第52話 「家族会議をしたら、三人で暮らす家が欲しくなりました」
第52話 家族会議をしたら、三人で暮らす家が欲しくなりました
ザーザーザーザー――!!
唯:「…………」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
雨。ものすごい雨。
テントを叩く雨音が、うるさいなんてものじゃない。
バチバチバチバチ! と、誰かが外から無数の小石でも投げつけているみたいだ。
唯:「……キャピ」
キャンプ生活、六日目。
最初は楽しかった。
焚き火を囲んでご飯を食べたり。
星空を眺めたり。
クロエが私の血を気に入ったり。
エマとの関係がクロエにバレたり。
まあ、最後のは忘れよう。
とにかく、三人でのキャンプ生活はそれなりに楽しかった。
――晴れている間は。
唯:「エマぁ……そっち大丈夫?」
エマ:「こっちは大丈夫! 唯は?」
唯:「雨漏りはしてないけど……寝られない!」
声を張らないと隣のテントにすら届かない。
ちなみにクロエは――。
クロエ:「……靴、濡れた」
唯:「キャピ……」
テントの入口から少しだけ顔を出す。
外は泥。
右を見ても泥。
左を見ても泥。
冒険者たちが歩くたびに、ぐちゃっ、ぐちゃっと地面が沈んでいる。
しかも、このキャンプ場には私たち以外にも大量の冒険者がいる。
冒険者A:「おい! そっち水流れてきてるぞ!」
冒険者B:「荷物上げろ! 濡れるぞ!」
冒険者C:「誰かロープ持ってねぇか!?」
……地獄かな?
◇
翌朝。雨はようやく弱くなった。
私たちは一つのテントに集まっていた。
エマが《生活魔法》で服や身体を綺麗にしてくれたけど、疲れまでは消えない。
寝不足。
湿気。
泥。
狭い。
荷物も置けない。
着替えるにも気を遣う。
そして何より――。
唯:「もう無理!」
私は毛布の上に立ち上がった。
唯:「第一回! 緊急家族会議を開催します!」
エマ:「家族会議?」
クロエ:「……家族?」
クロエだけが、その言葉に引っかかった。
唯:「うん、家族会議!」
クロエ:「…………」
何か言いたそうな顔をしている。
でも、今はそれより大事な議題がある。
唯:「議題! このままキャンプ生活を続けるのか!」
エマ:「私はそろそろちゃんとしたベッドで寝たいかな……」
クロエ:「……私も」
唯:「私も!」
満場一致!
唯:「ということで、そろそろ家というか……拠点、欲しくない?」
エマ:「拠点?」
唯:「そう! 私たちの家!」
雨のたびにテントで震えなくていい。
荷物を置ける。
服も増やせる。
料理もできる。
お酒も置ける!
エマ:「最後のが一番の目的じゃないよね?」
唯:「キャピ?」
エマ:「目を逸らさない」
でも、考えれば考えるほど欲しくなってきた。
唯:「三人で帰れる場所があったら便利じゃん!」
エマ:「私は賛成」
唯:「じゃあ決まり!」
クロエ:「…………」
クロエが黙っている。
唯:「クロエ?」
クロエ:「……その拠点」
少しだけ迷ってから。
クロエ:「……私も住んでいいの?」
唯:「え?」
エマ:「え?」
今度は私とエマが顔を見合わせた。
唯:「当然でしょ?」
エマ:「当たり前だよ」
クロエ:「…………」
唯:「三人の拠点の話してたんだけど」
エマ:「クロエだけ別の場所に住ませる理由もないでしょ?」
クロエ:「……そう」
クロエが俯く。
銀色の髪に隠れて表情が見えなくなった。
クロエ:「……分かった」
それだけ。
だけど、クロエはまだ何かを考えているようだった。
どうして自分まで。
たまたま助けてもらっただけなのに。
そんな疑問が、まだ消えていないように見える。
まぁ~私としては単純だ。
三人で冒険してるんだから、三人で帰ればいい。
唯:「よーし! 家買うぞー!」
エマ:「おー」
クロエ:「……おー」
唯:「まず予算を確認します!」
財布を出す。三人で所持金を確認する。
唯:「…………」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
唯:「足りなくない?」
クロエ:「足りない」
エマ:「全然足りないね」
