第60話 「世界の封印がまた一つ壊れました」
第3章、開幕です!
ここから唯たちの冒険は、ノストを飛び出してさらに広い世界へ!
新しい国、新しい出会い、そして少しずつ動き始める世界。
もちろん、唯・エマ・クロエの三人も相変わらずです!
第3章も、楽しんでいただけたら嬉しいです!
## 第60話 世界の封印がまた一つ壊れました ー第3章ー始まり
――八年前。帝国。
王城のさらに地下。
地上の光が決して届かない巨大な石室に、数十人の魔術師が集められていた。
床一面を埋め尽くす、巨大な召喚魔法陣。
幾重にも重なった術式の中心には、一つの魔石が置かれている。
普通の魔石とは比べものにならないほどの魔力を内包した、ダンジョンコア魔石。
帝国召喚士A:「各術式、接続完了!」
帝国召喚士B:「魔力経路、異常なし!」
帝国召喚士C:「干渉を開始します!」
魔法陣へ次々と魔力が注ぎ込まれる。
だが、それだけでは足りない。
この世界と異世界の間には、容易には越えられない神の境界が存在する。
その境界へ穴を開けるために必要なのが――。
ダンジョンコア魔石に蓄えられた、莫大なエネルギーだった。
帝国召喚士A:「召喚術式――起動!」
瞬間。ダンジョンコア魔石に亀裂が走った。
ピシッ。
ピシピシッ――。
そして。砕けた。
凄まじい魔力が魔法陣へ流れ込み、地下室が真っ白な光に包まれる。
帝国召喚士A:「成功か!?」
帝国召喚士B:「人影があります!」
帝国召喚士C:「異世界人だ!」
帝国の者たちが期待に満ちた目を向ける。
伝説に語られる勇者。
強大な魔法使い。
あるいは、この世界には存在しない力を持つ英雄。
だが。
光の中から現れたのは――。
小さな子供だった。
少年:「…………」
五歳ほどの少年。
身体は痩せ細り、服も汚れている。
突然知らない場所へ放り出された少年は、怯えた目で周囲を見回した。
少年:「……ここ……どこ……?」
帝国の者たちが、ざわめく。
帝国兵:「子供……?」
帝国召喚士A:「失敗したのか?」
帝国召喚士B:「いや、待て。鑑定を――」
誰も喜ばなかった。
誰も少年へ駆け寄らなかった。
ただ。
何が召喚されたのかを確かめるように、大人たちは少年を見ていた。
その少年の名は――。
「**レイヤ。**」
後に帝国を滅ぼすことになる少年が、この世界へやってきた瞬間だった。
【※職業の召喚士について:自身の魔力を消費して魔物や精霊を召喚・使役する一般的な後衛職。一方、異世界人の召喚には神域を越えるほどの、人智を超えたエネルギーが必要とされる。長年の研究の末、その莫大なエネルギーを秘めた物質が**『ダンジョンコア魔石』**と呼ばれるようになった。】
【世界で初めて異世界召喚に成功したのは、今から約1500年前とされている。その国は、現在ではすでに滅んでいる。以来、再現できた国はなく、レイヤの召喚は実に1500年ぶりの成功例だった。そのため帝国では、彼の存在は当初――**『人類の希望』**になると期待されていた。】
◇
――現在。王国、王都。
八年前に帝国で行われたものと、よく似た巨大な魔法陣が地下に描かれていた。
その中心。
青く澄んだ一つの球体が、台座に置かれている。
正式名称――。
**《静青のダンジョンコア魔石》**
半年前。
ノスト近郊のダンジョンで発見され、王国が金貨五千枚で買い取ったものだった。
王国召喚士A:「術式、最終確認完了しました」
王国召喚士B:「いつでも開始できます」
王国の魔術師たちの声に緊張が混じる。
成功すれば、歴史的な偉業。
異世界召喚。
異なる世界から人間を呼び寄せ、その者が持つ未知の知識や力を王国へ取り込む。
帝国に残されていた召喚術の研究資料。
それを基に王国で再構築された術式だった。
そして。その計画を強く推し進めた人物がいる。
王国兵A:「宰相閣下」
魔術師の一人が振り返った。
王国兵A:「ご命令を」
宰相:「…………」
王国宰相は、静かに魔法陣を見下ろしていた。
王国の未来を担う重臣。
国王からの信頼も厚い男。
だが。
ここにいる誰一人として知らない。
その男が――。
アーノルドの血から作られた分身体であることを。
何百年もかけて何代もかけて人間社会に溶け込んでいることを。
宰相(アーノルド分身):「始めよ」
王国兵A:「はっ!」
魔術師たちが一斉に動いた。
王国召喚士A:「召喚術式、起動!」
ゴォォォォ――!
