄養になった。

 残った種からは、世界樹が生えた。


(……まあ、いっか)無駄にはなってない。

 むしろ――。


唯:「あれ?」

 芽の根元を見る。


 白かった地面。

 そこだけが、少し茶色くなっている。

 触ってみる。さらっ。


唯:「……土?」

エマ:「昨日はなかったよね?」

唯:「うん」


 ほんの少し。芽を中心に、手のひら二つ分くらい。

 でも確かに。何もなかった亜空間に、土ができている。


唯:「…………」


 昨日。ここに森が欲しいって言った。

 川も。家も。何もないから、これから作ればいいって。


 その翌日に。最初の緑が生えた。


唯:「……育つかな?」

エマ:「《鑑定》では、長い年月をかけてって書いてあったんだよね?」

唯:「うん」


 すぐに大きくなるわけじゃない。

 元の世界樹みたいになるまで、どれだけかかるのかも分からない。


 それでも。


唯:「じゃあ、育てよう」

 小さな葉を、指先でそっと撫でる。


唯:「ここも。この子も」

スゥ:「スゥ?」


唯:「スゥも一緒にね」

スゥ:「イッショ!」


唯:「うん。一緒」

スゥ:「スゥ!」


 昨日まで何もなかった場所に。

 小さな世界樹が一つ。それだけなのに。

 ここが少しだけ――私たちの場所になった気がした。


 亜空間から戻った私たちは、出発の準備を始めた。

 世界樹は助かった。


 《深緑》も、もう召喚には使えない。

 謎の組織が何者なのか。


 どうしてダンジョンコア魔石を集めているのか。

 まだ分からないことは残っている。

 でも。ここで待っていても答えは出ない。


ファル:「唯さん!」

 城の外。見送りには、ファルとレオン。


 アルヴェイン王。そして精霊王まで来てくれた。

 遠くには世界樹。まだ枯れた枝も多い。

 だけど昨日より、ほんの少しだけ緑が増えている。


ファル:「本当に、もう行ってしまうんですね」

唯:「うん」


ファル:「もう少し滞在していただいても……」

レオン:「ファル」

ファル:「分かっています!」


 ぷくっと頬を膨らませる。


ファル:「唯さんたちにも旅の目的がありますから」

唯:「また来るよ」


ファル:「……本当ですか?」

唯:「もちろん!」


 地下で遭難するのは、もう嫌だけど。


唯:「次は普通に遊びに来る!」

ファル:「はい!」


 ファルが笑う。最初に会ったときは、盗賊に捕まっていた。

 助けたら今度は私たちが牢屋に入れられて。


 一緒に精霊王を探して。世界樹の地下に潜って。

 私が遭難して。最後には世界樹まで枯れかけた。


(……濃かったなぁ)


レオン:「次は勝手に穴へ落ちるなよ」


唯:「勝手に落ちたんじゃないよ!」

クロエ:「……遭難四日」


唯:「言わなくていいの!」

スゥ:「ソウナン?」


唯:「スゥ、その言葉は覚えなくていい!」

スゥ:「ソウナン!」

唯:「覚えたぁ!」


 ファルが吹き出した。レオンまで笑っている。


アルヴェイン:「唯殿」

唯:「はい」


 アルヴェイン王が一歩前へ出る。


アルヴェイン:「改めて礼を言わせてほしい」

 深く頭を下げる。


アルヴェイン:「娘を。そして世界樹を救ってくれたこと。エルフを代表して感謝する」

唯:「そんな!」


 慌てる。


唯:「私だけじゃないです!」

 エマ。クロエ。ファル。レオン。精霊王。

 そして肩のスゥ。


唯:「みんなで助けたんです」

アルヴェイン:「……そうだな」


 王様が微笑んだ。


精霊王:「唯」

唯:「ん?」


精霊王:「一つ、気になる話がある」

 精霊王が西を向く。


精霊王:「お前たちは、これからもダンジョンコア魔石を探すのだろう?」

唯:「うん」


精霊王:「ならば、西へ行ってみるといい」

唯:「西?」


精霊王:「山岳地帯の向こう。ドワーフたちの国だ」

 ドワーフ。鍛冶とか。鉱山とか。そういうやつ?


精霊王:「最近、あの国で奇妙な魔力を放つ鉱石が採掘されたという噂がある」

唯:「奇妙な魔力……」

精霊王:「ダンジョンコア魔石かどうかは分からん。だが、ドワーフたちはその力を利用しようとしているらしい」


 エマと顔を見合わせる。クロエを見る。


クロエ:「……行く価値はある」

唯:「だよね」


 ダンジョンコアかは分からない。違うかもしれない。

 でも。ここにいたって分からないなら。


唯:「決まり!」


 私は西を向いた。


唯:「次はドワーフの国!」

エマ:「うん!」


クロエ:「……賛成」

スゥ:「スゥ!」


 こうして。エルフの国での長い騒動は終わった。

 三人で始まった旅には。


 いつの間にか、小さなスライムが一人増えている。私の肩で。


スゥ:「ユイ!」

唯:「なに?」


スゥ:「スゥ!」

唯:「ふふっ。行こっか!」


 次の目的地は――西。

 山々の向こうにある、ドワーフの国。


 私たち四人の旅が。ここから、また始まる。


第88話 スゥが「ぺっ」した種、まさかの世界樹でした 完

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