第34話 「私、ドラゴンみたい。…それよりエマが大変です!」
# 第34話 私、ドラゴンみたい。…それよりエマが大変です!
静かになった森。
腕の中には、気絶したエマ。
目の前には――巨大な龍王。
龍王:「お前、面白いな!」
唯:「…………キャピ」
面白くない。
私としては、一刻も早くエマを街へ連れて帰りたい。
唯:「あの……さっきの『同族』って、どういう意味?」
龍王:「そのままの意味だ」
唯:「そのままだと困るんだけど! 私、一応ヴァンパイアなんだけど?」
龍王:「それも混じっているな」
唯:「それも!?」
怖い言い方しないで!
私の身体、何種類入ってるの!?
龍王:「まあ待て。まずはその娘を寝かせてやれ。気を失っているだけだ」
よかった……。
龍王:「この姿では話しづらいな」
直後、巨大な身体が光に包まれた。
翼が消え、長い尾が収まり、輪郭がみるみる縮んでいく。
光が消れると、そこには大柄な男が立っていた。見た目は三十代くらい。
唯:「人になった!?」
龍王:「人化くらいできる」
唯:「人化って普通なの!?」
龍王:「龍族なら珍しくもない」
私、あんなに苦労して進化したのに。
龍族、人化が標準装備なの?
龍王:「そういえば名乗っていなかったな。俺はガリア・ヴァルガリア。龍族を束ねる龍王だ」
知ってる。
さっき《鑑定》したから。
唯:「私は唯」
ガリア:「それも知っている。さっき吸血鬼が呼んでいたからな」
唯:「あ、そっか」
◇
エマを木の根元に寝かせ、私はガリアと向き合った。
唯:「それで……私が同族って?」
ガリア:「正確には、お前から龍の気配がする。薄いが間違いない」
龍の気配。
心当たりが――。
唯:「……あ」
あった。めちゃくちゃあった。
唯:「私、地竜の血を飲んだことがある。《岩甲地竜グランガ》ってやつ」
ガリア:「グランガか。名くらいは知っている」
あの血を飲んだとき――。
《龍因子:0%→1%》
確かに、そう聞こえた。
唯:「たぶん、それだ……一パーセントくらい」
ガリア:「よく分からん言い方だが、龍の血を飲んだ程度で龍の性質を宿すのは普通ではないぞ」
唯:「ですよね!」
……いや、待て。
唯:「つまり私がおかしいってことじゃん!」
ガリア:「ガハハハハ! そういうことだ!」
唯:「笑うところ!?」
ガリア:「しかも龍だけではない。吸血鬼……それ以外にも妙な気配が混ざっている」
夢魔。ヴァンパイア。龍。
(私の身体、闇鍋みたいになってない?)
ガリア:「面白い!」
唯:「今日それ言われるの二人目なんだけど!」
嫌な人気が出てきた。
◇
ガリア:「それにしても、お前――魔力の扱いが下手だな」
唯:「一応、《魔力制御》は覚えたんだけど?」
ガリア:「覚えただけだろう」
唯:「ぐっ」
ガリア:「今も漏れている。気を抜けばすぐ溢れるだろう」
唯:「昨日、お酒飲んだら盛大に漏れたらしいです……」
ガリア:「ガハハハハ! そりゃ漏れるわ!」
唯:「笑わないで!」
そのとき。
エマ:「……ん……」
唯:「エマ!」
エマがゆっくり目を開いた。
エマ:「……唯?」
唯:「よかったぁ……! 大丈夫?」
エマ:「うん……ちょっとぼーっとするけど」
安心したように笑って、エマが私の手を握った。
私も自然に握り返す。
ガリア:「……ん?」
ガリアがエマをじっと見ていた。
ガリア:「娘。少し動くな」
エマ:「は、はい?」
しばらく見つめ――ガリアが眉をひそめる。
ガリア:「……この娘、お前の魔力にかなり染まっているぞ」
唯:「…………え?」
ガリア:「表面だけじゃない。かなり深く入り込んでいる。しかも精神にも干渉しているように見える」
唯:「精神……?」
ガリア:「断定はできんが――魅了に近いな」
唯:「…………魅了?」
胸の奥がざわつく。
(まさか……)
私は反射的にエマへ《鑑定》を使った。
いつもの情報。
その中に――見覚えのない表示があった。
――――――――――
《エマ》
状態:正常
特殊状態:《魅了侵食》
侵食率:63%
術者:唯
――――――――――
唯:「…………え?」
思考が止まった。
(ろく……じゅう……さん?)
