第61話 「五千枚で売った魔石、異世界召喚に使われたらしいです」
# 第61話 五千枚で売った魔石、異世界召喚に使われたらしいです
――あれから、半年。
ノストを騒がせていたゴールドラッシュは、ようやく終わりを迎えていた。
街を埋めていた冒険者や商人は減り、跳ね上がっていた宿代や家賃も落ち着いた。
唯:「静かになったねぇ」
エマ:「ちょっと寂しい?」
唯:「全然」
クロエ:「……即答」
だって、あの頃は本当に人だらけだった。
今はようやく平和――なのだけど。
冒険者A:「聞いたか? 王国が異世界人を召喚したって」
冒険者B:「四人らしいぞ」
冒険者A:「勇者じゃねえのか?」
最近のノストは、別の噂でもちきりだった。
――異世界召喚。
唯:「異世界召喚……!」
クロエ:「……目が輝いた」
仕方ないじゃん!
私も異世界から来たんだから!
まあ、私の場合は召喚じゃなくて転生だけど。
唯:「日本人かな!?」
エマ:「ニホンジン?」
唯:「私がいた国の人!」
エマ:「じゃあ、唯と同じところから来た人かもしれないんだ」
唯:「そう!」
日本語が通じるかもしれない。
元の世界の話だってできるかもしれない。
唯:「お米とか醤油とか、作り方知ってる人いないかな!?」
クロエ:「……そこ?」
唯:「重要だよ!」
異世界の料理も美味しい。
でも、白いご飯と醤油はたまに猛烈に恋しくなる。
エマ:「会ってみたい?」
唯:「めちゃくちゃ!」
クロエ:「……王都でしょ」
唯:「…………遠い」
いつか会えるかな。
そんなことを考えながら、私たちは今日の依頼へ向かった。
◇
半年経っても冒険者生活は変わらない。
今日の依頼は、ノスト近郊に現れた魔物の討伐。
魔物:「ギャアッ!」
茂みから一体が飛び出す。
クロエ:「……右」
唯:「はい!」
クロエが一気に回り込み、短剣で脚を斬る。
体勢が崩れた瞬間。
エマ:「《光縛》!」
淡い光が魔物を拘束する。
私は脚へ魔力を集中。
唯:「せーのっ!」
ドンッ!!吹き飛んだ魔物が地面を転がった。
終了。
唯:「……早っ」
エマ:「最近、このくらいならすぐ終わっちゃうね」
クロエ:「……弱い」
唯:「クロエさん、強者の発言になってるよ?」
クロエ:「……どやぁ」
唯:「どやった!」
でも、本当に強くなった。
三人で動くのも、今では当たり前だ。
そういえば最近、ちゃんと数字で見てなかったな。
唯:「《鑑定》」
《唯》
種族:《ルナブラッドラゴン》
個体Lv:18
能力:
《鑑定》《吸血》《隠密》
《振動感知》《弱点感知》
《魔力制御》《人化》《突進》
《震撃》《毒耐性》ほか
特殊因子:
《月因子:27%》
《龍因子:45%》
《夢魔因子:23%》
状態:正常
唯:「おお……!」
結構上がってる!
クロエと血の契約を結んだとき、《夢魔因子》は18%まで一気に活性化した。
そこからさらに23%。月も龍も、半年で少しずつ伸びている。
じゃあ、二人は――。
《エマ》
種族:《人族》
個体Lv:36
職業:《月龍巫女》
親密度:100%
共鳴度:99%
唯:「……99%」
エマ:「どうしたの?」
唯:「あと一個……」
エマ:「?」
唯:「なんでもない!」
親密度は100%。
共鳴度は、あとたった1%。
(100%になったら……何か起きるのかな?)
