↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『転生したらコウモリでした。キャピしか言えないけど異世界で生きます。』  作者: AsaHiruYugataYoru
第3章 キャピ! 異世界が思ったより広すぎます!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/95

第73話 「唯さん、世界樹の地下で遭難中です。」

第73話 唯さん、世界樹の地下で遭難中です。


 落ちる。落ちる。

 どこまで落ちるの、これぇぇぇ!?


唯:「キャピィィィィィ!!」

 背中の翼を必死に羽ばたかせる。

 飛べないわけじゃない。翼はちゃんと空気を掴んで、落下速度もかなり落ちている。


 だけど、上へ行こうとすると――。

 ズンッ!


唯:「ぐぇっ!?」

 身体全体を掴まれたみたいに、下へ引っ張られる。

(重力!? 魔法!? なんなのこれ!?)


 見上げる。

 崩落した穴から差し込んでいた光は、もう小さな点になっていた。


唯:「エマぁぁぁぁぁ!!」

 返事はない。

 自分の声だけが何度も反響して――やがて、光も消えた。


     ◇


唯:「……ふぅ」

 最後は翼を広げて減速し、なんとか地面へ降りた。

 怪我はない。


唯:「……生きてる」

 よし。それが一番大事。

(それに私、飛べるし)


 さっきは慌てていただけかもしれない。

 翼を広げ、もう一度飛ぶ。

 一メートル、五メートル、十メートル。


(いける!)ところが――。

 ズンッ!


唯:「おっも!」

 急に身体が重くなった。


唯:「ぬぬぬぬ……上がれぇぇぇ!」

 全力で羽ばたく。少し上がって――。


 ズルッ。


唯:「あ」

 落ちた。


唯:「キャピィィィ!?」

 慌てて減速し、再び着地。

(もしかして身体が大きいから?)


唯:「それなら!」

 《人化》を解除。

 小さなコウモリ姿になって飛び上がる。


(これなら軽い!)

 ぱたぱたぱたぱた!


 さっきより軽快。

 勝った!……と思った瞬間。


 ズンッ!

(重ぉぉぉぉい!)


 結局、同じ高さで押し戻された。

 人化へ戻り、暗闇を見上げる。


唯:「…………」

 飛べる。でも、上へは行けない。


唯:「……ここ、おかしい」


     ◇


 仕方なく別の出口を探すことにした。

 《振動感知》。


 壁、岩、世界樹の根。

 さらに複数の空洞と、そこから伸びる無数の通路。


唯:「……広っ」

 ただの縦穴じゃない。


 地下に巨大な洞窟が広がっている。

 歩き始めて、すぐ別の問題に気づいた。


唯:「……見えない」

 真っ暗だ。

 《振動感知》で大まかな地形は分かるけど、普通に見えるのとは違う。


 そのとき。ピクッ。

 右前方から振動。


 四足歩行。こっちへ来る!

 グルルルル……。


唯:「……キャピ」

 地面を蹴る音。私は横へ跳んだ。


 ブンッ!何かが目の前を通過する。


(そこ!)


唯:「せいっ!」

 ドゴッ!拳が命中。

 魔物が岩壁へ叩きつけられた。

 暗闇の中、岩壁に叩きつけられた魔物へ《鑑定》を使う。


《ケイブハウンド》

《Lv.12》

《洞窟などの暗所に生息する犬型魔物》

《保有スキル:《暗視》《嗅覚強化》》


唯:「……《暗視》!」

(これ、今すっごく欲しい!)

 私はまだ生きているケイブハウンドを押さえ込み、その首筋へ牙を立てる。


 ちゅう。血と一緒に、その魔物が持つ何かが流れ込んでくる。


《条件を満たしました》

《血液情報を解析します》

《スキル《暗視》を獲得しました》


唯:「よしっ!」

唯:「おっ!」

 視界が変わった。

 色まではほとんど分からない。でも岩も、根も、遠くの壁も見える。


唯:「これ便利!」

 魔物を倒して、吸血して、新しい能力を覚える。


(なんか懐かしいなぁ)

 コウモリだったころみたいだ。


唯:「よし! これなら余裕!」

 《暗視》と《振動感知》を使い、上へ続く道を探す。

 壁を突き破る世界樹の根も目印にした。


 ここまで伸びている根は黒ずみ、触れるだけで表面がボロボロと崩れる。

(根を上へ辿れば帰れるんじゃない?)


唯:「私、頭いい!」

 一時間ほど進む。分かれ道。


唯:「右!」

 また分岐。


唯:「左!」

 さらに三つ。


唯:「真ん中!」

 その先で――巨大な空洞へ出た。


 天井が見えないほど高い。

 そして出口は七つ。


唯:「…………多くない?」

 嫌な予感がした。


     ◇


 結局、その日は帰れなかった。

 水場は見つけた。魔物もいる。

 別の小型魔物を捕まえ、牙を立てる。


 ちゅう。

 食事もこれで問題ない。


(昔みたい)


 一人で洞窟を飛び回って、魔物から吸血して、安全な場所を探して眠る。


唯:「あの頃に比べたら余裕だよね」

 今は人化もできる。飛べる。

 《振動感知》も《暗視》もある。


唯:「エマとクロエなら絶対探してくれてるし」

 ファルとレオンもいる。

 上から探してくれているはず。


唯:「明日には帰れるでしょ!」

 私は岩壁にもたれて眠った。


     ◇


 二日目。

唯:「……ここ、昨日通った」

 横に三本の根が伸びた岩。


 間違いない。


唯:「……キャピ」

 一周したらしい。


 別の道へ。今度は確実に上へ向かう急斜面を見つけた。


唯:「これ絶対、上に続いてる!」

 長い坂を登る。どんどん上がっている。


(今度こそ!)

