第40話 「修行したら、あの熊にリベンジです!」
# 第40話 修行したら、あの熊にリベンジです!
来る日も。来る日も。
私たちの修行は続いた。
◇
一か月目。
ガリア:「遅い!」
唯:「キャピィィィ!?」
吹っ飛ばされる。立ち上がる。
また挑む。
《魔力制御》
脚から翼へ魔力を流しながら《隠密》。
回り込んで――拳!
ガリア:「見え見えじゃ!」
唯:「なんでぇぇぇ!?」
また吹っ飛ばされた。
午前はガリアとの組手。
午後は森で、修行兼狩り番。
そして時々、夜も狩る。
月明かりの森には、昼にはいない魔物がいた。
そいつらを倒して血を吸うと――。
――――――――――
《月属性を含む血液を摂取しました》
《月因子が上昇しました》
――――――――――
唯:「おお!」
狩る。吸血する。
またガリアに挑む。
そんな毎日が続いた。
◇
二か月目。
唯:「今度こそ!」
拳は囮。身体を沈めて足払い!
ガリア:「甘い!」
唯:「キャピッ!?」
逆に足を取られ、地面を転がる。
唯:「今の惜しかったでしょ!」
ガリア:「全然じゃ!」
唯:「絶対ちょっと惜しかった!」
でも、最初とは違う。
三か月前なら何をされたのかすら分からなかった。
今は見える。避けられる。
追いかけられる。
《隠密》しながら《振動感知》。
飛びながら《弱点感知》。
複数の力を同時に使う。
ガリアの言った「全部を繋げろ」が、少しずつ身体に染み込んでいった。
唯:「一発くらい当たってよ!」
ガリア:「ガハハハ! 三か月程度で龍王に一発入れられると思うな!」
唯:「まだ二か月だから!」
ガリア:「なら、なおさらじゃ!」
結局、一発も当たらない。
◇
そして――三か月目。
初夏には青一色だった森に、少しずつ赤や黄色が混じり始めていた。
そんなある日。
唯:「そういえば……最近、自分を見てないな」
洞窟ではレベルが上がるたびに見ていた《鑑定》。
でも最近は、修行と狩りが日常になりすぎて忘れていた。
唯:「久しぶりに――《鑑定》」
――――――――――
《唯》
種族:《ヴァンパイアドラ》
個体Lv:40/40《MAX》
能力:
《鑑定》《吸血》《隠密》
《振動感知》《弱点感知》
《魔力制御》《人化》《突進》
《毒耐性》ほか
特殊因子:
《月因子:12%》
《龍因子:3%》
《夢魔因子:5%》
状態:正常
――――――――――
唯:「…………レベル四十?」
しかもMAX。
唯:「いつの間に!?」
まあ、毎日のように魔物を狩ってるんだから、そりゃ上がるか。
《月因子》は十二パーセント。
夜行性や月属性の魔物を狩って吸血してきた成果だろう。
龍因子も一から三へ。
こっちは龍の里で暮らし、毎日ガリアの魔力に触れている影響なのかな?
そして――。
唯:「夢魔は……なんで五?」
猪で上がった時点でもう分からない。
唯:「私の身体、順調に何か混ざってない?」
まあ《正常》って書いてあるし。
正常ならいいか!
ガリア:「何を一人でブツブツ言っとる?」
唯:「キャピ!?」
いつの間にか真後ろにガリア。
ガリア:「しかし、強くなったの!」
唯:「お?」
ガリア:「三か月前のお前なら、今のお前に一方的に叩き潰されるじゃろうな!」
唯:「おおお……!」
ガリアから見ても、そこまで違うんだ。
ガリア:「まあ、ワシには一発も入っとらんがな!」
唯:「それ言うと思った!」
三か月。ほぼ毎日挑んだ。
それでも、本当に一発も当てられていない。
ガリア:「じゃが――そろそろいい頃か」
唯:「何が?」
ガリア:「三か月前の宿題じゃ」
森へ――
ドン。
地面が揺れた。
唯:「…………」
――ドン。
――ドン。
この重い振動。
知ってる。
忘れるわけがない。
木々の奥から低い唸り声。
ゴル・グリズリ:「グルルルル……」
巨大な熊が姿を現した。
《鑑定》
――――――――――
《ゴル・グリズリ》
種族:魔獣
Lv:38
危険度:B+
能力:《剛力》《硬化》《嗅覚強化》
状態:警戒
――――――――――
あの日の熊だ。
月雫草を採りに来て、何もできずにボコボコにされた相手。
身体が覚えている。
正直――怖い。
ガリア:「どうする? やめてもいいぞ」
唯:「…………」
大きい。強い。
でも。私は翼を広げた。
唯:「やる」
ガリア:「ほう?」
唯:「三か月前の借り、返す」
ガリア:「ガハハハ! よく言った!」
ガリアが後ろへ下がる。
ガリア:「ワシは手を出さん!」
ゴル・グリズリ:「グオオオオオ!!」
熊が地面を蹴った。
速い。
でも――見える!
