第57話 「金貨5,000枚と酔った勢い!」
# 第57話 金貨5,000枚と酔った勢い!
《ド・モビー・ベヒモス》を倒した翌日。
朝から冒険者ギルドに来ていた。
目的はもちろん――報酬!
唯:「キャピ……ムフフ……」
エマ:「唯、顔がすごいことになってるよ」
クロエ:「……悪い顔」
昨日は本当に命がけだったのだ。
Aランクの《ド・モビー・ベヒモス》を七人で倒して、
持って帰れるものは、みんなで頑張って回収した。
今日は。ムフフしてもいい日なのである。
フィーネ:「お待たせしました。まず、《ド・モビー・ベヒモス》の討伐についてですが……」
受付の奥から戻ってきたフィーネさんが、分厚い書類を机に置く。
フィーネ:「……改めて確認します。本当に七名で討伐されたんですよね?」
ガルド:「それ、何回目だ?」
フィーネ:「何度でも聞きたくなります! Aランクですよ!?」
唯:「七人いたからね」
ミレイ:「……死ぬかと思ったけど」
リューク:「それは否定できないな」
特に《震撃》で全員吹っ飛ばされたときは、本当にまずかった。
フィーネ:「討伐報酬。それから素材と魔石の買い取り。
さらに、洞窟深部で新たな主になりかけていた
個体を早期討伐したことへの追加報酬も出ます」
クロエ:「……唯。目が光った」
唯:「気のせいです」
追加報酬。
七人で分けても、かなり残る。
(これ……家、買えるんじゃない?)
雨が降っても濡れない。
テントでもない。
昔の洞窟でもない。
私とエマとクロエが暮らす、本物の家。
頭の中に夢のマイホームが建ち始めた、そのときだった。
フィーネ:「それと、こちらなのですが……」
机の上に、小さな箱が置かれる。
中に入っているのは、あの泉の底で見つけた青い球体。
《静青の■■■■■》の魔石。
腰に下げた《深紅の■■■■■》の魔石が、小さく震える。
ぷるっ。
唯:「やっぱり反応する……」
エマ:「何なんだろうね、この二つ」
クロエ:「……似てる。でも、色は正反対」
《静青の■■■■■》の魔石
フィーネ:「支部の鑑定具でも、バルガスさんの《鑑定》でも詳細を確認できませんでした」
「ギルドマスターでも?」
フィーネ:「はい。ただ、通常の魔石とは比較にならないほど
高密度の魔力を内包していることだけは確認できました」
フィーネ:「そのため、王都へ送って詳細鑑定に出したいのですが、よろしいでしょうか?」
私はエマとクロエを見る。
エマ:「私はいいよ」
クロエ:「……私も」
ガルドさんたちも頷いた。
唯:「じゃあ、お願いします!ムフフ」
クロエ:「……また悪い顔」
唯:「してない!」
◇
――三日後。
朝から私たち七人は、ギルドの二階にある応接室へ呼び出されていた。
部屋にはフィーネさん。
そして、ギルドマスターのバルガスさんまでいる。
唯:「……なんか怖いんだけど」
クロエ:「……唯、何かした?」
唯:「してないよ!?」
バルガス:「静かにしろ。例の魔石について、王都から返答が来た」
机の上には、《静青の■■■■■》の魔石。
見た目は三日前と何も変わらない。
唯:「それで、何だったの?」
フィーネ:「それが……詳細については、こちらにも開示されていません」
唯:「え?」
わざわざ王都まで送ったのに?
フィーネ:「極めて希少な特殊魔石であり、非常に高い魔力を内包している。
それ以上については非公開、とのことです」
クロエ:「……怪しい」
フィーネ:「ただ――」
フィーネさんが一枚の書類を手に取る。
フィーネ:「王国から、この魔石を買い取りたいとの申し出が来ています」
唯:「買い取り?」
唯:「ちなみに……おいくら?」
フィーネ:「…………金貨、五千枚です」
唯:「…………」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
ガルド:「…………」
唯:「ごせん!?」
思わず椅子から立ち上がった。
唯:「五千!? 五と千の五千!?」
フィーネ:「他にどの五千があるんですか!」
唯:「キャピィィィ!?」
金貨五千枚。七人で分けても、一人七百枚以上。
しかも、《ド・モビー・ベヒモス》の報酬は別。
クロエ:「……唯が帰ってこない」
エマ:「頭の中で家を建ててるんだと思う」
唯:「なんで分かったの!?」
◇
そして、その夜。
唯:「かんぱーい!」
全員:「乾杯!」
七人で祝勝会!
