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『転生したらコウモリでした。キャピしか言えないけど異世界で生きます。』  作者: AsaHiruYugataYoru
第2章 キャピと始める冒険者生活―私たちの帰る場所

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第38話 「龍王に弟子入りしたら、狩りまで仕事になりました。」

# 第38話 龍王に弟子入りしたら、狩りまで仕事になりました


 龍王ガリアに弟子入りした翌日。

 私は龍の里の外れにある広場で、ガリアと向かい合っていた。


ガリア:「まずはワシに一発入れてみろ!」

唯:「一発でいいの?」


ガリア:「おう! 拳でも蹴りでも、好きに来い!」


 ガリアは人の姿。

 武器なし。防具なし。

 というか、構えてすらいない。


 相手は龍王だけど、倒せと言われてるわけじゃない。


 一発。

 一発当てるだけなら――。


唯:「じゃあ、遠慮なく!」

 地面を蹴る。


《魔力制御》!

 脚に魔力を集中。


 一気に間合いを詰め、ガリアの腹へ拳を――。

 ひょい。


唯:「キャピ?」

 いない。

 いや、横!?


ガリア:「遅い!」

唯:「まだぁ!」


 振り向いて蹴る。

 避けられる。


 拳。

 避けられる。


 なら――上!

 翼を広げて飛び上がる。


《隠密》!

 気配を消して背後へ回り――。


ガリア:「そこじゃな」

唯:「なんで!?」


 振り向きもしないまま、ひょいっと避けられた。

 拳は空振り。

 勢い余って地面に着地する。


ガリア:「昨日も言ったじゃろ。全部バラバラじゃ」

唯:「……分かってるけど、どうすればいいの?」


ガリア:「まず、その目じゃ」

唯:「目?」


ガリア:「腹を殴る前には腹を見る。蹴る前には脚へ目が動く。お前、狙う場所を教えすぎじゃ」

唯:「…………」


 そんなところまで見てるの?


ガリア:「《弱点感知》だったか? 便利な力なんじゃろうが、お前は弱点を探して、見つけて、それから攻撃しとる」

 ……図星。


 洞窟ではずっとそうだった。

 弱点が分かる。

 だから、そこを狙う。


ガリア:「便利な力を使うのはいい。じゃが、便利な力に戦い方を決めさせるな」

 ガリアが私の翼を指差す。


ガリア:「飛ぶときも魔力が漏れすぎじゃ。『今から飛びます!』と叫んどるようなもんじゃぞ」

唯:「そんなに!?」


ガリア:「《隠密》も同じじゃ。隠れる。近づく。隠密を切る。殴る」

 ガリアが指を一本ずつ立てていく。


ガリア:「飛ぶ。隠れる。探す。殴る。一個ずつ使うな」

 そして、最後の指を握った。

ガリア:「繋げろ」


 ……繋げる。

 私はもう一度構える。


 今度は腹を見ない。

 ガリアの顔を見たまま、脚へ魔力を流す。


 踏み込む。

 途中で《隠密》。


 完全に消えようとしない。

 走りながら気配を薄くする。


 脚から翼へ魔力を繋ぎ、そのままガリアの横へ。


 拳!

 ガリアが半歩下がる。

 でも、これは囮。


 身体を沈めて――足払い!


ガリア:「ほう!」

 ガリアが片脚を上げた。


 避けられた。

 また当たってない。


 だけど。


唯:「今、反応した!」

ガリア:「ガハハハ! 少しはマシになったの!」


 初めてガリアが、私の攻撃に合わせて動いた。

 なんか――分かったかも。


 スキルを順番に使うんじゃない。

 全部まとめて、私の戦い方にする。


ガリア:「よし! では実戦じゃ!」

唯:「もう!?」


ガリア:「待っとれ!」

 ガリアが森へ消えた。

 ……嫌な予感しかしない。


 数分後。

 ドドドドドドドドッ!!

 地面が揺れ始めた。


唯:「……キャピ?」

ガリア:「連れてきたぞぉぉぉ!」


 森からガリアが飛び出してくる。

 そして、その後ろから――。


ワイルドン・ボア:「ブヒィィィィィ!!」

 巨大な猪が猛然と追いかけてきた。


唯:「めっちゃ怒ってる!」

 即、《鑑定》。

―――――――――

《ワイルドン・ボア》

種族:魔獣

Lv:24

危険度:C

能力:《突進》《嗅覚強化》

状態:激怒

――――――――――


唯:「なんで激怒してるの!?」

ガリア:「寝てるところを捕まえてきた!」

唯:「そりゃ怒るよ!!」


ガリア:「昨日の《熊》は、今のお前にはまだ早い!」

 ガリアが私の横を通り過ぎる。


ガリア:「まずはこいつを一人で倒してみろ!」

唯:「修行の段階が雑すぎる!」


ワイルドン・ボア:「ブヒィィィィ!!」

 来た!真正面からの突進。


《振動感知》

 地面から動きを拾う。


《弱点感知》

 首の下。


 でも――そこを見ない。

 ボアの顔を見たまま横へ走る。


《隠密》

 同時に翼へ魔力。

 直前で飛ぶ!