《振動感知》
足音と重心を拾う。
《魔力制御》
脚から翼へ。
斜め上へ飛びながら《隠密》。
熊の視線が私を見失う。
同時に《弱点感知》。
脇腹!
見つけた瞬間には、もう動いている。
急降下。
拳!
ドゴッ!!
ゴル・グリズリ:「グオッ!?」
効いた。
でも浅い!
振り向きざまの爪が頬をかすめる。
唯:「っ!」
血が流れる。
やっぱり強い。
怖い。
だけど――頭は動いてる。
熊が腕を振り上げる。
逃げない。
引きつける。
もっと。
――今!
《隠密》
一瞬だけ意識から外れる。
半歩横へ。
ドゴォン!
爪が地面を砕いた。
懐が空く。
《突進》
踏み込む。
《魔力制御》
脚。
腰。
肩。
拳。
全部を繋ぐ。
《弱点感知》
同じ脇腹!
唯:「いっけぇぇぇ!!」
ドゴォォン!!
ゴル・グリズリ:「――グォッ!」
巨体が傾く。
まだ!翼を広げて上空へ。
反転。
拳へ魔力を集め、落下速度まで乗せる。
唯:「これでぇぇぇ!!」
ドンッ!!
頭部へ拳を叩き込んだ。
巨大な身体が地面へ沈む。
数秒。動かない。
――――――――――
《ゴル・グリズリを討伐しました》
――――――――――
唯:「…………勝った」
三か月前。
何もできずに負けた相手に。
今度は、自分一人で。
私は倒れたゴル・グリズリの首元へしゃがみ込む。
唯:「……じゃあ、いただきます」
牙を突き立てる。
ごくっ。
濃い血が喉を通り、身体の奥へ染み込んでいく。
――ポーン。
――――――――――
《ゴル・グリズリの血液を摂取しました》
《血液情報を解析します》
《《剛力》《硬化》の適合を確認》
《二つの性質を統合します》
《複合能力《剛体》を獲得しました》
《夢魔因子:5%→6%》
――――――――――
唯:「……おお!」
身体の奥に、ずしっとした力が馴染んでいく。
腕に力を入れると、今までより明らかに力が出る。
それだけじゃない。
皮膚まで少し頑丈になったような――。
唯:「《剛力》と《硬化》が一つになったんだ」
これは当たりだ。
攻撃と防御を一つで補える。
…………でも。
唯:「また夢魔因子?」
猪。熊。
…………夢魔って何だっけ?
唯:「私の知ってる夢魔と、この世界の夢魔、絶対なんか違うよね?」
ガリア:「知らん!」
唯:「聞いてない!」
ガリア:「ガハハハハハ!」
後ろから豪快な笑い声。
ガリア:「三か月前のお前は、強いものをたくさん持っていただけじゃ」
あの日と同じ言葉。
でも――。
ガリア:「今は、それをちゃんと自分の力にしとる」
ガリアが拳を突き出した。
ガリア:「お前自身が強くなったんじゃ、唯」
唯:「…………」
レベルがMAXになったことより。
熊に勝ったことより。
その一言が、一番嬉しかった。
唯:「……へへ」
ガリア:「まあ、ワシには一発も――」
唯:「それはもういいって!!」
第40話 修行したら、あの熊にリベンジです! 完
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