第55話 「盗まれた魔石を追ったら、次の洞窟の主に食べられました」
# 第55話 盗まれた魔石を追ったら、次の洞窟の主に食べられました
唯:「待てぇぇぇ!!」
私の声が洞窟の奥まで響く。
《静青の■■■■■》の魔石を抱えた猿型の魔物は、
天井近くの岩棚を軽々と飛び移っていた。
猿の魔物:「キキッ!」
唯:「また笑った! 絶対バカにしてる!」
私たち七人は、その後を全力で追っている。
リン:「唯! 先に行きすぎないで!」
唯:「でも逃げる!」
リン:「だからって罠も確認せず突っ込まない!」
唯:「キャピ!」
正論!
私は少し速度を落とした。
アビスラとグランガがいなくなった今、昔知っていた場所だから安全――なんて保証はない。
クロエ:「……右」
唯:「え?」
クロエが指差す。
猿の魔物が右側の横穴へ飛び込んだ。
唯:「そっちは行き止まり!」
ガルド:「なら追い詰められる!」
七人で横穴へ飛び込む。
そして――。
唯:「……いない」
行き止まり。
猿の魔物の姿はどこにもない。
クロエ:「……上」
見上げる。
天井の細い亀裂から、尻尾だけが覗いていた。
猿の魔物:「キキッ!」
唯:「ずるい!」
猿の魔物は身体をねじ込むように亀裂を抜けていく。
ガルド:「回り道は!?」
唯:「ある! たぶん向こうに繋がってる!」
リン:「たぶん?」
唯:「昔は繋がってた!」
ガルド:「走るぞ!」
来た道を戻り、別の横穴へ。
しばらく走ったところで、ミレイが声を上げた。
ミレイ:「いた!」
前方の岩棚に、淡い青色の光がちらりと見える。
唯:「見つけたぁ!」
猿の魔物:「キキッ!?」
今度は猿の魔物が驚いた。
リン:「先回りする!」
リンが壁際を駆け、一つ先の分岐へ飛び込む。
さすが斥候。
猿の魔物の逃げる方向を読んでる!
数秒後。
猿の魔物:「キィッ!?」
前方からリンが現れ、短剣で進路を塞いだ。
猿の魔物が反転する。
そこには私たち。
唯:「挟んだ!」
今度こそ!
猿の魔物:「キキッ!」
猿の魔物が青い魔石を片手で掲げ――横へ放り投げた。
唯:「ちょおおお!?」
反射的に飛びつく。
地面を転がる球体を両手で受け止めた。
唯:「取った!」
クロエ:「唯」
唯:「何!?」
クロエ:「……それ、ただの石」
唯:「え?」
手を見る。
どこにでもありそうな丸い石。
唯:「…………」
恐る恐る振り返る。
猿の魔物の反対の手には、《静青の■■■■■》の魔石。
猿の魔物:「キキキッ!」
唯:「フェイントまで使ったぁぁぁ!?」
リューク:「あいつ、妙に頭いいな」
クロエ:「……唯より賢いかも」
唯:「それはないよね!?」
エマ:「唯、今引っかかったよ?」
唯:「エマまで!?」
猿の魔物は再び奥へ逃げていく。
くっそぉぉ!絶対捕まえる!