 巨体が真下を通り過ぎた。


 そのまま旋回。

 着地と同時に地面を蹴る。


 止まらない。

 切らない。


 全部、繋げる!

 ボアが振り返った。


 もう一度、突進。

 ギリギリまで引きつける。


唯:「今!」

 横へ跳ぶ。

 翼で身体を捻る。


 すれ違いざま――首の下へ拳!

 ドゴッ!


ワイルドン・ボア:「ブヒッ!?」

唯:「入った!」


 でも、倒れない。

 巨体が強引に方向転換する。


 速い!

 角が迫る。


唯:「うわっ!」

 転がって回避。


 角が髪をかすめた。

 怖っ!


 でも。昨日とは違う。

 見える。動ける。

 ちゃんと――戦えてる!


 もう一度。振動。

 魔力。隠密。


 飛行。弱点。

 一個ずつじゃない。


 全部、私の身体で――!

 ボアが突っ込んできた瞬間、真上へ跳ぶ。


 翼を畳む。

 落下。拳へ魔力を集める。


唯:「これでぇぇぇ!!」

 首の下へ――叩き込む!


 ドゴォッ!!


 ボアの巨体が地面へ沈んだ。

 土煙が舞う。


 数秒。

 動かない。


――――――――――

《ワイルドン・ボアを討伐しました》

《経験値を獲得しました》

《個体Lv:2→5》

《スキル《突進》を獲得しました》

――――――――――

唯:「……レベル、三つ上がった」

 昨日は、何もできずに負けた。


 今日は教えてもらったことを使って、自分で倒した。

 その事実が、じわじわ胸に広がってくる。


唯:「勝ったぁぁぁ!」

ガリア:「ガハハハハ! まだまだ荒いが、昨日よりはずっとマシじゃ!」


唯:「そこは素直に褒めて!」

 でも、嬉しい。


 ちゃんと戦って。

 ちゃんと勝てた。

 私は倒れたボアの横へしゃがむ。


ガリア:「何をするんじゃ?」

唯:「いただきます」


 牙を首筋へ突き立てる。

 ごくっ。ごくっ。


 温かい血が喉を通り、身体の奥へ染み込んでいく。


――――――――――

《ワイルドン・ボアの血液を摂取しました》

《夢魔因子:2%→3%》

――――――――――

唯:「……夢魔?」

 猪なのに?なんで?


 ……まあ。

 上がったなら、いっか。


ガリア:「ほう……血を吸うのか」

唯:「私、ヴァンパイアだからね」


 牙を抜く。

 するとガリアが、倒れたボアと私を交互に見た。


ガリア:「戦えて、肉も持って帰れて、血抜きまでできる」

唯:「……なんか嫌な予感」


ガリア:「便利じゃな!」

唯:「やっぱり!」


ガリア:「決めた! 今日からお前は修行兼、狩り番じゃ!」

唯:「弟子入りしたら仕事増えたんだけど!?」


ガリア:「修行になる! 里の食料も増える! お前も強くなる! 一石三鳥じゃ!」

唯:「絶対いま思いついたでしょ!」


ガリア:「ガハハハハ!」


 この龍王。自由すぎる。

 そのとき。――ポーン。

 頭の中に、久しぶりの音が響いた。


唯:「……ん?」

――――――――――

《統合時間:2400時間に到達しました》

《特殊素材《月蜜華》の統合が完了しました》

《ヴァンパイア因子との完全適合を確認》

《ヴァンパイア因子を《月因子》へ統合します》

《ヴァンパイア因子の性質は《月因子》へ継承されました》

《月因子を獲得しました》

――――――――――


唯:「…………え?」

 月蜜華。

 洞窟で食べた、あの不思議な花。


 確か、統合まで二千四百時間って――。

 頭の中で計算する。


 二十四時間で一日。

 それが百。


唯:「……百日!?」

 私、蜜を飲んでからもう百日経ったの!?


ガリア:「……ん?」

 ガリアが急に私を見た。


唯:「な、なに?」

 鼻をひくひくさせる。

 なんで嗅ぐの?


ガリア:「お前……また何か変わったの」

唯:「分かるの!?」


ガリア:「さっきまでと魔力の匂いが違う。何か混ざった……いや、馴染んだのか?」

 さすが龍王。

 システムは聞こえなくても、変化そのものは分かるらしい。


ガリア:「ガハハハハ! 面白い!」

唯:「私は自分の身体がどんどん分からなくなってるんだけど!」


 ヴァンパイアだったはずの因子が、今度は月。

 龍因子もある。

 夢魔因子もある。

 ……身体の闇鍋、順調に煮込まれてない?


ガリア:「しかし、お前は本当に血で変わるんじゃな」

唯:「まあ……そうみたい」


ガリア:「なら――」

 ガリアが、ニヤッと笑った。


ガリア:「ワシの血もやろうか?」

唯:「…………え?」


 ――ドクン。

 心臓が、大きく跳ねた。


 ガリアの血。

 龍王の――血。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 喉が鳴る。

 身体の奥が、急に熱くなる。


唯:「…………ほしい」

 …………。

 あれ?


 いま私――。

 ――ドクン。


唯:「……ほしい」

 ガリアの首筋から。


 目が――離れなくなった。


第38話 龍王に弟子入りしたら、狩りまで仕事になりました 完

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