そしてクロエ。
種族:《ヴァンパイア(月系統)》
個体Lv:25
能力:《吸血》《隠密》《硬質化》《魔力喰らい》
親密度:82%
共鳴度:73%
唯:「おおお……!」
クロエ:「……なに?」
唯:「クロエ、めっちゃ上がってる!」
クロエ:「何が?」
唯:「私との仲良し度!」
クロエ:「…………」
少しだけ顔を逸らす。
クロエ:「……当然」
唯:「どやってる?」
クロエ:「……どやってない」
唯:「どやってるじゃん!」
クロエ:「……どやぁ」
唯:「やっぱり!」
エマ:「ふふっ」
半年前は、自分が私たちと一緒にいていいのか悩んでいたクロエ。
今は同じ家で起きて、同じご飯を食べて、一緒に依頼へ行く。
そして三人で同じ家へ帰る。
それが当たり前になった。
(半年かぁ……)
数字を見ると実感する。
私たち、ちゃんと三人になったんだなぁ。
◇
依頼を終えてギルドへ戻ると。
ガルド:「おう! 唯!」
唯:「ガルド!」
久しぶりに見る四人。
ガルド、ミレイ、リン、リューク。
リン:「久しぶりー!」
ミレイ:「三人とも元気そうね」
リューク:「相変わらず騒がしいな」
唯:「まだ何も騒いでないよ!?」
リューク:「時間の問題だろ」
唯:「ひどい!」
こうして七人揃うのも久しぶり。
だったら――。
ガルド:「飲みに行くか!」
唯:「行く!」
クロエ:「……即答」
◇
唯:「かんぱーい!」
カンッ!
七つのジョッキがぶつかる。
久しぶりだけど、みんな元気そうだ。
ただし、半年前とはちょっと違う。
唯:「…………」
ミレイ:「な、何よ」
ミレイを見る。
ガルドを見る。
またミレイ。
唯:「付き合って半年! どうですか!?」
ミレイ:「ぶっ!」
唯:「進展は!?」
ミレイ:「聞くなぁぁぁ!」
ガルド:「がははは!」
リン:「この前も二人で買い物してたよ」
ミレイ:「リン!?」
幸せそうで何よりです。
唯:「リンとリュークは、もう一年くらいだっけ?」
リン:「うん、そのくらい」
唯:「一年……先輩だ……」
リン:「何の?」
唯:「なんでもないです」
なんとなく右のエマを見る。
次に左のクロエ。
エマ:「?」
クロエ:「……?」
唯:「…………」
やめよう。なんか恥ずかしくなってきた。
◇
近況報告をしながら飲んでいると、昼間から気になっていた話を思い出した。
唯:「あ、そうだ! 異世界召喚!」
ガルド:「ああ、その話か」
唯:「あの噂って本当なの?」
ミレイ:「最近、そればっかりね」
リン:「王都じゃもっとすごいらしいよ」
唯:「本当に異世界人が来たの!?」
ガルド:「落ち着け。近い近い」
気づけばテーブルに身を乗り出していた。
ガルド:「王国が異世界召喚をやったって話自体は、たぶん本当だ」
唯:「おお……!」
ガルド:「ただ、国が正式に発表したわけじゃねえ。俺たちが知ってるのも王都から流れてきた噂だけだ」
唯:「そっかぁ……」
日本人なのか。どんな人なのか。
聞きたいことは山ほどあるのに。
ガルド:「ただな」
唯:「?」
ガルド:「俺たちにも、ちょっと関係がある話らしい」
エマ:「どういうこと?」
クロエ:「……関係?」
ガルド:「覚えてるだろ。半年前、ダンジョンから持って帰った青い魔石」
唯:「金貨五千枚!」
ガルド:「そっちで覚えてんのかよ」
唯:「忘れるわけないよ!」
あれのおかげで、今の家を買えたんだから。
ガルド:「王都に送られたあと、詳しく調べられたらしい。それで正体が分かった」
ガルドが声を落とす。
ガルド:「正式には――《静青のダンジョンコア魔石》っていうらしい」
唯:「ダンジョン……コア……?」
初めて聞く名前。
だけど、妙に引っかかった。
あの魔石は、ガリアからもらった深紅の魔石と何度も震え合っていた。
唯:「それって、何なの?」
ガルド:「俺も詳しくは知らねえ。ただ、普通の魔石とは比較にならねえほどの魔力を秘めた、相当特殊な代物らしい」
リューク:「だから金貨五千枚なんて値段がついたんだろうな」
ミレイ:「問題は、その使い道よ」
唯:「使い道?」
ガルドが私を見る。
ガルド:「俺たちが持って帰った《静青のダンジョンコア魔石》――」
一拍。
ガルド:「あの魔石を使って、異世界召喚を行ったって噂だ」
…………。
私たちが洞窟から持ち帰った。
あの魔石を使って?
異世界から――人を?
さっきまで浮かれていた頭が、一瞬で冷えた。
唯:「えっ……」
第61話 五千枚で売った魔石、異世界召喚に使われたらしいです 完




