閑話4 キャンプ生活を始めたら、二人が夫婦だと知りました
# 閑話4 キャンプ生活を始めたら、二人が夫婦だと知りました
Cランクになった。パーティーもできた。
名前は《月夜の翼》。
昨日は三人でキャンプまでした。
なんだか一気に冒険者っぽくなった気がする!
そして今日。
唯:「おかみさーん! 三人で泊まりたいんだけど!」
おかみ:「ああ、ごめんねぇ!」
唯:「……キャピ?」
嫌な予感。
おかみ:「ダンジョン調査の団体が来ちゃってね。部屋をまとめて押さえてるんだよ」
唯:「えっ」
おかみ:「しばらく空きそうにないんだ。ごめんねぇ」
昨日は宿を取り忘れた。
今日は忘れてない。
なのに泊まれない!
エマ:「別の宿、探してみよっか」
唯:「う、うん! 宿なんていっぱいあるし!」
◇
宿屋A:「満室です」
宿屋B:「悪いね。空いてないよ」
宿屋C:「三人? 一人でも無理だねぇ」
唯:「全滅したぁぁぁぁ!!」
ゴールドラッシュを舐めていた。
街には冒険者、商人、採掘師が溢れている。
当然、みんな寝る場所がいる。
結果――宿がない。
クロエ:「……今日も野宿?」
唯:「キャンプです!」
エマ:「言い方変えただけだよね?」
唯:「昨日楽しかったじゃん!」
クロエ:「……楽しかった」
唯:「ほら!」
エマ:「クロエ、完全に唯側になってない?」
でも、毎回テントを借りるのも面倒だ。
唯:「そうだ! ド・コンガ・コンガ!」
エマ:「?」
唯:「この前の追加報酬! あれでテント買おう!」
薬草採取のはずが倒してしまったBランク、《ド・コンガ・コンガ》。
その追加討伐報酬はかなり美味しかった。
◇
唯:「テント三つくださーい!」
クロエ:「……三つ?」
唯:「私とエマとクロエの分!」
クロエ:「……私のも?」
唯:「当たり前じゃん。私たち、すでに仲間じゃん」
クロエ:「…………」
クロエの口元が、ほんの少し緩んだ。
唯:「口元ゆるんでるよ?」
クロエ:「ゆるんでない」
言いながら、まだゆるんでいる。
分かりやすい。
テントを買っても報酬は残った。
クロエ:「私は返済する」
唯:「返済?」
クロエ:「服代。食事代。宿代。借りてる分」
唯:「まだ借金扱いしてたの!?」
クロエ:「借りは借り」
エマ:「急がなくてもいいんだよ?」
クロエ:「……それは嫌」
頑固だ。
借りたものは返す。
必要以上のものは買わない。
クロエはかなり堅実らしい。
対して私は――。
唯:「よし! お酒買ってこよ!」
クロエ:「…………」
唯:「なに、その目」
クロエ:「唯はお金たまらないタイプ」
唯:「失礼な!」
エマ:「私もちょっとそう思う」
唯:「エマまで!?」
そんなことない。
私だって貯めようと思えば貯められる。
たぶん。
財布を見る。
唯:「…………」
もう一度見る。
唯:「…………クロエ?」
クロエ:「貸さない」
唯:「まだ何も言ってない!」
クロエ:「顔に書いてある」
唯:「ちょっとだけ! 次の依頼で返すから!」
クロエ:「…………」
クロエがじーっと私を見る。
やがて、小さく息を吐いた。
クロエ:「……いいよ」
唯:「ほんと!?」
クロエ:「でも……代わりに」
クロエが視線を逸らす。
クロエ:「……唯の血」
唯:「血?」
クロエ:「……飲ませて」
少し間が空く。
クロエ:「また……ほしくなった//」
最後だけ小さな声だった。
唯:「いいよ?」
クロエ:「……いいの?」
唯:「この前も飲んだじゃん!」
クロエ:「……そっか」
エマ:「唯、お酒代を血で払うのはどうかと思う」
唯:「言い方ぁ!」
◇
その日の夜。
焚き火の前で、私はクロエに借りたお金で買ったお酒を飲んでいた。
唯:「くぅぅ……! これこれ!」
クロエ:「……私のお金」
唯:「返すって!」
クロエ:「なら、約束」
クロエが隣に座った。
クロエ:「……血」
唯:「はいはい」
髪をずらして首筋を出す。
クロエが顔を近づけ――。
ちくっ。
唯:「ん」
こく、こく、と血を飲む。
私はその横でお酒をちびちび。
(酒飲みながらヴァンパイアに血を吸われてる私って、なんなんだろう)
