第51話 パーティー名は《月夜の翼》!…誰かに調べられてる?
# 第51話 パーティー名は《月夜の翼》!…誰かに調べられてる?
フィーネ:「ところで――三人はパーティーということでよろしいですか?」
唯:「え?」
エマ:「パーティー?」
フォレスト・ドード三体に、Bランクのド・コンガ・コンガ。
三人で一緒に戦って、一緒に倒した。
だけど――。
(そういえば、パーティー組もうって話したっけ?)
私とエマが顔を見合わせる。
すると、クロエがおずおずと口を開いた。
クロエ:「……私も、パーティーでいいの?」
唯:「え?」
クロエ:「今日だけ一緒に依頼に行くのかと思ってた」
クロエが少しだけ視線を落とす。
唯:「普通に明日も三人で行くつもりだったけど?」
クロエの口元がほんの少し緩んだ。
クロエ:「……そうなの?」
唯:「そうなの!」
エマ:「私もそのつもりだったよ」
クロエ:「…………」
クロエが、ちょっとだけ胸を張る。
なんか嬉しそう。
フィーネ:「では、三人でパーティー登録しておきますね」
唯:「お願いしまーす!」
フィーネ:「パーティー名はありますか?」
唯:「パーティー名……!」
その言葉を聞いた瞬間。
私の中で、前世から封印されていた何かが目を覚ました。
唯:「……ある」
エマ:「え?」
唯:「《漆黒ノ終焉ニ舞イ降リシ月蝕ノ魔翼》!」
エマ:「…………」
クロエ:「…………」
唯:「どう!?」
エマ:「嫌。それは……」
唯:「なんで!?」
エマ:「長いし、恥ずかしいし……それ毎回名乗るの?」
唯:「かっこいいじゃん! 漆黒だよ!? 終焉だよ!? 月蝕だよ!? 魔翼だよ!?」
エマ:「全部入れればいいってものじゃないよ!」
唯:「キャピ!?」
フィーネ:「ちなみに、書類にも毎回記入していただきます」
唯:「…………」
エマ:「絶対嫌」
私の最高傑作が即死した。
すると、黙っていたクロエが小さく口を開く。
クロエ:「……《月夜の翼》」
唯:「え?」
クロエ:「《月夜の翼》なんて、どう?」
エマ:「あ、それいい!」
唯:「月夜の翼……」
月夜と翼。
私には翼がある。
エマは《月龍巫女》。
クロエも《ヴァンパイア(月系統)》。
それに――普通にかっこいい!
唯:「いいじゃん! それにしよう!」
エマ:「私も賛成!」
クロエ:「……ほんと?」
唯:「もちろん!」
クロエ:「……どやぁ」
唯:「また口で『どやぁ』って言った!」
クロエ:「言ってない」
唯:「言ったよ!?」
フィーネ:「では、パーティー《月夜の翼》で登録しますね」
こうして。
いつの間にか三人で行動していた私たちは、正式にパーティーになった。
◇
フィーネ:「それと、フォレスト・ドード三体とド・コンガ・コンガには追加の討伐報酬が出ます」
唯:「お金!」
エマ:「そこだけ反応早いよ」
フィーネ:「そして、唯さん、エマさん、クロエさん。三人にはギルド長とのランクアップ面談があります」
唯:「ランクアップ?」
フィーネ:「現在は三人ともFランクですが、Bランクを討伐できるとなると――
飛び級もありえます!」
クロエ:「……飛び級」
唯:「おおっ!」
フィーネ:「ただ……」
フィーネが遠い目をした。
フィーネ:「うちのギルド長、ちょーっとばかし偏屈ジジィなので」
唯:「言っちゃった!」
フィーネ:「……失礼しました」
コホン。
フィーネ:「うるさいのです」
唯:「訂正できてないよ!?」
フィーネ:「冒険者ランクは戦闘能力だけでは決まりません。
依頼実績、判断力、協調性、それから人となりも審査されます」
フィーネ:「面談は明日です。またギルドへ来てください」
唯:「明日もギルドだー!」
でも今日は終わり!