地下室を魔力の奔流が駆け抜ける。
静青のダンジョンコア魔石が輝く。
ピシッ。
一筋の亀裂。さらに二本。三本。
そして――。
砕け散った。
蓄えられていた莫大な魔力が、一瞬で召喚陣へ吸い込まれていく。
世界の境界が歪む。この世界ではない、どこか。
そこへ術式が手を伸ばす。捕らえる。
引き寄せる。
そして――。
王国召喚士A:「反応あり!」
王国召喚士B:「召喚対象を確認!」
王国召喚士A:「成功です!!」
光が地下室を満たした。
歓声が上がる。
王国の魔術師たちは知らない。
自分たちが今、何を消費したのか。
異世界召喚に成功した。
彼らが知っているのは、それだけだった。
ただ一人。宰相(アーノルド分身)だけが――。
薄く笑った。
そして――世界の誰も知らない場所で。
何かを封じていた鎖が、また一つ砕けた。
《《封印解除率――26%》》
◇
《静青のダンジョンコア魔石》が砕けた瞬間――。
◇
大陸西方。エルフ国。 天を覆う巨大な世界樹。
その根は大地の奥深くへと伸び、その下には巨大なダンジョンが存在していた。
最深部。
『深緑のダンジョンコア魔石』
誰にも触れられていない魔石が――。
「ぷるっ。」静かに震えた。
◇
遥か北方。龍の里。
かつてここにも、一つのダンジョンコア魔石が存在していた。
その魔石は龍王ガリア・ヴァルガリアから一人の少女へと譲られている。
『深紅のダンジョンコア魔石』
「ぷるっ。」
唯:「……ん?」
腰元を見る。
唯:「……気のせいか」
◇
ドワーフ国。
「出力安定!」「第三炉へ回せ!」「今日も絶好調じゃ!」
巨大な地下施設を無数の魔導管が走り、
膨大なエネルギーを国中へ送り続けていた。
そのさらに地下深く。ドワーフたちさえ知らない場所に――。
『金黄のダンジョンコア魔石』「ぷるっ。」
「ん? 今、出力が揺れんかったか?」
「誤差じゃ、誤差!」
彼らはまだ、その動力源の正体を知らない。
◇
深い、深い海の底。
光さえ届かない場所に、古代の遺跡が沈んでいた。
その最奥。誰にも発見されていない――。
『深碧のダンジョンコア魔石』 「ぷるっ。」
海底で、ひっそりと震えた。
◇
エルフ国と帝国、その二つの国に近い場所に広がる――死の森。
魔物、毒、瘴気。
人々が近づくことさえ避ける森の奥には、巨大なダンジョンが存在する。
その最深部。『紫黒のダンジョンコア魔石』 「ぷるっ。」
まだ誰の手にも渡っていない魔石が、静かに震えた。
◇
魔国。 魔族ですら滅多に足を踏み入れない未踏の地。
その地下深くに存在する、誰にも知られていないダンジョン。
最深部では――。『漆黒のダンジョンコア魔石』 「ぷるっ。」
暗闇の中、漆黒の魔石が静かに震えた。
その存在を知る者は――まだ、誰もいない。
◇
それから、半年後。
ノスト。かつてゴールドラッシュに沸いた街の一角。
そこにある、一軒の家。
朝。窓から柔らかな日差しが差し込む。
台所からは、いい匂い。
エマ:「唯ー。朝ご飯できたよー」
唯:「ん~~……」
私はソファの上で、ごろーんと転がった。
クロエ:「……唯。起きて」
唯:「あと五分……」
クロエ:「さっきも言った」
唯:「じゃあ、あと三分……」
クロエ:「減らせばいいわけじゃない」
唯:「キャピ……」
半年。この家で暮らし始めて、もう半年が経った。
最初は何もなかったリビングにも、家具が増えた。
玄関には三人分の冒険者装備。
庭には、私とクロエが訓練した跡。
台所ではエマが朝ご飯を作っている。
クロエの部屋にも、少しずつ物が増えた。
もうここは。
完全に――私たち三人の家だった。
エマ:「冷めちゃうよ?」
唯:「はーい!」
私はソファから飛び起きる。
今日も。いつもと同じ一日が始まる。
私たちは知らなかった。半年前。
私たちがダンジョンから持ち帰った、あの静青の魔石が――。
世界を大きく動かす一つのきっかけになっていたことを。
そして。私たちの冒険が、ノストという一つの街から――。
もっと広い世界へ向かおうとしていることも。
このときの私は。まだ、何も知らなかった。
第60話 世界の封印がまた一つ壊れました 完