エマ:「三人で住める家なら……
今のノクスだと、金貨五百枚くらいは見ておいた方がいいと思う」
唯:「ごひゃく!?」
金貨一枚がおよそ一万円。
つまり――五百万円。
唯:「キャピィ!? 家、高い!!」
しかも今のノクスはゴールドラッシュ。
人が増えれば、当然住む場所も必要になる。
宿だけじゃなく、空いている家や土地まで値段が上がっているらしい。
唯:「どうしよう……」
クロエ:「唯がお酒を買わなければ」
唯:「家が買えるほど飲んでないよ!?」
エマ:「そこは否定できるんだ」
唯:「さすがにね!?」
困った。家は欲しい。
でも、お金がない。
こういうときは――。
唯:「詳しい人に聞こう!」
◇
ガルド:「家ぇ?」冒険者ギルドの食堂。
久しぶりにガルドたち四人とテーブルを囲んでいた。
ガルド。
リン。
ミレイ。
リューク。
三か月ぶりに会った四人は、以前より明らかに雰囲気が変わっていた。
装備も新しくなっている。
立ち振る舞いにも余裕がある。
唯:「三人で住める拠点が欲しいんだけど、お金が足りなくて」
ガルド:「三人?」
ガルドがクロエを見る。
唯:「クロエ。今の仲間!」
クロエ:「……クロエです」
ガルド:「おう。よろしくな」
クロエが小さく頭を下げる。
そういえば。
唯:「ガルドたち、なんか強くなってない?」
リン:「気づくの遅くない?」
唯:「キャピ?」
ミレイ:「私たちも、この三か月遊んでたわけじゃないからね」
リューク:「この前、全員Bランクに上がった」
唯:「Bランク!?」
私とエマが龍の里で修行していた三か月。
ガルドたちも依頼をこなし続けていたらしい。
Cランクだった四人は、ついにBランクへ。
ガルド:「まあ、今のノクスなら稼ぎやすいからな」
唯:「稼ぎやすい?」
ガルド:「お前、家を買う金が欲しいんだろ?」
唯:「うん」
ガルド:「だったら簡単じゃねぇか」
ガルドがニヤッと笑った。
ガルド:「今はゴールドラッシュなんだからよ」
唯:「…………」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
私たちは顔を見合わせた。
唯:「それが家と何の関係が?」
ガルド:「お前らなぁ……」
ガルドが額を押さえる。
そして。
ガルド:「ダンジョンだろ!!」
唯:「あっ」
そうだった。
この街がゴールドラッシュになった理由。
私が昔暮らしていた、あの洞窟。
アビスラとグランガがいなくなってから探索が進み、
魔石や希少素材が次々と持ち帰られている。
ガルド:「深いところまで潜れりゃ、普通の依頼を何十件もやるより稼げる可能性がある」
リン:「その分、危険だけどね」
ミレイ:「私たちも最近はあそこを中心に潜ってるよ」
リューク:「Bランクになって、行ける範囲も増えた」
唯:「なるほど……!」
家を買う。
そのためにダンジョンへ潜る。
しかも――。
唯:「そこ、私の元マイホームじゃん!」
ガルド:「またそれ言ってんのか」
クロエ:「……本当に住んでたの?」
唯:「住んでたよ!」
クロエ:「……ダンジョンに?」
唯:「コウモリだったからね!」
クロエ:「…………なるほど?」
納得してない顔だ。
ガルド:「だったらちょうどいい。俺たちも近いうちに潜る予定だったんだ」
唯:「え?」
ガルド:「一緒に行くか?」
ガルドが四人を指す。
次に、私たち三人。
ガルド:「俺、リン、ミレイ、リューク」
唯:「私、エマ、クロエ!」
四人と三人。
合わせて七人。
私はエマを見る。
エマ:「私はいいよ」
クロエを見る。
クロエ:「……行く」
唯:「よし!」
目的は決まった。
家を買う。そのために――。
唯:「七人でダンジョン攻略だぁぁぁ!」
ガルド:「お前、自分の元マイホームなんだろ?」
唯:「それとこれとは別!」
こうして《月夜の翼》初の本格的なダンジョン攻略が決まった。
行き先は――。
かつて私が、コウモリとして必死に生き延びた洞窟。
あの頃は知らなかった。
私がいなくなったあと。
あの場所が、とんでもないことになっているなんて――。
第52話 家族会議をしたら、三人で暮らす家が欲しくなりました 完