唯:「よーし! 宿探そー!」
エマ:「えっ! 唯!」
唯:「ん?」
エマ:「今朝、『今日の宿、押さえておいてね』って話しなかったっけ?」
唯:「…………」
エマ:「唯?」
唯:「……えっ?」
◇
宿屋:「ごめんねぇ。今日は満室だよ」
唯:「…………」
二軒目。
宿屋:「満室です」
三軒目。
宿屋:「今日は無理だねぇ」
唯:「キャピ……」
ゴールドラッシュ、恐るべし。
エマ:「だから朝に言ったのに……」
クロエ:「……野宿?」
唯:「違う!」
私は人差し指を夕暮れに立てた。
唯:「キャンプだ!」
クロエ:「……キャンプ」
唯:「三人でキャンプ!」
クロエ:「……楽しそう」
エマ:「なんで二人とも嬉しそうなの……」
その夜は、外壁近くに設けられた冒険者用のキャンプ場へ。
テントを借りて、焚き火を囲む。
肉を焼いて。パンを炙って。
くだらない話をしながら三人で食べる。
クロエ:「……美味しい」
唯:「外で食べると三割増し!」
エマ:「唯、お酒飲みすぎないでよ?」
唯:「一杯だけ!」
エマ:「その言葉、信用できない」
クロエ:「……私もそう思う」
唯:「クロエまで!?」
初めての三人キャンプは――。
普通に楽しかった。
◇
翌朝。私たちは再び冒険者ギルドへやってきた。
フィーネに案内され、二階のギルド長室へ。
バルガス:「来たか」
唯:「あ、ギルド長!」
そこにいたのは、以前にも会ったバルガスさん。
相変わらず六十歳くらいとは思えない筋肉である。
バルガス:「話は聞いてるぞ」
机の上の報告書を持ち上げる。
バルガス:「お前ら、薬草採取に行ったんだよな?」
唯:「はい!」
バルガス:「で、なんでBランクをぶっ倒して帰ってくる?」
唯:「……向こうから来たので」
バルガス:「そういう問題じゃねぇ」
唯:「キャピ……」
バルガスさんの視線が、私からクロエへ移った。
バルガス:「で。お前が昨日登録したクロエか」
クロエ:「……はい」
バルガス:「登録初日にBランク討伐とは、ずいぶん派手な新人だな」
クロエ:「……唯とエマがいたから」
バルガス:「ほう」
バルガスさんの目が少しだけ細くなる。
バルガス:「まあ、座れ」
三人:「はい!」
面談が始まった。
◇
何をどうやって倒したのか。
フォレスト・ドード三体を相手に、それぞれ何をしたのか。
ド・コンガ・コンガをどう倒したのか。
仲間が負傷したらどうするか。
依頼の続行が危険だと判断したらどうするか。
依頼と人命、どちらを優先するか。
思ったよりちゃんとした面談だった。
エマは落ち着いて答える。
クロエも言葉は少ないけど、聞かれたことには真面目に答える。
私は――。
バルガス:「お前はもう少し考えてから喋れ」
唯:「はい……」
なぜか私だけ何回も怒られた。
そして――。
バルガス:「結論だ」
机の上に、三枚の冒険者カードが置かれる。
バルガス:「唯。エマ。クロエ」
三人で息を呑む。
バルガス:「三人とも、Cランクへの昇格を認める」
唯:「……え?」
クロエ:「……C?」
エマ:「一気にですか?」
バルガス:「戦闘能力だけなら、それ以上でもおかしくねぇ。だが、お前らには実績も経験も足りん」
バルガスさんが腕を組む。
バルガス:「だからCだ。しばらくそこで揉まれてこい」
唯:「やったぁぁぁ!」
クロエ:「……やった」
クロエがまた少し胸を張った。
絶対嬉しいやつだ。
バルガス:「それと、Cランクになればパーティーでギルド管理下のダンジョン攻略も許可される」
唯:「ダンジョン!?」
クロエ:「……行きたい」
エマ:「二人とも目が輝いてるよ」
バルガス:「ただし!」
バルガスさんの太い指が私たちへ向く。
バルガス:「勝手に深層まで突っ込むなよ!」
唯:「大丈夫! 深層は私のマイホームだから!」
バルガス:「…………」
唯:「…………」
バルガス:「こいつ、何を言ってるんだ?」
唯:「キャピ!?」
エマ:「あー……説明すると長くなるので」
クロエ:「……マイホーム?」
唯:「昔住んでたの!」
バルガス:「余計に意味が分からん!」
◇
その日の夕方。
ノクス支部から冒険者ギルド本部へ、一通の報告書が送られた。
新規パーティー――《月夜の翼》。
構成人数、三名。
唯。エマ。クロエ。
Fランク状態でCランク相当のフォレスト・ドード三体、
およびBランク相当のド・コンガ・コンガ一体を討伐。
三名とも短期間で著しい成長を確認。
面談の結果、Cランクへの飛び級を承認。
今後の成長が見込まれる、注目パーティー。
それは特別な警告でも、危険人物の報告でもない。
将来有望な新人冒険者を記録するための――ごく普通の報告書だった。
この時点では。
◇
――三日後。
王都。冒険者ギルド本部。
各支部から届いた報告書を、一人の女性が手際よく確認していた。
名前はイリス。
冒険者ギルド本部で、斥候・調査を担当する女性。
そして――。
もう一つの顔を持つ。
王国暗部所属。
イリス:「次……次……これは普通。こっちも――」
書類をめくっていた手が止まる。
イリス:「…………ん?」
ノクス支部。新規パーティー。
FランクからCランクへ飛び級。
Bランク討伐。
短期間での著しい成長。
そして、その構成員。
イリス:「……唯?」
もう一度確認する。
唯。エマ。クロエ。
イリス:「へぇ……」
以前ノクスの調査報告に上がってた二人の名前。
そこに、知らない少女が一人増えている。
しかも報告内容は、王国暗部が探している条件に引っかかっていた。
急激に力をつけた者。正体の分からない新参者。
短期間で明らかな変化を見せた者。
イリスが報告書を持ち上げる。
イリス:「《月夜の翼》、か」
少しだけ楽しそうに笑った。
そして、部屋の隅に控えている人物へ顔を向ける。
イリス:「調査に行こうか! ネロちゃん」
ネロ:「ちゃん呼びはお辞めください」
イリス:「えー、いいじゃん。ネロちゃん」
ネロ:「お辞めください」
ネロは小さく息を吐くと、イリスから報告書を受け取った。
そこに並んだ三人の名前へ目を通す。
ネロ:「……それでは、調査に行きましょう。途中で魚の串焼きでも買いましょう。」
イリス:「うん!いいよ。」
私たちはまだ知らない。
Cランクへの昇格を喜んでいた、その裏側で――。
**《月夜の翼》という名前が、冒険者ギルド本部と王国の暗部にまで届いていたことを。**
# 第51話 パーティー名は《月夜の翼》! ……誰かに調べられてる? 完