しばらくして、クロエが顔を上げた。
クロエ:「……おいしかった」
唯:「満足?」
クロエ:「……うん」
すごく満足そうだ。
クロエ:「おやすみ」
唯:「おやすみー」
クロエは自分のテントへ戻っていった。
残ったのは私とエマ。
焚き火がぱちぱちと鳴っている。
お酒も入っている。
なんだか甘えたくなってきた。
唯:「エマぁー」
エマ:「なに?」
こてん。
肩に頭を乗せる。
エマ:「もう。酔ってるでしょ」
唯:「ちょっとだけー」
エマ:「ダメだよ。クロエ起きちゃうし、それに外だよ……あっ」
ぎゅっ。
そのまま抱きつく。
唯:「エマ好きー」
エマ:「……もう」
そう言いながら、エマも離れない。
唯:「私もエマの血、飲ませて」
エマ:「え?」
唯:「だめ?」
エマ:「……少しだけだよ」
ほんの少しだけ血をもらう。
顔を上げると、目が合った。
そのまま――。
ちゅ。
エマ:「……んっ」
――ドクン。
エマ:「…………あれ?」
唯:「エマ?」
エマの頬が赤くなる。
エマ:「唯ぃ……」
唯:「な、なに?」
エマ:「好き……」
唯:「え?」
エマ:「……ちょっとだけ、魅了かかっちゃったかも」
唯:「ええええっ!?」
思わず飛び上がった。
唯:「消したよね!? 三か月かけて消したよね!?」
エマ:「大丈夫。前みたいな《魅了侵食》じゃないよ」
唯:「ほんと!?」
エマ:「うん。直接魔力を受けたから、少し影響が出ただけだと思う」
エマが自分の胸に手を当てる。
エマ:「明日、ちゃんと解呪するから大丈夫...んっ」
唯:「ならいいけど……」
なのにエマは私の手を握ったまま。
唯:「……エマ?」
エマ:「今は、もうちょっとだけ」
ちゅ。
唯:「んっ...あっ」
もう一度、軽く唇が触れた。
その夜は二人で寄り添って、手を繋いで、
愛を深めた夜になった...
◇
深夜。
クロエ:「…………」 パチクリ。
クロエ:「……ん~」
クロエが目を覚ました。
寝返りを打ったところで、耳が動く。
唯:「エマぁ…んっあ…」
エマ:「唯ぃ…す…き...」
クロエ:「…………?」
隣のテントから聞こえる。気になる。
クロエは身体を起こし、そっとテントの隙間から覗いた。
そこには――。
ぴったり寄り添う唯とエマ。
手を繋いで、額を寄せている。
ちゅ♡
クロエ:「…………!」
クロエは静かに隙間を閉じた。
数秒。
クロエ:「……な、なるほど!」
何かを理解した。
クロエの育った村は小さく、娯楽も少なかった。
そのぶん人と人との距離は近く、誰が誰を好きだとか、
色恋は、本人たちが幸せならそれでいい。
そんな考え方が、クロエは昔からそれなりに馴染みがあった。
クロエ:「……そういうことだったんだ」
だから驚きはしたものの、二人の関係そのものに抵抗はない。
むしろ――。
クロエ:「…うん…仲いいとは思ってた」
一人で納得すると、クロエは再び横になった。
◇
ちゅんちゅん。翌朝。
クロエ:「……唯」
唯:「んー?」
クロエ:「エマと、どういう関係?」
唯:「どういう?」
クロエ:「昨日……見えた」
唯:「…………」
昨日。お酒。血。
エマ。キス。
唯:「キャピィ!?」
エマ:「み、見てたの///!?」
クロエ:「……少し」
クロエ:「二人って…恋人なの?」
唯:「ああ、それなら」
エマ:「私たち――」
唯・エマ:「夫婦だよ」
クロエ:「…………」
パチクリ。
クロエ:「夫婦っ!?」
唯:「うん」
エマ:「龍の里で結婚したの」
クロエ:「……なっ…なるほど!!」
クロエは腕を組んで何度も頷く。
クロエ:「……都会は進んでる」
唯:「たぶん都会関係ないよ!?」
こうして、三人で始まったキャンプ生活。
クロエは私たちが夫婦だと知った。
クロエ「でも...他の冒険者も周りでキャンプしてるから...
夜はもっと声を抑えた方がいいよ...」
唯:「えっ////////」
エマ「//////////////」
クロエは常識人タイプであった。
閑話4 キャンプ生活を始めたら、二人が夫婦だと知りました 完




