第35話 「私のせいで街がゴールドラッシュ突入!?」
# 第35話 私のせいで街がゴールドラッシュ突入!?
森を抜け、ノストへ戻る道。
ガリアは当然のように私たちの後ろを歩いていた。
唯:「……ガリアも街に来るの?」
ガリア:「久々に人間の街へ来たんだ。酒くらい飲んでいくだろ!」
唯:「龍王ってもっと忙しくないの?」
ガリア:「細かいことはレグルスに任せてある!」
誰か知らないけど、レグルスさん。
たぶん苦労してるんだろうな。
ガリア:「ワシは酒場にいる。用が済んだら声をかけろ!」
唯:「分かった」
龍の里へ行く前に、まずは初依頼の報告。
それにエマも、ガルドたちへ話をしないといけない。
――ところが。
唯:「……なにこれ?」
ノストが見えてきたところで、私は足を止めた。
人。
人、人、人。
街門の前には長い列。
武器を背負った冒険者に、大荷物を積んだ荷馬車。つるはしを担いだ鉱夫らしき人までいる。
唯:「お祭り?」
エマ:「たぶん違うよ」
唯:「昨日こんなんじゃなかったよね!?」
私たちが街に来たのは昨日だ。
一日。
たった一日で、別の街みたいになってるんだけど!?
◇
門を抜けても状況は変わらなかった。
宿を探す冒険者。
道具を売り込む商人。
あちこちから聞こえてくるのは――洞窟の話。
冒険者:「深部に入れるようになったって本当か?」
商人:「希少鉱石が出るらしいぞ!」
冒険者:「先に見つけりゃ一攫千金だ!」
唯:「洞窟……?」
嫌な予感がする。
ギルドへ向かうと、その予感は的中した。
建物の前まで冒険者で溢れている。
掲示板には、大きな紙が貼られていた。
《ノスト近郊洞窟・大規模調査》
どうやら洞窟の異変が正式な調査案件となり、王国内の冒険者ギルドへ一斉に告知されたらしい。
近隣にいた冒険者や商人たちが、それを聞いて真っ先に集まり始めた。
唯:「一日で!?」
エマ:「冒険者って、こういう情報にはすごく早いから……」
唯:「早すぎない!?」
原因は、洞窟の奥を縄張りにしていた二体の強力な魔物。
《岩甲地竜グランガ》。
《深淵大蛇アビスラ》。
二体が死んだことで、今まで危険すぎて入れなかった深部を調査できる可能性が出た。
未探索領域。
希少素材。
魔石。
鉱石。
そして、まだ誰も知らないお宝。
つまり――。
唯:「ゴールドラッシュじゃん!」
そして私は知っている。
その二体が、どうして死んだのかを。
(……私、その二匹の血を飲んだんだけど)
正確には二匹が勝手に戦って相打ちになっただけ。
原因を作ったのは私だけど、悪くないよね?
◇
どうにかギルドへ入り、長い列に並ぶ。
やっと私たちの番になる頃には、受付のフィーネさんは若干疲れた顔をしていた。
フィーネ:「唯さん、エマさん。お帰りなさい」
唯:「ただいま!」
採ってきた薬草をカウンターへ置く。
フィーネさんが手際よく確認していく。
フィーネ:「はい。種類、数量ともに問題ありません。依頼達成です」
唯:「おおっ!」
やった!
ヴァンパイアに眷属へ誘われたり。
龍王が空から降ってきたり。
エマの魅了が発覚したりしたけど。
ようやく――。
唯:「初依頼達成!」
エマ:「ふふっ、おめでとう」
長かった。
薬草を採っただけなのに、ものすごく長かった!
フィーネ:「ところで、お二人に確認したいことがあるのですが」
唯:「はい?」
フィーネ:「先ほど、街の南側で大きな魔力反応が確認されました。空にも異常が見えたそうですが……何かご存じですか?」
私とエマは顔を見合わせる。
エマ:「……たぶん、私たちがいた場所です」
フィーネ:「え?」
ここからはエマが説明してくれた。
エマ:「森で、ヴァンパイアと思われる女性に会いました」
フィーネ:「ヴァンパイア……」
エマ:「かなり強い方だと思います。それから、その途中で――龍が降りてきました」
フィーネ:「…………はい?」
エマ:「空が割れたように見えたのは、その龍が降りてきたときです」
フィーネ:「…………」
フィーネさんが固まった。
エマ:「なぜ来たのかは分かりません。ただ、その後は被害もありませんでした」
フィーネ:「…………」
唯:「フィーネさん?」
フィーネさんが立ち上がった。
フィーネ:「少々お待ちください!」
走った。ものすごい勢いで奥へ消えていった。
唯:「ええっ!?」
初依頼の報告しただけなんだけど!?
