第45話 「三か月ぶりに帰宅、ゴールドラッシュがさらに加速!」
# 第45話 三か月ぶりに帰宅、ゴールドラッシュがさらに加速!
龍の里を飛び立って、しばらく。
眼下の景色が、少しずつ見覚えのあるものに変わってきた。
エマ:「唯! 見えてきたよ!」
唯:「キャピ!」
森の向こうに広がる外壁。
三か月ぶりの――ノストだ。
たった三か月なのに、ものすごく懐かしい。
このまま街まで飛んで――。
エマ:「あ、唯。待って」
唯:「キャピ?」
エマ:「その姿で街に近づいたら、大騒ぎにならない?」
唯:「…………」
黒と銀の鱗。
大きな翼に、長い尻尾。
どう見ても龍です。
唯:「……キャピ」
危なかった。
街の上空に突然龍が現れたら、普通に討伐騒ぎになる。
ノストから少し離れた森に降り、エマが背中から降りるのを待って《龍化》を解除した。
唯:「ぷはっ! 喋れる!」
エマ:「やっぱり龍の姿だと、キャピしか言えないんだね」
唯:「進化したのに! なんで!?」
エマ:「コウモリだった頃みたいで、私は好きだけど」
唯:「……じゃあいいか」
エマ:「いいんだ」
身なりを整え、二人で街道へ出る。
しばらく歩いて――。
唯:「……ん?」
一台の馬車とすれ違った。
その後ろから、もう一台。
さらに冒険者らしい一団に、大荷物を抱えた商人。
また馬車。
唯:「……人、多くない?」
エマ:「多いね」
三か月前。
龍の里へ向かう頃には、すでにノストのゴールドラッシュは始まっていた。
私が暮らしていた洞窟。
そこへ一攫千金を狙う冒険者たちが押し寄せ、街は急に賑やかになっていた。
だから、人が多いのは分かる。
分かるんだけど――。
唯:「前より増えてない?」
エマ:「……かなり増えてると思う」
嫌な予感がする。
◇
ノストの門をくぐる。
唯:「…………」
エマ:「…………」
人。
人。
人!
唯:「増えすぎじゃない!?」
三か月前の比じゃない。
大通りを冒険者が行き交い、鉱石や魔物素材を積んだ荷車が次々と通り過ぎる。
商人:「洞窟産の鉱石だ! 今日入ったばかりだぞ!」
冒険者:「ポーション五本!」
商人:「毎度あり!」
剣を背負った冒険者。
大盾を担いだ大男。
ローブ姿の魔術師。
明らかに新人っぽい若者までいる。
そこら中で金貨と銀貨が飛び交っていた。
唯:「……まだゴールドラッシュやってる」
エマ:「それどころか、前よりすごくなってるね」
唯:「三か月だよ?」
エマ:「三か月だね」
唯:「普通、そろそろ落ち着かない?」
終わるどころか、さらに加速してる。
いったい何があったの?
唯:「……ギルド行こっか」
エマ:「うん」
こういう時は、聞くのが一番早い。
◇
冒険者ギルドの扉を開ける。
唯:「うわ……」
こっちもすごい。
受付には列。
依頼板の前にも人だかり。
洞窟へ向かうらしい冒険者たちが、ひっきりなしに出入りしている。
その奥に、見覚えのある受付嬢を見つけた。
唯:「フィーネ!」
フィーネ:「はい、次の方――」
顔を上げたフィーネの手が止まる。
フィーネ:「……あれ? 唯さん?」
唯:「ただいま!」
エマ:「お久しぶりです」
フィーネ:「エマさんも。お久しぶりです。……あ、唯さん、ちょうどよかったです」
唯:「ん?」
フィーネ:「もう少し帰ってくるのが遅かったら、冒険者資格が失効するところでしたよ」
唯:「…………え?」
フィーネ:「新人冒険者が三か月も依頼を受けないなんて、普通ありませんから」
唯:「キャピ!?」
知らなかった!
龍の里で熊と戦ってる場合じゃなかった!
唯:「そんなルール聞いてないよ!?」
フィーネ:「登録時に説明しましたよ?」
唯:「…………」
そういえば。
冒険者登録した日に、いろいろ説明されたような。
フィーネ:「聞いてませんでしたね?」
唯:「き、聞いてたよ!」
フィーネ:「目を逸らさないでください」
唯:「キャピ……」
この受付嬢、鋭い。
フィーネ:「まあ、失効前なので問題ありません。今後は気をつけてくださいね」
唯:「はーい……」
エマ:「フィーネさん。この人の多さって、やっぱり洞窟ですか?」
フィーネ:「はい。三か月前より、さらにすごいことになってます」
フィーネによれば、この三か月で洞窟の探索はさらに進んだらしい。
以前は危険すぎて進めなかった区域まで冒険者が入れるようになり、
新しい鉱脈や希少な魔物素材が次々と見つかった。
その噂を聞いた冒険者が集まり、さらに探索が進む。
そこで新しい発見が出て、また人が集まる。
完全に止まらなくなっていた。
フィーネ:「今では周辺だけじゃなく、かなり遠くから来る冒険者もいますよ」
唯:「そんなに……」
エマ:「三か月でずいぶん変わりましたね」
唯:「でも、なんで急に奥まで行けるようになったの?」
フィーネ:「やっぱり、あの二体がいなくなった影響が大きいみたいです」
唯:「二体……」
アビスラ。
グランガ。
洞窟の奥に君臨していた、二体の主。
あいつらがいた頃は、その先へ進もうとするだけで命懸けだった。
でも、今はいない。
だから冒険者たちは、以前よりずっと深い場所まで進める。
そして。
二体がいなくなった理由は――。
唯:「…………キャピ」
エマ:「唯?」
唯:「なんでもない」
やっぱり私が原因の一つだよね?
