第53話 「洞窟に帰ったら、人だらけになってました。」
# 第53話 洞窟に帰ったら、人だらけになってました。
翌朝。
私、エマ、クロエ。
そして、ガルド、リン、ミレイ、リューク。
目的はもちろん――。
唯:「家を買うぞー!」
ガルド:「今から行くのはダンジョンだ!」
唯:「そこで稼いで家を買うんだから、同じでしょ!」
ガルド:「間が全部抜けてんだよ……」
クロエ:「……家」
唯:「ん?」
クロエ:「……なんでもない」
隣を歩くクロエが、少しだけ視線を逸らした。
昨日から時々こんな感じだ。
唯:「あっ! 着いた!」
懐かしい。
コウモリだった頃、魔物から逃げ回り、
何度も死にかけながら生き延びた洞窟の入り口だ。
唯:「……って……あれえ?」
人。
人。
人、人、人、人、人!
冒険者:「東側の採掘区画、空いたぞ!」
採掘師:「魔石が出た! 荷車回してくれ!」
商人:「松明! 保存食! 回復薬! 潜る前に買っていきな!」
洞窟の前には荷車が並び、露店まで出ている。
冒険者や採掘師が次々と洞窟へ吸い込まれていく。
アビスラとグランガ。
二体の主がいなくなったことで、それまで危険すぎて進めなかった場所の探索が一気に進んだ。
希少な鉱石、魔石、魔物素材。
それを目当てに人が集まり、さらに商人まで押し寄せた結果がこれらしい。
唯:「私が住んでた頃なんて、お店どころか客一人来なかったのに……」
クロエ:「…普通は住む場所じゃない」
唯:「キャピ!?」 正論で刺された。
◇
唯:「もしかして、ダンジョン初めて?」
クロエ:「……初めて」
唯:「怖い?」
クロエ:「少し。でも……楽しみ」
唯:「おおっ!」
ただ、以前の洞窟とはずいぶん違っていた。
目印。看板。魔道具の灯りまである。
唯:「文明に侵略されてる……!」
エマ:「便利になったって言おうよ」
深部へ入り、人の姿が減り始めた頃。
先頭を歩いていたリンが、突然片手を上げた。
リン:「止まって。前方、五体。狼型。こっちに来る」
全員が即座に足を止める。
数秒後、暗闇から五体の魔物が飛び出した。
ガルド:「ここは俺たちがやる!」
ガルドが盾を構え、二体の突進を真正面から受け止める。
ミレイ:「お願い!」
ミレイが弓を引く。
小さな風の精霊が矢にまとわりつき、
放たれた一本が軌道を変えて一体の脚を射抜いた。
リューク:「まとめて吹き飛べ!」
魔法陣が輝く。
ガルドが引きつけた魔物の間で魔法が炸裂した。
爆発から逃れた一体が横へ跳ぶ。
リン:「遅い」
その背後には、もうリンがいた。
一閃。狼が崩れ落ちる。
唯:「……強っ!」
ガルド:「どうよ?」
得意げだ。腹立つ顔だ!
リューク:「俺たちも三か月、遊んでたわけじゃないからな」
ミレイ:「全員Bランクになったんだから」
四人の役割が綺麗につながっている。
クロエ:「……いい連携」
クロエは特にリンの動きを見ていた。
同じ斥候寄りだから、気になるのかもしれない。
ガルド:「次はお前らの番だな」
唯:「望むところ!」
◇
さらに奥へ進むと、岩陰から巨大な魔物が姿を現した。
さらに、その後ろから二体。
唯:「《鑑定》!」
《ロック・オーガ》
個体Lv:31
危険度:B
特徴:
高い筋力と岩のように硬質化した皮膚を持つ。
唯:「全部Bランク!」
エマ:「唯、正面お願い!」
唯:「任せて!」
私は真正面へ飛び込んだ。
三体の視線が私へ集まる。
一体が岩みたいな拳を振り下ろした。
ドゴォン!!直前で横へ跳ぶ。
唯:「エマ!」
エマ:「《魔力布結界》!」
半透明の魔力布が腕へ絡みつき、巨体の動きを止める。
その瞬間――クロエの気配が消えた。
《隠密》。
ただ隠れたんじゃない。
私が視線を集め、エマが作った死角へ自分から潜り込んでいる。
クロエ:「……ここ」
ザシュッ!膝裏。
硬質化の薄い部分を斬られ、巨体が崩れる。
《弱点感知》。
見えた!