◇
少しして私たちは、ギルド長室へ通された。
待っていたのは、筋肉質な大柄の老人。
私の顔を見るなり、じろりとこちらを見た。
バルガス:「……お前が、ガルド達が報告してきた『唯』だな」
唯:「私?」
なんか知らないところで報告されてるんだけど。
バルガス:「俺はバルガス・グレイン。この街の冒険者ギルドを預かっている」
どうやらガルドたちから、洞窟についてすでに報告を受けているらしい。
バルガス:「それで今度は、ヴァンパイアに龍か……。今日は随分と騒がしいな」
唯:「私もそう思います」
むしろ一番そう思ってます。
バルガスさんによれば、洞窟の調査はまだ始まったばかり。
今後さらに人が増える可能性が高いらしい。
(あの洞窟が……)
少し前まで、私が必死に生きていた場所。
それが今では、大勢の人間が一攫千金を求めて集まる場所になっている。
私が出てきただけで、こんなことになる?
なんだか変な気分だった。
そんな私を、バルガスさんが改めてじっと見る。
バルガス:「ガルドの報告を聞いた時点で、普通じゃない娘だとは思っていたが……」
一拍。
バルガス:「要注意人物だな」
唯:「なんで!?」
バルガス:「初依頼でヴァンパイアと龍に遭遇する新人が、普通なわけあるか」
唯:「私が呼んだんじゃないよ!?」
◇
話を終えると、ギルド内でガルドたちを見つけた。
こちらも洞窟調査の準備で忙しいらしい。
エマ:「ガルドさん。少し、お話があります」
ガルド:「ん?」
エマ:「しばらく、パーティの活動をお休みしたいです」
ガルドさんの表情が変わった。
ガルド:「……何かあったのか?」
エマ:「私の体調に、少し問題が見つかって……調べてもらうことになりました」
ガルド:「体調に?」
ガルドさんが眉をひそめる。
ガルド:「大丈夫なのか?」
エマ:「大丈夫です。今すぐ危険とか、そういうものではありません」
ガルド:「原因は分かってるのか?」
エマ:「……まだ、はっきりとは」
一瞬だけ、エマが私を見る。
それだけでガルドさんも気づいたらしい。
今度は視線が私へ向いた。
ガルド:「唯も関係してるのか?」
唯:「……うん」
ガルド:「何があった?」
少し迷った。
でも、今ここで全部を話す必要はないと思う。
唯:「私の魔力が、エマに影響してるみたい。詳しいことはまだ分からないけど……ちゃんと調べてもらう」
ガルド:「…………」
ガルドさんの顔が少し険しくなった。
ガルド:「それで、どこへ行く?」
唯:「龍の里」
ガルド:「…………は?」
唯:「キャピ?」
ガルド:「待て。なんでそこで龍の里が出てくる」
唯:「さっき降りてきた龍王に、来いって言われたから」
ガルド:「龍王に?」
唯:「うん」
ガルド:「知り合いなのか?」
唯:「今日会った」
ガルド:「今日!?」
ですよね。
私も逆の立場ならそうなる。
ガルド:「……その龍王は信用できるのか?」
唯:「たぶん」
ガルド:「たぶんでエマを連れて行くな」
唯:「ごもっともです!」
エマ:「でも、私も行きたいです」
エマがまっすぐガルドさんを見る。
エマ:「このまま分からないままにしておきたくないんです」
ガルド:「…………」
しばらくエマを見てから、ガルドさんが息を吐いた。
ガルド:「……分かった。そこまで決めてるなら止めん」
そして今度は、私を見る。
ガルド:「唯」
唯:「はい」
ガルド:「エマを頼んだぞ」
唯:「…………うん」
その言葉が、少しだけ胸に刺さった。
今、一番エマに影響を与えているのは――私かもしれない。
だからこそ。
ちゃんと元に戻したい。
◇
ギルドを出る。
相変わらず通りは人でいっぱいだった。
唯:「とりあえずガリア探そ。絶対もう飲んでるよ」
エマ:「ふふっ、そうだね」
人混みを避けながら歩く。
その途中。
2人組の女性と、すれ違った。
ただ、それだけ。
私は気にも留めず、そのまま歩いていく。
少し離れたところで――2人が少しだけ振り返った。
女性2人組:「…あれが報告書にあった例の...」
片方は露店で買った魚を黙々とかじりながら話す。
女性2人組:「…要注意人物ね」
二人はそれ以上何も言わず、人混みの中へと消えていった。
もちろん。
私はそんなことには気づかない。
唯:「ガリア、どこの酒場行ったんだろ?」
エマ:「一番お酒が多そうなところじゃない?」
唯:「それだ!」
昨日、初めて足を踏み入れた街は。
たった一日で、とんでもなく騒がしくなっていた。
(……これ、私のせいじゃないよね?)
たぶん。
きっと。
そういうことにしておこう。
**第35話 私のせいで街がゴールドラッシュ突入!? 完**
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