半分どころじゃない。
しかも――。
術者、唯。
(私だ)
誰かに何かされたんじゃない。
私が。
知らないうちに、エマに――。
唯:「……私が、魅了してる」
エマ:「え?」
ガリア:「分かるのか?」
唯:「……うん。かなり……進んでる」
数字までは言えなかった。
でも、六十三パーセントという数字は消えてくれない。
思い出す。
私の魔力が漏れるたび、顔を赤くしていたエマ。
そして――昨夜。
『唯のことが、好き』
あの言葉。
触れた唇。
抱き合って眠った夜。
(じゃあ……あれも?)
あんなに嬉しかったのに。
急に全部が怖くなった。
唯:「……エマが私を好きなのも、私がそうさせてるってこと?」
ガリア:「そこまでは分からん」
唯:「でも、魅了されてるんでしょ?」
ガリア:「干渉されているのは間違いない。だが、感情そのものを作ったのか、元からあった感情を強めているのかは別の話だ」
私は何も言えなかった。
エマ:「唯」
エマが私の手を握る。
反射的に、少しだけ引いてしまった。
エマ:「……唯?」
唯:「ご、ごめん」
嫌じゃない。
触れられるのは嬉しい。
だからこそ、分からない。
この気持ちに応えていいのか。
エマ:「私は唯が好きだよ」
唯:「……でも」
エマ:「好き」
エマは迷わなかった。
エマ:「魅了って言われても、今の私にはこれが自分の気持ちにしか思えない。昨日も好きだった。今も好き」
信じたい。
でも――。
唯:「……魅了がなくなっても?」
エマ:「…………」
エマが止まった。
エマ:「……分からない」
胸が痛んだ。
でも、それが今できる一番正直な答えだった。
エマ:「でも、確かめたい」
唯:「エマ……」
エマ:「魅了がなくなっても私が唯を好きなら、そのときは――」
握った手に、少しだけ力が入る。
エマ:「もう一回、ちゃんと好きって言う」
唯:「…………うん」
その約束だけは。
信じてみたいと思った。
◇
ガリア:「調べる方法ならある」
唯:「……ほんと?」
ガリア:「俺たちの里に、こういう魔力の扱いに詳しい者がいる」
エマ:「龍族の……里?」
ガリア:「ここから北だ。お前も来い、唯」
唯:「私も?」
ガリア:「原因がお前なら当然だ。それに、その魔力制御ではまた同じことを起こしかねん」
否定できない。
もし私の漏らした魔力に《魅了》が混じっているなら――。
知らなかったでは済まされない。
ガリア:「龍の気配を持つ妙な吸血鬼にも興味があるしな!」
唯:「結局あなたもそれ!?」
ガリア:「ガハハハハ!」
唯:「キャピィ!」
ヴィオラといい、ガリアといい。
なんで強い人たちは私を調べたがるんだ!
でも。
エマはまだ、私の手を握っている。
今度は私も離さなかった。
(ちゃんと知りたい)
もし魅了されているなら、元に戻したい。
その結果――エマの気持ちが変わってしまったとしても。
怖い。
ものすごく怖い。
それでも。
(このままの方が、嫌だ)
エマの「好き」を疑い続けるなんて。
そんなのはもっと嫌だ。
唯:「……行く」
ガリア:「決まりだな!」
唯:「でも今すぐじゃないからね? 一度、街に戻る。初依頼の途中だし」
ガリア:「構わん」
私は足元の袋を見る。
中身は――薬草。
薬草採取に来ただけなのに。
ヴァンパイアに眷属へ誘われ。
龍王に同族認定され。
エマが私に魅了されていると分かり。
次の目的地は、龍の里。
唯:「初依頼って、もっと普通じゃないの?」
エマ:「……たぶん普通は、薬草を採って帰るだけだと思う」
唯:「だよね!」
ガリア:「ガハハハハ!」
唯:「笑い事じゃないって!」
こうして私の記念すべき初依頼は――。
薬草よりもずっと大きな問題を抱えて、終わることになった。
**第34話 私、ドラゴンみたい。…それよりエマが大変です! 完**
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