肉!魚!お酒!
今日はちょっとくらい贅沢しても許される。
唯:「キャピ~! お肉追加!」
エマ:「唯、明日から家を探すんだから、使いすぎないでよ!」
唯:「大丈夫、大丈夫!」
クロエ:「……その言葉、信用できない」
ガルド:「ガハハハッ! 今日は飲め飲め!」
リン:「ガルドも人のこと言えないでしょ」
リューク:「まあ、今日くらいはいいだろ」
そんな感じで宴は進み――。
何杯目かも分からなくなった頃だった。
ミレイ:「…………ガルド」
ガルド:「ん?」
ミレイさんがジョッキを両手で抱えながら、
じーっとガルドさんを見ている。
頬が真っ赤だ。
珍しい。
ミレイさんって、こんなに酔うんだ。
ミレイ:「私ねぇ……」
ガルド:「お、おう」
ミレイ:「私はガルドのことが好きなの!」
ガルド:「お、おう!?」
リン・リューク:「おっふ!?」
ぶふぉっ!!
二人が同時にビールを吹いた。
唯:「ほう……」
私は静かにジョッキを置く。
唯:「ほうほうほう!」
エマ:「お! おぉ!」
クロエ:「なるほど~」
ガルド:「な、なんだお前ら、その顔は!?」
唯:「続けてください」
エマ:「うんうん!」
クロエ:「……興味深い」
ガルド:「見世物じゃねえぞ!?」
しかし。
当のミレイさんには、もう私たちなんて見えていなかった。
ふらふらと立ち上がる。
ミレイ:「私と付き合って、結婚して~~~!」
唯:「そこまでいったぁぁぁ!?」
エマ:「一気に!?」
クロエ:「……早い」
ガルドさんの目が点になる。
ガルド:「…………」
ミレイ:「だめぇ?」
ガルド:「お、おう! いいぜ!」
リン・リューク:「おっふ!?」
ぶふぉっ!!(二回目。)
唯:「決まったぁぁぁ!」
エマ:「おめでとう!」
クロエ:「……展開が速すぎる」
ミレイ:「やった~! うれしぃ~!」
くるくるくる~ 一回。 二回。 三回――。
ミレイ:「…………むり」
ぺたん。椅子に座ったと思ったら、そのまま机に突っ伏した。
ミレイ:「すぅ……」
唯:「寝た!?」
リン:「……ミレイ、あんな酔い方するんだ」
リューク:「俺も初めて見た……」
そして。全員の視線が、ゆっくりとガルドさんへ向かう。
ガルド:「ガハハハッ! いやぁ、美人に好きって言われるのは最高だな~! ガハハハハ……」
…………。
ガルド:「ガハハハ……」
…………。
ガルド:「……はっ」
一同:じぃぃぃぃ。
ガルド:「……なんだよ、その目は」
エマ:「ガルドさん」
エマが真顔になる。
エマ:「ほんとにミレイさんのこと、受け入れるんですね?」
ガルド:「…………」
全員の視線が集中する。
唯:「…………」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
リン:「…………」
リューク:「…………」
ガルド:「お前ら圧がすげえんだよ!」
クロエ:「……逃がさない」
唯:「大事なところだからね」
ガルド:「逃げねえよ!」
ガルドさんがジョッキをドンッと机に置いた。
眠っているミレイさんを見る。
そして――。
ガルド:「酔った勢いでも! なんでも! 構わねえ!」
ガルド:「俺はミレイが好きだ!! ガハハハッ!」
唯:「おおおおおおっ!」
エマ:「言った!」
クロエ:「……両想い」
リン:「やっぱりかぁ……」
リューク:「長かったな……」
ただし。肝心の本人は。
ミレイ:「すぅ……すぅ……」
全員で頷いた。
一同:ミレイが起きてるときに、もう一回言わせなければ!
エマ:「絶対!」
クロエ:「……賛成」
リン:「異議なし」
リューク:「俺もだ」
ガルド:「お前ら絶対楽しんでるだけだろ!?」
唯:「キャピ!」
こうして。
Aランク討伐と、とんでもないお宝を祝うはずだった宴会で――。
なぜか一組のカップルまで誕生した。
……たぶん。
ミレイさんが明日の朝、全部覚えていれば。
そして私たちにも、明日からやることがある。
宿でもない。テントでもない。
昔の洞窟でもない。
私とエマとクロエ。
三人が帰れる場所。
――明日から、家探しだ!
# 第57話 金貨5,000枚と酔った勢い! 完