唯:「そこぉ!」
首元へ一撃。
一体目が沈む。
残る二体が同時に動いた。
クロエ:「エマ、右」
エマ:「うん!」
《魔力布結界》が一体の進路をずらす。
唯:「いらっしゃい!」
そこへ私が飛び込む。
正面から注意を奪う間に、クロエはもう一体の背後へ。
エマが止める。クロエが崩す。
私が仕留める。そして最後の一体も――。
唯:「三人で!」
エマ:「うん!」
クロエ:「……了解」
三方向からの攻撃。
巨体が地面へ沈んだ。
ガルド:「……お前ら、本当にCランクか?」
唯:「昨日なったばっかり!」
ガルド:「なおさらおかしいわ!」
◇
それからも魔石や素材を拾いながら奥へ進んだ。
唯:「家代、家代……!」
エマ:「目的が完全にそれになってるよ」
リン:「前方に二体。さっきと同じ大型。気づかれてる」
唯:「《鑑定》!」
《ロック・オーガ》
個体Lv:34
危険度:B
唯:「またBランク!」
ガルド:「今度は全員でいくぞ!」
ガルドが正面から一体を受け止める。
リンが死角へ回る。
ミレイの矢が風の精霊をまとって肩を射抜き、
リュークの魔法が足元で炸裂した。
エマ:「唯!」
唯:「分かってる!」
もう一体へ私が突っ込む。
拳をかわした瞬間、エマの《魔力布結界》が腕を拘束。
クロエ:「……右、空いた」
死角からクロエ。
唯:「そこっ!」
同じ傷へ攻撃を重ねる。
巨体が沈んだ。
振り返れば――。
七人だと、早い。
そして――。
《経験値を獲得しました》
《個体Lv:10 → 12》
唯:「おっ! レベルアップ!」
私は倒れたロック・オーガを見る。
クロエを見る。
クロエも私を見る。
唯:「…………」
クロエ:「…………」
唯:「いく?」
クロエ:「……いく」
二人でしゃがむ。
唯・クロエ:「いただきます」
ちゅー。
ちゅー。
ガルド:「…………」
ちゅー。
ちゅー。
ガルド:「……ありゃ? クロエもヴァンパイアなのか?」
唯:「あれ? 言ってなかったっけ?」
ガルド:「聞いてねぇよ!」
クロエ:「……ヴァンパイア」
ガルド:「そんな普通に言うことか!?」
エマ:「私も最近、感覚がおかしくなってきた気がする……」
唯:「キャピ!?」
ついでにクロエを《鑑定》。
《クロエ》
種族:《ヴァンパイア(月系統)》
個体Lv:13 → 15
能力:《隠密》《硬質化》
唯:「クロエも十五になってる!《硬質化》も取れてる!」
クロエ:「……どやぁ」
唯:「今度は絶対言った!」
◇
昼過ぎ。
安全な横穴で休憩することになった。
エマとクロエは少し離れた場所に座っていた。
エマ:「クロエ」
クロエ:「……なに?」
エマ:「昨日から、家のこと考えてるでしょ」
クロエ:「…………」
少しの沈黙。
クロエ:「……本当に、私も住んでいいの?」
エマ:「もちろん」
クロエ:「でも……分からない」
クロエが膝を抱える。
クロエ:「私は、たまたま唯とエマに助けてもらっただけ」
服も。食事も。血も。
冒険者になって、パーティーにも入れてもらった。
クロエ:「もう十分すぎるくらい、もらってる」
エマ:「うん」
クロエ:「なのに……家まで」
クロエは視線を落とした。
クロエ:「なんで、そこまでしてくれるの?」
エマは少し考えてから、柔らかく笑った。
エマ:「私も、唯との関係を損得で考えたことはないよ」
クロエ:「……え?」
エマ:「最初から何かを返してほしくて、一緒にいたわけじゃないの」
エマは少し離れた場所で騒いでいる唯を見る。
エマ:「一緒に歩いて、一緒にご飯を食べて、一緒に困って……
気づいたら、隣にいるのが当たり前になってた」
クロエ:「……当たり前」
エマ:「だから、クロエも同じ」
クロエが顔を上げる。
エマ:「私もクロエと一緒にいたい」
クロエ:「…………」
エマ:「理由って、それだけじゃダメかな?」
クロエ:「……分からない」
エマ:「うん」
エマは答えを急かさなかった。
クロエも、すぐには何も言わなかった。
クロエ:「でも……」
エマ:「うん?」
クロエ:「嫌じゃない」
小さな声。
クロエ:「二人と一緒にいるの……嫌じゃない」
エマ:「そっか」
エマはそれ以上聞かず、ただ笑った。
◇
唯:「二人ともー! そろそろ行くよー!」
エマ:「はーい!」
クロエ:「……今行く」
戻ってきた二人を見る。
唯:「何話してたの?」
クロエ:「内緒」
唯:「キャピ!?」
エマ:「秘密です」
唯:「私だけ仲間外れ!?」
クロエ:「……家族なのに?」
唯:「ぐっ……!」
ガルド:「そろそろ深層に入るぞ!」
ここから先は、冒険者の姿がほとんどない。
暗い。静か。
そして――懐かしい。
唯:「……覚えてる」
胸の奥が、少しだけざわついた。
あの頃は、この洞窟から出られるなんて思っていなかった。
唯:「よし!」
私は暗闇へ一歩踏み出す。
唯:「元マイホームの奥まで行くぞー!」
エマ:「おー!」
クロエ:「……おー」
ガルド:「だから遠足じゃねぇんだぞ!」
七人の声を響かせながら。
私たちは、人の気配が消えていく深層へと足を踏み入れた。
第53話 洞窟に帰ったら、人だらけになってました。 完