私は生き残るのに必死だっただけなんだけど!
◇
ガルド:「……エマ?」
聞き覚えのある声に振り返る。
エマ:「ガルドさん!」
唯:「ガルド!」
ガルド。
その後ろにはリン、ミレイ、リュークもいる。
ガルド:「やっぱりお前らか! 帰ってきたんだな」
エマ:「はい。ただいま戻りました」
ガルド:「三か月か。ずいぶん長い治療だったな」
エマ:「はい。でも、ちゃんと治りました」
ガルド:「そうか。ならよかった」
ガルドが安心したように頷く。
唯:「あと、熊にも勝ったよ!」
ガルド:「……治療じゃなかったのか?」
唯:「修行もした!」
ガルド:「お前は何しに龍族の里へ行ったんだ」
唯:「いろいろ!」
説明すると長い。
リン:「エマ、元気そうじゃん!」
ミレイ:「顔色もいいし、本当に大丈夫そうね」
リューク:「龍族の里かぁ。一度くらい見てみたいな」
みんな変わってない。
そのやり取りを見ているだけで、なんだか安心する。
エマ:「ガルドさん。それで……パーティーのことなんですけど」
ガルド:「ああ」
エマが私の隣へ来る。
エマ:「私、これからは唯と一緒に冒険したいです」
龍の里へ向かう時。
エマはガルドたちとの活動を、一度休止する形にしていた。
でも、今は違う。
エマ自身が選んで、私の隣にいる。
ガルドは少しだけ黙ったあと、笑った。
ガルド:「分かってたよ」
エマ:「え?」
ガルド:「龍王について行くって決めた時点で、なんとなくな」
リンたちも頷く。
ガルド:「気にすんな。パーティーを抜けたって、縁が切れるわけじゃねえ」
エマ:「……ありがとうございます」
リン:「また一緒に依頼すればいいだけだしね」
唯:「そうそう! 今度みんなでやろうよ!」
ガルド:「おう」
エマが嬉しそうに笑った。
よかった。
私と一緒にいることを選んだからって、
エマが大切な人たちを失う必要なんてない。
私も、この人たちとはまた冒険したい。
ガルド:「しかし、唯」
唯:「ん?」
ガルドが私を上から下まで見る。
ガルド:「お前、本当に雰囲気変わったな」
唯:「分かる?」
ガルド:「ああ。前よりずっと強そうだ」
唯:「ふっふっふ」
分かります?
私、三か月前とは違うんですよ。
唯:「なんたって熊に勝ったからね!」
ガルド:「だから何の熊だよ」
唯:「強い熊!」
ガルド:「分からん」
いつか説明しよう。
たぶん。
ガルド:「……まあ、強くなったならちょうどいいかもしれんな」
唯:「ちょうどいい?」
さっきまで笑っていたガルドの表情が、少しだけ真面目になる。
ガルド:「最近、この辺で妙な噂が出てる」
エマ:「妙な噂?」
ガルド:「数日前、洞窟から戻ってきた冒険者が襲われた」
唯:「魔物に?」
ガルド:「いや。そいつも最初はそう思ったらしい」
ガルドが声を少し落とす。
ガルド:「怪我自体は大したことなかった。だが、妙に血を失ってた」
唯:「……血?」
ガルド:「首筋には噛まれたような傷もあったそうだ」
唯:「…………」
血。
首筋。
噛み傷。
なんか。
ものすごーく聞き覚えのある単語が並び始めた。
エマ:「襲った相手は見てないんですか?」
ガルド:「見てる。若い女だったらしい」
唯:「若い女……」
ガルド:「かなり衰弱してたように見えたそうだ。襲った側なのにな」
衰弱していた?
それは、ちょっと変だ。
ガルド:「殺すつもりはなかったのか、少し血を吸ったところで逃げていったらしい」
エマ:「それって……」
ガルド:「ああ。今、冒険者の間じゃ一つの噂が広がってる」
ガルドが私を見る。
ガルド:「この辺りに――吸血鬼が出た、ってな」
唯:「…………」
ガルド:「…………」
エマ:「…………」
沈黙。そして。
ガルドの視線が、ゆっくり私へ向いた。
私もガルドを見る。
ガルドが私の牙を見る。
私はそっと口元を隠した。
ガルド:「……まさかな」
唯:「わ、私じゃないよーーー!!」
三か月ぶりに帰ってきたノストでは。
ゴールドラッシュがさらに加速して――。
そのうえ、身に覚えのない吸血鬼事件まで起きていました。
第45話 三か月ぶりに帰宅、ゴールドラッシュがさらに加速! 完