 ところが、その先には――。


唯:「…………」


 巨大な空洞。

 そこから伸びる道は全部、下向き。


唯:「なんで!?」

 ずっと上ってたよね!?


 別の道を探す。上へ。分岐。

 空洞。下へ。また上へ。


 また空洞。迷路。空洞。

 

 迷路。空洞。


唯:「…………」

 地下だから朝も夜も分からない。

 身体の感覚だけを頼りに水場へ戻った。


唯:「まあ……二日くらいなら」

 まだ大丈夫。


 魔物を捕まえて吸血する。


唯:「エマだったら、こういう食事嫌がるだろうなぁ」

 ……。


唯:「クロエなら普通に隣で吸血してそう」

 ……。


唯:「それで『……悪くない』とか言いそう」

 ……。


 返事がない。笑い声もない。


唯:「…………キャピ」

 自分の声だけが、洞窟に響いた。


     ◇


 三日目。帰れない。

 上へ続く道は何本も見つけた。


 でも全部、途中で別の空洞へ繋がっている。

 そして、ようやく見つけた縦穴。

 遥か上に亀裂が見えた。


唯:「今度こそ……!」


 飛ぶ。十メートル。二十メートル。

 また身体が重くなる。


唯:「まだぁぁぁ!」

 翼が痛い。それでも羽ばたく。

 亀裂が近づく。


(帰れる!)

(エマたちのところに帰れる!)


唯:「あとちょっと!」


 その瞬間。 ズンッ!!


唯:「――っ!」


 一気に身体が落ちた。


唯:「うわぁぁぁぁ!?」


 必死に翼を広げて減速。着地と同時に膝をついた。


唯:「はぁ……はぁ……」


 上を見る。亀裂は、もう遠い。


唯:「…………なんで」


 三日間。歩いた。飛んだ。

 登った。《暗視》まで手に入れた。


 なのに。


 **帰れない。**


 私は強くなった。ドラゴンにもなった。

 ヴァンパイアの力もある。空だって飛べる。

 それなのに、出口一つ見つけられない。


唯:「……帰れない」

 口にした途端、胸の奥がぎゅっと縮んだ。

 胸へ手を当てる。


(エマ……)

 精霊の泉では、離れていたエマが私を見つけてくれた。

 あのときは確かに繋がっていた。


 なのに今は。何も感じない。


唯:「……エマ?」

 返事はない。


唯:「クロエ……」

 当然、返ってこない。

 《暗視》のおかげで、洞窟は見える。

 でも見えるのは岩と、枯れた根と、どこまでも続く穴だけ。


唯:「……やだなぁ」

 声が震えた。


唯:「三日だよ……?」

 誰に言ってるんだろう。


唯:「そろそろ見つけてよ……」

 返事はない。


唯:「私も……ずっと探してるんだけどなぁ」

 目の奥が熱くなる。袖で拭う。


唯:「……キャピ」

 三日だけ。水はある。吸血もできる。

 怪我もない。昔の私なら、これくらい普通だった。


 一人で起きて。一人で飛んで。

 一人で食べて。一人で眠って。

 一人で生きていた。


 それなのに。


唯:「……エマに会いたい」

 ぽろっ。涙が落ちた。


唯:「クロエに……会いたい」

 もう一粒。


唯:「みんなと……帰りたい」

 止まらなくなった。大声で泣くわけじゃない。

 ただ、涙だけがぽろぽろ落ちていく。


(私、こんなに寂しがりだったっけ)


 違う。昔は知らなかっただけだ。

 一緒にご飯を食べること。

 くだらない話をすること。


 エマが笑うこと。

 クロエが得意そうに「……どやぁ」ってすること。


 三人で同じ家に帰ること。

 知らなかったころは、一人でも平気だった。


 でも今は――。

唯:「……寂しい」


 帰りたい場所がある。会いたい人がいる。

 それを知ってしまったから、一人がこんなに寂しい。


     ◇


 しばらくして、私は立ち上がった。


唯:「……寝よ」


 明日また探そう。絶対に帰る。

 エマとクロエのところへ。


 壁際に横になる。ごつっ。


唯:「痛っ」

 位置を変える。


 ごりっ。


唯:「……痛い」

 反対側。


 じめっ。


唯:「…………」

 三日間、すぐ帰れると思っていたから、まともな寝床なんて作っていない。

 今日は泣いたせいか、余計に疲れていた。


唯:「……枕ほしい」


第73話 唯さん、世界樹の地下で遭難中です。 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。