◇
追跡はさらに続く。
猿の魔物は足音で別方向へ誘導したり、小石を落として邪魔したり。
こいつ、私たちで遊んでる!でも、リンも負けていない。
リン:「左は囮。足跡は右に続いてる」
クロエ:「……ほんとだ」
クロエがしゃがみ込み、リンの見ている地面を覗く。
リン:「この辺。土が少しだけ削れてるでしょ?」
クロエ:「……うん」
クロエもリンと同じ痕跡を追っている。
少し前まで真っ直ぐ突っ込んでいたのに、もうリンの動きを観察している。
やっぱり覚えるの早いなぁ。
唯:「クロエも斥候っぽくなってきたね!」
そんなやり取りをしながら、さらに奥へ進む。
やがて私は足を止めた。
唯:「……ここ、知らない」
エマ:「唯でも?」
唯:「うん。昔もほとんど来なかったところ」
壁は湿り、天井もさらに高い。
空気まで重く感じる。
そして――。
リン:「……止まって」
リンの声が変わった。全員が足を止める。
ガルド:「どうした?」
リン:「静かすぎる」
言われて気づく。小型魔物の鳴き声。
羽音。虫の音。
何も聞こえない。
クロエ:「……何かいる」
クロエも腰を落とした。
前方には、大きな空洞。その入口に――猿がいた。
猿の魔物:「……キ……」
唯:「……え?」
さっきまで私たちをからかっていた猿の魔物が、動かない。
いや。震えている。
両手で《静青の■■■■■》の魔石を抱え、暗闇の奥を見つめていた。
ずしん。
何かが動いた。地面が揺れる。
猿の魔物:「キッ!?」
猿の魔物が飛び退こうとする。
でも――遅かった。
暗闇から巨大な顎が飛び出した。
猿の魔物:「ギッ――」
ばくん。
唯:「…………え?」
消えた。猿が。
《静青の■■■■■》の魔石ごと。
唯:「食べたぁぁぁぁ!?」
ぬるり。暗闇から巨大な魔物が姿を現す。
四本の太い脚。
岩のような黒褐色の外皮。
異様に発達した前脚。
何重にも牙が並ぶ巨大な口。
グランガほどじゃない。
でも、身体が警告している。
こいつは――危ない。
唯:「《鑑定》」
《ド・モビー・ベヒモス》
個体Lv:47
危険度:A
状態:《成長期》
特徴:
洞窟深部に生息する大型魔獣。
高い筋力と防御力を持ち、捕食した魔物や魔石から魔力を取り込む。
縄張り意識が非常に強い。
能力:《硬質化》《剛力》《魔力喰らい》《震撃》
唯:「……Aランク」
ガルド:「やっぱりな」
ミレイ:「しかも《成長期》……」
リューク:「まだ強くなるってことか」
昔、この洞窟にはアビスラとグランガという二体の主がいた。
二体がいなくなって深層まで入れるようになった。
でも、空いた場所がいつまでも空いたままとは限らない。
リン:「この辺り、小型の魔物が全然いなかった。たぶん、こいつが縄張りを広げてる」
ガルド:「次の主候補ってところか」
ぞくりとした。
まだ成長期なのにAランク。
放っておけば、いずれこの深層を支配する存在になるのかもしれない。
そのとき。
ぷるっ。
唯:「……!」
腰の《深紅の■■■■■》の魔石が震えた。
少しして――。ぷるっ。
やっぱり反応している。
目の前の魔物じゃない。
その腹の中にある――あの魔石に。
唯:「……まだある」
エマ:「唯?」
唯:「青い魔石。飲み込まれたけど、まだお腹の中にあると思う」
クロエ:「……じゃあ、倒す?」
クロエがさらっと言った。
ガルド:「簡単に言うな。Aランクだぞ」
クロエ:「でも、七人いる」
ガルドたち四人。私、エマ、クロエ。
ガルドはしばらくガルム・ベヒモスを見据え――盾を構えた。
ガルド:「俺たち四人だけなら撤退する」
そして、口元を上げる。
ガルド:「だが、七人なら勝ち目はある」
エマが私を見る。
エマ:「唯」
唯:「うん」
正体不明の魔石だから。
家代になるかもしれないから。
それもかなりある!
でも――。
こいつがこのまま成長すれば、深層へ来る冒険者たちにとって新しい脅威になる。
それに。
(私の元マイホームで、好き勝手されるのは気に入らない!)
唯:「やろう」
クロエ:「うん」
エマ:「分かった」
ガルド:「決まりだな」
ガルドが一歩前へ出る。
ガルド:「俺が正面で受ける! リンは動きを見て側面へ!
ミレイは援護! リューク、でかいのを撃つまで魔力を温存しろ!」
リン:「了解!」
ミレイ:「任せて!」
リューク:「分かった!」
私も二人を見る。
唯:「エマ、いつも通りお願い!」
エマ:「うん!」
唯:「クロエ!」
クロエ:「唯が暴れてる間に横から行く」
唯:「私の役割、暴れるなの!?」
クロエ:「違う?」
唯:「……だいたい合ってる!」
ド・モビー・ベヒモスが低く唸った。
巨大な前脚が地面を踏み砕く。
ド・モビー・ベヒモス:「グオオオオオオッ!!」
咆哮が洞窟を揺らした。
ガルドが盾を構える。
リンが側面へ走る。
ミレイが弓を引き、精霊の光が矢へ集まる。
リュークの周囲に魔力が渦巻く。
エマの《魔力布結界》が広がる。
クロエが姿勢を低くする。
私は拳を握った。
唯:「元マイホームの新しい主候補――」
目の前の巨体を見上げる。
唯:「悪いけど、ここで止まってもらうよ!」
七人対Aランク。
私たちの初めての総力戦が――始まった。
第55話 盗まれた魔石を追ったら、次の洞窟の主に食べられました 完
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